(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月6日00時05分
備讃瀬戸 牛島東岸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船ニッコウ6 |
総トン数 |
497トン |
全長 |
75.94メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
3 事実の経過
ニッコウ6は、主として瀬戸内海の諸港間におけるコンテナ輸送に従事する貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、コンテナ貨物250トンを積載し、船首2.20メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成15年2月5日17時05分兵庫県神戸港を出港し、愛媛県松山港に向かった。
A受審人は、神戸港での約4時間の停泊中に休息をとることができなかったものの、同港に至るまでの約20時間の航海では船橋当直を一等航海士と5時間交替として適宜休息をとっていたので、松山港まで12時間の航海も当直を6時間ずつ担うことに決め、出港操船を終えて最初の当直を同航海士に委ね、降橋して食事を済ませたのち、自室で就寝した。
23時20分A受審人は、備讃瀬戸東航路の宇高西航路との交差部を西航中、4時間ほどの睡眠から目覚めて昇橋し、一等航海士より自動操舵を使用していること及び機関を全速力前進にかけていることを引き継いで当直に就き、同東航路の右側端に寄って同航船を追い越しながら西航を続けた。
23時48分少し前A受審人は、小瀬居島灯台から337度(真方位、以下同じ。)1,670メートルの地点で、備讃瀬戸北航路との接続部に近づいたころ、針路をこれから差し掛かる北備讃瀬戸大橋の下で同北航路中央部を通るよう247度に定め、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行し、程なくして同北航路に入航した。
23時54分半A受審人は、北備讃瀬戸大橋の下を通過し、寒気を感じて防寒ズボンを取りにいったん自室に降り、同時55分半操舵室に戻って同ズボンをはき、後方を見たところ、自船に後続する旅客船を認め、いずれ追い越されるであろうことを予測して、このまま備讃瀬戸北航路を斜航して南側境界に寄り、その手前で同航路に沿って転針するつもりで、操舵室左舷側に設置されているレーダーの左横に背もたれのないいすを運んでこれに腰掛け、同じ針路、速力で続航した。
間もなく、A受審人は、平素から通航し慣れた海域であるうえ、前方には気掛かりな他船も見当たらなくなり、気が緩むと共に防寒ズボンをはいて体が暖まり次第に眠気を催すようになったが、引き続きいすに腰掛けて右肘をあてがったレーダーに寄り掛かり、身体を動かし努めて気を引き締めるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、ぼんやりと前方を見ているうち、いつしか居眠りに陥った。
翌6日00時00分A受審人は、備讃瀬戸北航路の南側境界に達したものの、このことに気付かず、同航路に沿って針路を転じないまま、同航路外にあたる香川県牛島に向首して進行中、00時05分牛島灯標から150度210メートルの地点において、ニッコウ6は、原針路、原速力で、牛島東岸に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船首部船底外板に破口と亀裂とを伴う凹損及び右舷側船底外板に擦過傷を生じたが、救助船の来援を得て引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、備讃瀬戸北航路を西航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同航路外にあたる牛島に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、いすに腰掛けて備讃瀬戸北航路を西航中、平素から通航し慣れた海域であるうえ、前方には気掛かりな他船も見当たらなくなり、気が緩むと共に防寒ズボンをはいて体が暖まり次第に眠気を催すようになった場合、居眠り運航とならないよう、身体を動かし努めて気を引き締めるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、引き続きいすに腰掛けて右肘をあてがったレーダーに寄り掛かり、身体を動かし努めて気を引き締めるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、針路を転じる予定の備讃瀬戸北航路の南側境界に達したことに気付かず、同航路外にあたる牛島に向首したまま進行して同島東岸への乗揚を招き、船首部船底外板に破口と亀裂とを伴う凹損及び右舷側船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。