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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年広審第60号
件名

貨物船東ソ丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年9月25日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、西林 眞、佐野映一)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:東ソ丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)

損害
船首船底外板に凹損及び擦過傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月15日15時35分
 瀬戸内海 周防灘東部室津港西岸
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船東ソ丸
総トン数 297トン
全長 52.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 東ソ丸は、鋼製貨物船で、船長T及びA受審人ほか2人が乗り組み、次亜塩素酸ソーダ230トンを載せ、船首1.75メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成14年12月15日13時10分山口県徳山下松港を発し、岡山県岡山港に向かった。
 ところで、当時の運航状況は、徳山下松港を積荷基地に瀬戸内海各港及び三重県四日市港を揚地とするソーダ輸送に従事し、その所要航海時間が片道12時間から33時間及び同荷役が乗組員全員で行われ、船橋当直を機関長を除く3人による単独4時間3直制で行われていた。
 また、A受審人は、約6年前からマンニング会社に派遣職員として登録し短期間の乗船を繰り返していたところ、同月10日から1週間乃至10日間の予定で東ソ丸に乗船していた。そして出航前日の午後半日休暇を得て帰宅し、午後10時ころ床に就き当日午前3時半ころ起床して、帰船後自室で2時間ほど待機したのち、同6時半ころから荷役桟橋へのシフト作業に就き、その後全員で荷役作業を行い、昼食を済ませてから出航した。
 13時30分A受審人は、出航作業を終了後まもなく昇橋し、出航から操船にあたっていた船長と交替して単独で船橋当直に就き、その後山口県牛島北方を経て上関海峡に向かう予定で佐合ノ瀬戸を東行した。15時23分亀岩灯標から116度(真方位、以下同じ。)430メートルの地点で、針路を116度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力とし、操舵スタンドの後方に立った姿勢で手動操舵により進行した。
 ところが、定針したころ、A受審人は、すでに起床してから長時間経過し、年齢による体力及び気力の衰えもあって疲労気味の状態となり、しかも陽が差し込む船橋を密閉して暖房したまま当直にあたっていたことから、立った姿勢で手動操舵にあたっていても自然に気力が低下して無意識のうちに朦朧とした状態や居眠りに陥るおそれがあった。しかし、そのような状況下にもかかわらず、換気や集中して当直の維持に努めるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、それまでの経験から上関海峡に向かう通航に慣れたところで更に付近には漁船や反航船も見かけなかったこともあって自然と気が弛み、そのままの状態で当直を続けているうちに、一時的に朦朧とした状態に陥ってしまった。
 こうして、15時32分A受審人は、右舷側450メートルで鍋島に並航して上関海峡に向かう予定転針地点に達したことに気付かず、予定の転針が行われないまま室津港西岸に向かって続航中、同時35分少し前朦朧とした状態から目覚めるや船首至近に陸岸が迫っていることに気付き、慌てて機関を全速力後進に切り換えたが間に合わず、15時35分亀岩灯標から166度2.3海里の地点において、東ソ丸は、原針路、原速力のまま室津港西岸に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、東ソ丸は、船首船底外板に凹損及び擦過傷を生じたが、引船の来援を待って自力離礁した。
 T船長は、自室で上関海峡通峡に備えてそろそろ昇橋しようとしていたところ、突然機関後進の振動を感じて急いで甲板上に飛び出したものの、砂浜に乗り揚げたことを知って事後の措置にあたり、東ソ丸は引船の来援を得て自力離礁した。

(原因)
 本件乗揚は、周防灘東部において、徳山下松港から佐合ノ瀬戸を経て上関海峡に向かう際、居眠り運航の防止措置が不十分で、室津港西岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、周防灘東部において、徳山下松港から佐合ノ瀬戸を経て上関海峡に向かう際、単独で船橋当直にあたる場合、起床から長時間経過し年齢による体力及び気力の衰えから疲労気味でしかも陽が差し込む船橋を密閉して暖房した状態であったから、無意識のうちに朦朧となったり居眠りに陥らないよう、換気や集中して当直の維持に努めるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、上記の状態の下で慣れた航路のうえ漁船や反航船も見かけなかったことから自然と気が弛み、換気や集中して当直の維持に努めるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、朦朧とした状態に陥り、上関海峡に向かう予定の転針が行われないまま進行して、室津港西岸への乗揚を招き、船首船底外板に凹損及び外板全般に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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