日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年門審第48号
件名

貨物船桜栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年9月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭、長谷川峯清、西村敏和)

理事官
半間俊士

受審人
A 職名:桜栄丸船長 海技免状:三級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:桜栄丸次席一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
船首船底外板に擦過傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月28日05時30分
 安芸灘の野忽那島東岸
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船桜栄丸
総トン数 699トン
全長 70.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,177キロワット

3 事実の経過
 桜栄丸は、瀬戸内海及び九州の各港間において鉱滓(こうさい)等の国内輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A、B両受審人ほか4人が乗り組み、鉱滓1,608トンを積載し、船首4.1メートル船尾5.8メートルの喫水をもって、平成14年12月27日23時45分福山港を発し、大分県佐伯港に向かった。
 ところで、A受審人は、航海中には、船橋当直を自らとB受審人及び首席一等航海士の3人による単独の4時間交替の3直制で行い、同当直時間以外と、停泊中で荷役のないときには両人とも休息をとらせ、荷役中には、首席一等航海士を単独で荷役に立ち会わせ、B受審人に睡眠時間を勘案して自主的に無理のない範囲で担当作業をさせることとしており、同月26日11時00分大分県津久見港を発して翌27日00時15分前港の水島港に錨泊するまでの航海中に8時間、同港に錨泊してから06時55分の港内シフト開始までの間、B受審人にそれぞれ休息を与えていた。
 また、B受審人は、水島港での揚荷役中に適宜船体整備作業につき、その後、15時30分水島港出港から17時30分福山港入港までの航海中、在橋して操船補助につき、同港入港後2時間ほど休息したのち、自発的に見習いとして積荷役に立ち会い、23時45分出港作業を終えて自室に退いたが、睡眠が足りていたことからすぐに寝ないで、翌28日01時30分ごろようやく就寝し、03時30分船橋当直につくために起床した。
 こうしてA受審人は、出港操船に引き続いて単独の船橋当直にあたり、03時40分大下島灯台の北北西0.5海里付近で昇橋した次直のB受審人を手動操舵につけて大下瀬戸を南下し、同時44分大下島灯台から240度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点で針路を220度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行し、同時49分大下島灯台の南西1海里付近で、B受審人と交代して降橋した。
 B受審人は、A受審人と交代して単独の船橋当直につき、安芸灘南航路(推薦航路)航路線の北側千数百メートルの海域を西行し、04時43分安芸灘南航路第3号灯浮標に並航したころ、漁船を避航するために針路を230度に転じて続航した。
 B受審人は、04時44分波妻ノ鼻灯台から017度4.0海里の地点に達したとき、漁船の避航を終えて針路を220度に戻したころ、気の緩みから眠気を催したが、前日に十分な睡眠をとっていたし、昇橋前にも2時間ほど寝たのでまさか居眠りすることはあるまいと思い、操舵室内を歩き回るなり、冬の冷たい外気に当たるなりして居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、操舵スタンドに寄り掛かっていたところ、その後、ジャイロコンパスの上に顔を乗せた姿勢でいつしか居眠りに陥った。
 B受審人は、05時07分転針予定地点の波妻ノ鼻灯台正横を通過したことに気付かないまま、操舵スタンドに顔を伏せて居眠りを続け、原針路、原速力で進行中、05時30分野忽那島灯台から330度410メートルの地点において、桜栄丸は、野忽那島東岸の砂浜に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 A受審人は、自室で休息していたところ、B受審人から報告を受けて乗揚を知り、急ぎ昇橋して事後の措置にあたった。
 乗揚の結果、船首船底外板に擦過傷を生じたが、救助船によって引き下ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、安芸灘を西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、野忽那島東岸に向首、進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、単独で船橋当直にあたり、安芸灘を西行中、気の緩みから眠気を催した場合、操舵室内を歩き回るなり、冬の冷たい外気に当たるなりして、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、睡眠が足りていたし、昇橋前にも2時間ほど寝ているので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、操舵スタンドに寄り掛かったまま、いつしか居眠りに陥り、野忽那島東岸に向首、進行して乗揚を招き、桜栄丸の船首船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION