(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月31日04時00分
沖縄県伊江島南方中ノ瀬
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八清伸丸 |
総トン数 |
19.65トン |
登録長 |
14.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
120 |
3 事実の経過
第十八清伸丸(以下「清伸丸」という。)は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人及び甲板員1人が乗り組み、食料、燃料等積込みの目的で、船首0.7メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成14年7月29日12時00分鹿児島県枕崎港を発し、沖縄県那覇港に向かった。
ところで、A受審人は、昭和59年8月24日に一級小型船舶操縦士免許を取得し、漁船の甲板員として乗り組んだのち、同60年から船長職を執り、平成8年7月に中古の清伸丸を購入して船長として乗り組み、専らアメリカ合衆国グアム島アプラ港を基地としてフィリピン人を乗せ、フィリピン諸島東方海域でまぐろ延縄漁に従事し、定期及び中間検査などのときには日本に帰り、国内のドックに入渠し、同検査などを行っていたところ、同14年7月枕崎港での定期検査終了後前示のとおり発航した。
発航する際、A受審人は、それまで枕崎港から那覇港への航海の経験は3年ほど前の1度しかなかったうえ、両港間の海図としては縮尺250万分の1の航洋図(海図第1001号(東京湾至ルソン海峡))しか所持しておらず、目的地に至るまでの水路事情はよく分からなかったが、レーダーやGPSを使用するとか、陸岸などを目測するとかして航行すれば大丈夫と思い、発航に先立ち、必要な大縮尺の海図W226(沖縄群島)やW222B(沖縄島北部)などを入手し、航路付近の航路標識や浅礁の位置、水深の状況を確かめるなどの水路調査を十分に行わなかったので、沖縄島北部本部半島北西端備瀬埼と伊江島間の可航幅約1.5海里の伊江水道南西方で、同島南方約1.8海里のところに、北東方から南西方へ長径約700メートル短径約400メートルのほぼ楕円形の中ノ瀬と呼ばれる浅礁が存在し、その北東端に琉球中ノ瀬灯標(群閃白光、毎5秒に2閃光、以下「中ノ瀬灯標」という。)が設置されていることを知らなかった。
発航後、A受審人は、船橋当直を自らと甲板員で単独3時間交替で行って南西諸島沿いを南下し、翌々31日00時00分ごろ与論島西北西方約15海里の地点で甲板員と交代して船橋当直に就き、02時15分中ノ瀬灯標から035度13.8海里の地点に達したとき、針路を伊江水道のほぼ中間に向首する215度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、同針路が中ノ瀬灯標に向首していることに気付かないまま進行した。
02時55分A受審人は、伊江水道の手前約4海里の地点で、同水道通航に備え、また、そのころ船首方約7海里に数隻の漁船の明かりを視認したので、見張りのため甲板員を起こして船首配置に就け、03時36分同水道入口に達したところで遠隔操舵に切り換えて続航した。
03時45分A受審人は、中ノ瀬灯標から035度1.8海里の地点に達し、前方の操業中の漁船群まで約1.7海里に接近したとき、念のため機関を全速力前進より少し下げた7.2ノットの速力とし、様子を見て、もう少し近づいてから避航すればよいと考え、同灯標の手前に漁船群がいたこともあって、中ノ瀬灯標の明かりに気付かず、また、その南西側の中ノ瀬の浅礁の存在にも気付かないまま進行した。
04時00分少し前A受審人は、他の漁船は中ノ瀬灯標の東方に移動していったものの、正船首わずか右方の1隻の魚船は、間近に接近しても方位が変わらないので、これを避けようと右舵をとり、右転中、突然衝撃を感じ、04時00分中ノ瀬灯標から315度70メートルの地点において、清伸丸は、船首が260度を向いて原速力のまま、中ノ瀬の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
乗揚の結果、船底外板に亀裂(きれつ)、破口及び主機等に濡損を生じ、救助船により引き下ろされたが、のち廃船とされた。
(原因)
本件乗揚は、鹿児島県枕崎港を沖縄県那覇港に向けて発航する際、水路調査が不十分で、夜間、伊江水道通航後、中ノ瀬の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島県枕崎港を沖縄県那覇港に向けて発航する場合、それまで枕崎港から那覇港への航海の経験は3年ほど前の1度しかなかったうえ、両港間の海図としては縮尺250万分の1の航洋図しか所持せず、目的地に至るまでの水路事情はよく分からなかったから、発航に先立ち、必要な大縮尺の海図を入手し、航路付近の航路標識や浅礁の位置、水深の状況を確かめるなどの水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーやGPSを使用するとか、陸岸などを目測するとかして航行すれば大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、中ノ瀬の浅礁に気付かないまま、夜間、伊江水道通航後、これに向首進行して乗揚を招き、清伸丸の船底外板に亀裂、破口及び主機等に濡損を生じさせ、同船を廃船させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。