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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年函審第22号
件名

漁船第三十八福聚丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年8月29日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(黒岩 貢、古川隆一、野村昌志)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第三十八福聚丸船長兼漁労長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
船底外板全般にわたって凹損及び擦過傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年12月28日03時30分
 千島列島ロヴーシキ岩礁付近
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八福聚丸
総トン数 185トン
全長 41.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第三十八福聚丸(以下「福聚丸」という。)は、はえなわ漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、平成13年12月24日22時30分北海道花咲港を発し、25日15時30分択捉島南東方海域に至ってはえなわ漁を始め、まだらなど13トンを漁獲したところで漁場を移動することとし、27日06時30分船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、ウルップ島南西端から159度(真方位、以下同じ。)18.0海里の地点を発進し、千島列島南東側を同列島北部に向け北東進した。
 ところで、A受審人は、船長兼漁労長の職に就いて3年半ばかりの経験しかなく、自らの判断で次の漁場を決定することに躊躇しており、無線で他船の漁労長の意見を聞いてから決めようと、とりあえず千島列島北部に向け発進したものであった。
 A受審人は、択捉島南東方海域での操業中、船長兼漁労長として操業全般の指揮を執りつつ、その一部を漁労長の経験を有する通信士に行わせて身体を休め、漁場移動する際の航海当直も通信士との2直制で行うなど、十分な休息がとれる就労体制をとっていたが、発進後、次の漁場のことが頭から離れなかったため、通信士に当直を任せて休息しても3時間ばかりしか寝付けず、09時30分には当直に就き、15時30分に交代して休息したものの、19時30分には起きて睡眠不足のまま当直に就いた。
 28日01時45分A受審人は、マトゥア島東方34海里の北緯48度10.5分東経154度02.7分の地点に達したとき、依然、漁場を決めかねていたが、千島列島北西側海域も候補地の一つであったことから、いったんマトゥア島北東35海里付近に存在するロヴーシキ岩礁の西側に向け、同岩礁の12海里手前の地点に至るまでに漁場を決定したうえ、同地点で次の漁場に向けることとし、針路を同岩礁の南西方1海里に向く336度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.1ノットの対地速力で自動操舵とし、折からの西風により5度右に圧流されて進行した。
 定針後A受審人は、操舵室右舷側のいすに腰をかけた姿勢で当直に当たっていたところ、01時55分北緯48度12.7分東経154度02.0分の地点に至ったとき、睡眠不足と長時間の当直とにより強い眠気を催したが、ロヴーシキ岩礁手前12海里の地点に達するまであと1時間ばかりであり、同地点で次の漁場に向けたあと通信士と当直を交代するつもりであったことから、それまで眠気を我慢できるものと思い、休息中の通信士を起こして2人で当直に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、右への圧流によりロヴーシキ岩礁に至る進路となって続航中、まもなく居眠りに陥った。
 こうして福聚丸は、02時41分ロヴーシキ岩礁南南東方12海里の地点に至っても次の漁場に向ける転針が行われずに進行中、03時30分原針路、原速力のままロヴーシキ岩礁南東部の北緯48度32.2分東経153度51.5分に位置する浅瀬に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力5の西風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の初期に当たり、波高は約1メートルであった。
 乗揚の結果、福聚丸は、左舷船底外板の一部に亀裂が発生し、船底外板全般にわたって凹損及擦過傷を生じたほか、推進器各部を損傷したが、自力離礁し、修理のため操業を中断して花咲港への帰途に就いた。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、千島列島マトゥア島北東方海域を漁場移動中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同島北東方35海里のロヴーシキ岩礁に至る進路のまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、千島列島マトゥア島北東方海域を漁場移動中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、休息中の通信士を起こして2人で当直に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、当直交代地点まであと1時間ばかりなので、それまで眠気を我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥ってロヴーシキ岩礁南東部の浅瀬への乗揚を招き、船底外板、推進器等に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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