(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月21日12時00分
鹿児島県徳之島亀徳港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船松田丸 |
総トン数 |
2.5トン |
登録長 |
8.15メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
50 |
3 事実の経過
松田丸は、船体後部に操舵室を設けた、レーダーを備えない一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、昭和50年11月28日に二級小型船舶操縦士(5トン限定)免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、さわら漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成14年7月21日03時00分鹿児島県徳之島亀徳港を発し、05時00分同港東方約12海里の漁場に至って操業を開始し、その後北方へ移動し、さわら約120キログラムを獲たところで漁を終え、11時35分亀徳港新南防波堤灯台(以下「新南防波堤灯台」という。)から062度(真方位、以下同じ。)3.9海里の地点を発進して帰途についた。
ところで、亀徳港は、徳之島南東岸に位置し、東南東方に向かって開口し、同港港口の南側に新南防波堤及びこれに接続する南防波堤があり、新南防波堤突端に新南防波堤灯台が設けられ、その北東方約300メートルのところには北防波堤があって、新南防波堤南側と北防波堤北側には陸岸から300ないし700メートル沖合にかけて干出さんご礁が拡延していた。A受審人は、日ごろ亀徳港東方沖合で操業していたので、これら干出さんご礁の存在について十分に承知しており、漁場から帰航する際には、同礁外縁で生じる白波を目視で確かめ、これを避けて、その後北防波堤や新南防波堤の方に向けるようにしていた。
発進したとき、A受審人は、針路を亀徳港北東方約1,600メートルの徳和瀬の浜に向首する250度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。そして、その後同浜沖合の干出さんご礁外縁の白波を目視し、これに800メートルまで接近したところで亀徳港の北防波堤の方に向け針路を転じるつもりで続航した。
11時48分A受審人は、新南防波堤灯台から057度2.3海里の地点に達し、前方の干出さんご礁外縁まで1.3海里に接近したとき、前方には同礁外縁で生じる白波がまだ見えていなかったので、少しの時間なら大丈夫と考え、操舵室を離れ、後部甲板で漁具の片付けと同甲板の洗浄作業を始めた。
11時56分A受審人は、前方の陸岸まで0.9海里、その沖合の干出さんご礁外縁まで800メートルに接近し、同礁外縁で生じる白波を視認できる状況で、亀徳港の北防波堤の方に向け針路を転じる地点に達したが、後部甲板で同甲板の洗浄作業などに専念していて、前方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、転針の措置をとらないまま、同礁外縁付近の浅礁に著しく接近する状況で進行した。
こうして、松田丸は、同じ針路、速力で続航中、12時00分わずか前A受審人が前方至近に白波を認め、慌てて機関を中立にしたが効なく、12時00分新南防波堤灯台から040度1,900メートルの地点において、原針路、原速力のまま、亀徳港北東方沖合の干出さんご礁外縁付近の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、推進器翼、同軸及び舵に曲損等を生じたが、救助船により引き下ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、鹿児島県亀徳港北東方沖合を陸岸に向首する針路で航行する際、見張り不十分で、転針が行われず、同港北東方沖合の干出さんご礁外縁付近の浅礁に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島県亀徳港北東方沖合を陸岸に向首する針路で航行する場合、前方の干出さんご礁外縁で生じる白波を目視で確かめたあと、目的地に向け転針するつもりでいたのであるから、同白波を早期に視認できるよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後部甲板で同甲板の洗浄作業などに専念していて、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、転針の措置をとらないまま、同港北東方沖合の干出さんご礁外縁付近の浅礁に著しく接近して乗揚を招き、松田丸の推進器翼、同軸及び舵に曲損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。