(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月7日03時20分
鹿児島県奄美大島ウツ埼東岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三裕清丸 |
総トン数 |
9.1トン |
全長 |
14.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
183キロワット |
3 事実の経過
第三裕清丸(以下「裕清丸」という。)は、船体後部に操舵室を設けたFRP製漁船で、沖縄県糸満漁港を基地として沖縄島周辺漁場で周年まぐろ延縄漁業に従事していたところ、平成4年1月30日に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、活餌積込みの目的で、同14年6月7日00時40分鹿児島県名瀬港を発し、同県山川港に向かった。
これより先、A受審人は、前月29日午前糸満漁港を発し、同日夕刻沖縄県久米島北西方沖合の漁場に至り、翌日早朝から操業を開始し、付近海域を移動しながら1日につき5時間ほど休息をとるだけで連日操業を繰り返し、翌6月5日21時00分操業を終えて漁場を発進した。そして、翌6日09時00分水揚げ地の名瀬港に入港し、漁獲物の水揚げ作業に続いて食料などの仕込み作業を済ませたあと20時00分ごろ外出し、サウナに行って入浴後ビールをジョッキ2杯飲みながらテレビを見るなどして過ごして23時00分ごろ帰船し、間もなく休息したが、翌々7日00時30分ごろ起きて出港準備にかかった。
A受審人は、漁場往復航の1人での操舵操船と1週間の連続操業で疲労が蓄積し、睡眠不足の状態になっていたうえ、名瀬港停泊中は前示作業で十分な休息時間がとれず、飲酒の影響も重なり、このまま発航すると、居眠りに陥るおそれがあったが、眠気を感じなかったので大丈夫と思い、発航時刻を遅らせて休息をとるなど、居眠り運航の防止措置をとらないで、前示のとおり発航した。
発航後、A受審人は、操舵室後部の舵輪後方で、前方がよく見えるよう、踏み板の上に立って天窓から顔を出し、遠隔管制器を手に持って遠隔操舵で港内を北上した。
ところで、A受審人は、自船に装備されている手動、自動及び遠隔操舵のうち、いつも遠隔管制器を使っての遠隔操舵で操舵を行っていた。同器は、そのダイヤルを右に回すと舵が右にとられ、同ダイヤルを中央の位置に戻せば、そのまま自動操舵となり直進できるようになっていた。
00時55分半A受審人は、名瀬港沖防波堤仮設灯台を270度(真方位、以下同じ。)20メートルに見る地点に達したとき、針路を357度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で遠隔操舵で進行した。
00時56分半A受審人は、名瀬港立神灯台を左舷側510メートルに航過したとき、航海計器類が設置されている操舵室前部に移動し、その右舷側側壁に背をもたせかけて座り、手元に遠隔操舵の遠隔管制器を置いて舵中央としたまま、同じ針路、速力で続航したところ、広い水域に出てほっとして気が緩んだことや連続操業による疲労、睡眠不足、名瀬港停泊中の休息不足などから間もなく眠気を催し、やがて居眠りに陥った。
01時36分半A受審人は、名瀬港立神灯台から001度3.9海里の地点に達したとき、いったん目覚め、意識がもうろうとした状態で、針路を目的地に向けるため遠隔管制器を手に持ち、同器のダイヤルを右に回して舵を右にとるつもりが、同ダイヤルを左に回したあと中央の位置に戻した。そのため、針路が229度となって名瀬港西南西方約8海里のウツ埼東岸に向首する状況となったが、再び居眠りに陥って、この状況に気付かないまま進行中、03時20分大山埼灯台から105度1,200メートルの地点において、裕清丸は、原針路、原速力のまま、ウツ埼東岸付近の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の南南東風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
乗揚の結果、船底キールに亀裂(きれつ)、両舷ビルジキールの一部に欠損、球状船首に破口、推進器翼及び同軸に曲損を生じたが、救助船により引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、鹿児島県名瀬港を同県山川港に向けて発航する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、名瀬港沖合を北上中、目的地と異なる方向に針路が転じられ、名瀬港西南西方のウツ埼東岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、鹿児島県名瀬港を同県山川港に向けて発航する場合、漁場往復航の1人での操舵操船と1週間の連続操業で疲労が蓄積し、睡眠不足の状態になっていたうえ、名瀬港停泊中は漁獲物の水揚げ、食料などの仕込み作業で十分な休息時間がとれず、飲酒の影響も重なり、このまま発航すると、居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、発航時刻を遅らせて休息をとるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、眠気を感じなかったので大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、発航後居眠りに陥り、意識がもうろうとした状態で目的地と異なる方向に針路を転じ、名瀬港西南西方のウツ埼東岸に向首していることに気付かないまま進行して乗揚を招き、裕清丸の船底キールに亀裂、球状船首に破口、推進器翼及び同軸に曲損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。