(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月18日17時45分
伊万里湾口黒島北西岸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船正洋丸 |
総トン数 435トン |
全長 50.09メートル |
機関の種類 ディーゼル機関 |
出力 441キロワット |
3 事実の経過
正洋丸は、船尾船橋型の鋼製砂利及び石材等運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、捨石約500立方メートルを積載し、船首3.4メートル船尾4.2メートルの喫水で、平成14年10月18日16時05分長崎県平戸島の宝亀浦を発し、佐賀県星賀港に向かった。
ところで、正洋丸は、主に長崎県福島及び平戸島で積荷を行い、伊万里湾を中心とした九州北西部で揚荷し、夜間は星賀港に帰港して停泊していたことから、乗組員は連続して6時間以上の休息を取ることができた。そして、同船は、数日間、08時30分ごろ星賀港を出港し、前日宝亀浦で積み込んだ捨石を同県鷹島に揚げ、その後、宝亀浦に寄せて捨石を積み込み、19時ごろ星賀港に帰港して翌朝まで停泊する航海を続けていた。
一方、A受審人は、一等航海士として雇い入れられていたが、船長の叔父で、実質上、船長としての職務をとっており、この間、朝6時ごろに起床して食事をとったあと正洋丸に乗り組み、星賀港を出港してから帰港するまでの間、航行中は単独の船橋当直に当たり、荷役中は主として船体の移動作業などに従事しており、乗船中に休息をとる時間がほとんどなく、帰宅して夕食を済ませたのち、24時ごろ就寝する生活を続けていた。
A受審人は、発航操船に引き続いて単独の船橋当直に就き、機関を全速力前進に掛け、8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行し、平戸瀬戸に差し掛かって手動操舵とし、約4ノットの順潮流に乗じて続航した。
16時52分A受審人は、貝瀬灯台から241度(真方位、以下同じ。)8.8海里の地点で、針路を黒島北端に向く056度に定めて自動操舵とし、8.5ノットの速力で、いすを舵輪の後方に置き、これに座って船橋当直を続けた。
A受審人は、17時20分貝瀬灯台から246度4.8海里の地点に達したとき、右舷前方に前路を左方に横切る大型貨物船を認め、立ち上がって同船の動静監視を行い、同時30分前方1海里ばかりのところを無難に航過することを知り、再びいすに腰を掛けたが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、その後、身体を動かすなど居眠り運航の防止措置をとることなく、操舵スタンドに頬杖(ほおづえ)をつき、楽な姿勢で船橋当直を続け、周囲に他船が認められなかったことから気が緩み、いつしか居眠りに陥った。
正洋丸は、同じ針路及び速力で続航中、17時45分貝瀬灯台から270度1.4海里の黒島北西岸に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、船底全般に破口を伴う凹損等を生じ、のち、廃船処理された。
(原因)
本件乗揚は、伊万里湾北方沖合を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、黒島北西岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、伊万里湾北方沖合を東行中、単独の船橋当直に当たる場合、楽な姿勢で同当直を続けると、気の緩みから居眠りに陥ることがあるから、居眠りしないよう、身体を動かすなどして、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いすに腰を掛け、操舵スタンドに頬杖をつき、楽な姿勢のまま船橋当直を続けているうち、いつしか居眠りに陥り、黒島北西岸に向首進行して乗揚を招き、船底外板全般に破口を伴う凹損等を生じさせ、のち廃船に至らしめた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。