(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月26日11時50分
山口県徳山下松港第3区
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船アケボノ |
総トン数 |
28,099トン |
載貨重量 |
46,001トン |
全長 |
179.88メートル |
幅 |
32.20メートル |
深さ |
18.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
9,480キロワット |
3 事実の経過
アケボノは、船橋前面から船首端までの長さ約145メートルの右回り1軸の推進器を備えた船尾船橋型油送船で、ノルウェー王国の船長Hほか22人が乗り組み、ナフサ34,114トンを積載してほぼ満載状態とし、船首10.11メートル船尾10.31メートルの喫水をもって、平成14年10月25日17時00分大韓民国オンサン港を発し、関門海峡を経由して翌26日08時05分同海峡東口付近にあたる部埼沖合の水先人乗船地点に至り、A受審人が乗船のうえ、同人の嚮導(きょうどう)のもとに山口県徳山下松港第3区の大浦5号桟橋(以下「5号桟橋」という。)に向かった。
ところで、大島半島西岸に設けられた出光興産株式会社徳山製油所の専用桟橋である5号桟橋に関して、同所作成のバース案内には載貨重量約10万トン最大喫水11.18メートルの着桟例が示されており、その操船方法は2隻の引船を併用しながら徐々に減速して同桟橋に向かい、5号桟橋前面沖合200メートル付近に至ったところで行きあしを完全に止め、引船により反転させたのち平行移動させ着桟するというものであった。
A受審人は、昭和54年10月11日に内海水先区の免許を取得し水先業務に従事していたもので、それまで徳山下松港において数多くの船舶を嚮導し、5号桟橋への着桟も3回経験したことがあってバース案内の着桟例も知っていた。そして、今回アケボノの初めての嚮導に先立ち、過去の着桟方法の控えを参考にするとともに、5号桟橋前面海域の海図記載水深が12メートル以上あって着桟予定時刻が満潮時にあたり、潮高が2.95メートルで同船の喫水からして余裕水深に問題がないことを調査し、アケボノ級であれば微速力前進で5号桟橋に向かい、その前面沖合900メートルばかりのところから右舵15度をとれば旋回半径約440メートルをもって反転できるものと判断し、もし舵効のみによる回頭が難しいときには引船の使用も考慮に入れて過去の着桟方法にほぼ倣った操船を行うこととし、業務用参考図には予定の旋回針路線とともに回頭開始、原針路から90度回頭及び反転終了の各地点を記入のうえ、それらの地点における針路目標や船位確認目標の方位を水先記録にメモするなど着桟計画を立てていた。
なお、アケボノの操縦特性表には、満載状態で半速力前進9.7ノット微速力前進5.6ノットとあり、その半速力前進中に右舵35度をとると縦距442メートル横距378メートルで、原針路から2.2分後には90度4.5分後には180度それぞれ回頭すること、また、最大有効舵角が70度であることなどが示されていた。
A受審人は、嚮導を開始して周防灘を東行したのち、野島南方沖合から徳山下松港に向かって北上を始め、11時17分同港港界線付近に至って機関を全速力前進から半速力前進とし、同時21分微速力前進として速力が10ノットばかりとなったとき、徳山湾入口にあたる岩島と洲島との間でバースマスターを乗船させた。
11時24分A受審人は、機関を半速力前進に戻したところで、定格出力2,280キロワットの主機関とZ型プロペラ2機を備え前進42トン後進38トンの曳航力を有する引船豊島丸にアケボノの右舷船首部から30メートルの引き綱を、同2,647キロワットの主機関と同型プロペラ2機を備え前進52トン後進46トンの曳航力を有する引船徳山丸にアケボノの右舷船尾部から80メートルの引き綱をそれぞれとらせて併走させ、両引船に対して5号桟橋沖合から大回りして出船左舷付けする旨をトランシーバーにより連絡し、ホルス船長、機関操縦装置の操作にあたる三等航海士及び手動操舵にあたる操舵手などが在橋するなかで操船の指揮をとりながらアケボノ乗組員に対して操船号令を英語で令し、11時31分半機関を微速力前進として北上を続けた。
11時35分A受審人は、蛇島(51メートル)山頂三角点(以下「三角点」という。)から232度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達し、徳山下松港徳山第2号灯浮標を左舷正横方に見るころ、予定針路線よりやや西寄りであったので針路を065度に定め、引き続き機関を微速力前進としたまま7.3ノットの対地速力で進行した。
ところが、11時42分半A受審人は、三角点から220度1.05海里の、5号桟橋沖合約950メートルの地点に至り、回頭目標の同桟橋ローディングアームを右舷正横前20度ばかりに見るようになったとき、右舵15度を令し着桟態勢に入ったが、1分ほど経っても回頭角速度が遅いことを知り、右舵20度を、その後右舵35度を順に令したものの、当初の小舵角の影響、浅水影響や推進器回転方向などの諸影響を受け大きな旋回径となって予定の旋回針路線からかなり北方に偏するようになり、所期の舵効が得られないことを認めたものの、旋回水域を広くとったので何とかそのまま回頭することができると思い、速やかに機関を使い減速のうえ引船を有効に活用して大角度の回頭措置をとることなく、東方の陸岸に向かって著しく接近する状況となって続航した。
こうして、A受審人は、舵の使用のみにより右転を続けていたところ、11時48分船首が155度を向いたころ、豊島丸から船首少し右の錨泊中の台船との距離が150メートルに接近した旨の報告を受け、豊島丸に対して4時方向に引き方用意を指示し、間もなく同船から用意できた旨の報告があったので機関を微速力後進、続いて半速力後進、更に3時方向に全速力後進を、一方、徳山丸に対して6時方向に引き方用意の指示に続き全速力後進をそれぞれ指示するとともに、同時49分半機関停止に続き後進に令したが及ばず、11時50分三角点から190度1,840メートルの地点において、アケボノは、190度に向首したとき、少しの残速力をもって5号桟橋北方の浅所に乗り揚げ、その際付近に錨泊中の台船のアンカーワイヤに接触した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は高潮時であった。
乗揚の結果、左舷船首部船底外板に擦過傷を生じるとともに、台船のアンカーワイヤ3本を切断した。
(原因)
本件乗揚は、山口県徳山下松港第3区において、大島半島西岸に設けられた5号桟橋に右回頭して着桟する際、機関を使って減速のうえ操船支援の引船の有効活用による大角度の回頭措置が不十分で、同桟橋北方の浅所に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、山口県徳山下松港第3区において、操船支援の引船2隻を伴いほぼ満載状態のアケボノを嚮導して北上し、大島半島西岸に設けられた5号桟橋に右回頭して出船左舷付けで着桟する場合、所期の舵効が得られなかったのであるから、速やかに機関を使い減速のうえ引船を有効に活用して大角度の回頭措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、旋回水域を広くとったので何とかそのまま回頭することができると思い、機関を使い減速のうえ引船を有効に活用して大角度の回頭措置をとらなかった職務上の過失により、大きく旋回したまま同桟橋北方の浅所に向かって進行して乗揚を招き、左舷船首部船底外板に擦過傷を生じさせるとともに、付近に錨泊中の台船のアンカーワイヤを切断させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。