（事実）
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月17日04時20分
瀬戸内海西部 大崎上島北西岸
2 船舶の要目
| 船種船名 |
引船第十神峯山丸 |
| 総トン数 |
19トン |
| 全長 |
17.00メートル |
| 機関の種類 |
ディーゼル機関 |
| 出力 |
588キロワット |
3 事実の経過
第十神峯山丸（以下「神峯山丸」という。）は、鋼製引船で、広島県大崎上島北西岸に位置する鮴崎港矢弓を基地として主に同県呉港ほか香川県丸亀港や坂出港方面へのバージの曳航や港湾工事作業に従事していたところ、A受審人（昭和55年6月一級小型船舶操縦士免許取得）と妻の2人が乗り組み、船首1.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成15年2月17日04時10分同基地を発し、鮴崎港垂水からバージを曳航して同島東岸沿いを南下する予定で、呉港広区に向かった。
ところで、鮴崎港矢弓が位置する大崎上島北西側は、対岸の船島及び生野島とによって可航幅の狭い瀬戸（以下、単に「瀬戸」という。）を形成し、特に昼間はフェリー等の通航船の多いところであった。その結果、A受審人は、それまでの通航経験から他船の有無に係わらず瀬戸の右側を通航することが半ば習慣のようになっていた。しかし夜間の通航の際には、瀬戸両岸際の浅礁等を識別することが難しく、夜標として前示基地の北東方約0.8海里に位置する鮴崎港盛谷3号防波堤灯台（以下「防波堤灯台」という。）と瀬戸の北口に設けられた灯浮標のみで、その他は瀬戸両岸付近の街路灯や人家の灯更には島陰に頼らざるを得ない状況であったが、夜になるとフェリー等の通航船もなく、瀬戸の中央付近を航行することが容易であった。
ところが、A受審人は、発航してまもなく、04時14分防波堤灯台から231度（真方位、以下同じ。）700メートルの地点に至り、瀬戸を北上する針路を定めるとき、未明で瀬戸両岸際の浅礁等を識別することも、また手動操舵ではレーダーを監視することも難しい状況にも係わらず、夜標等を船首目標にし加えて両島沿岸の街路灯や人家の灯更に島陰を利用した瀬戸の中央を通る針路を選定することなく、それまでの昼間における右側通航の習慣から他船の有無に係わらず、半ば瀬戸の右側に寄って航行することが癖のようになり、無意識のうちに針路を瀬戸の右側に寄り過ぎた042度に定め、鍋島西側際の浅礁域に向かう状況となったことに気付かず、機関を全速力前進にかけて6.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
こうして、A受審人は、他事を色々思い巡らせながら昼間と同じような大崎上島側に寄り過ぎた針路で続航し、04時20分神峯山丸は、防波堤灯台から026度440メートルにあたる鍋島西側付近の浅礁に乗り揚げ、擦過した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、神峯山丸は、船尾部船底外板に擦過傷及び推進器翼端に損傷を生じたが、のち修理された。
（原因）
本件乗揚は、未明、広島県大崎上島と生野島間の瀬戸を北上する際、針路の選定が不適切で、大崎上島側に接近し過ぎて同島北西岸沖の鍋島西側浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
（受審人の所為）
A受審人は、未明、大崎上島と生野島間の瀬戸を北上する場合、両島岸際のいずれの浅礁等にも接近し過ぎないよう、夜標等を船首目標にし加えて両島沿岸の街路灯や人家の灯更には島陰等を利用して瀬戸の中央を通る針路の選定を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、未明ゆえ瀬戸両岸際の浅礁等を識別することが難しい状況にも係わらず、昼間行き交うフェリーなど通航船との右側通航の習慣から無意識のうちに瀬戸の右側にあたる大崎上島側に寄り過ぎ、瀬戸の中央を通る針路の選定を行わなかった職務上の過失により、大崎上島北西岸沖の鍋島西側浅礁に向首進行して、同浅礁への乗揚を招き、右舷側船尾外板に擦過傷及び推進器端に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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