(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月29日19時18分
広島湾柱島水道
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船姫高丸 |
総トン数 |
2,944トン |
全長 |
91.167メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,059キロワット |
3 事実の経過
姫高丸は、船尾船橋型鋼製油送船で、A、B及びC各受審人ほか6人が乗り組み、灯油5,000キロリットルを載せ、船首5.35メートル船尾5.75メートルの喫水をもって、平成14年9月29日16時55分愛媛県菊間港を発し、広島県呉港に向かった。
A受審人は、発港から船橋当直に当たり、18時23分安芸俎岩灯標から087度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点で、針路を260度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行した。
18時47分A受審人は、次直操舵手のC受審人が昇橋してきたので、同人が経験豊富で他船の一等航海士を勤めていたこともあり、経験の浅いB受審人の相当直者をさせていたことから、C受審人に当直を引き継いでも大丈夫と思い、次直航海士であるB受審人の昇橋を待ったうえ、自ら海図に記入した予定針路から大きく外れるときには水路調査を十分に行うことなどを指示することなく、C受審人に左舷船首方に見えている次の転針目標である広島湾第1号灯浮標を示しただけで当直を交替して降橋した。
18時50分B受審人は、昇橋してA受審人から直接引継ぎを受けないまま当直に就き、C受審人を手動操舵に当たらせ、19時02分安芸俎岩灯標から248度2.5海里の地点で、西五番之砠灯標を正船首やや右方に見る310度の針路に転じて柱島水道の右側を続航した。
ところで、柱島水道は、西方の柱島及び小柱島と東方の横島及び黒島とに挟まれており、その南方には水道の中央であることを示す安全水域標識である広島湾第1号灯浮標が、その北方には西側に可航水域があることを示す西方位標識である西五番之砠灯標がそれぞれ設置され、同灯標の南東0.8海里ばかりのところには暗岩などが点在するエビガヒレがあった。
19時07分B受審人は、西五番之砠灯標から140度2.5海里の地点に達したころ、念のためもう少し同灯標を右方に離すこととしてC受審人に対して左舵をとるよう指示したところ、先に右転して右舷前方の漁船を替わしてから左転したい旨の申し出があり、そのころ右舷船首2.5海里ばかりのところに2隻の漁船の紅灯を視認していたので右転を容認し、同受審人は338度の針路に転じて進行した。
ところでB受審人は、柱島水道の航行は初めてであったので、発航前に海図を見て右方にはエビガヒレが存在していることは知っていたものの、その正確な位置までは知らなかったから、転針方向の水路調査を十分に行うべき状況であったが、C受審人は自分より年上で同等の海技免許を受有しており、付近海域の航行経験も豊富であると聞いていたことから、同人に任せておけばよいものと思い、水路調査を十分に行わなかったので、エビガヒレに著しく接近していることに気付かなかった。
また、C受審人は、転針方向にエビガヒレが存在することなどの水路状況を知らないまま手動操舵に当たり、他船を避航するため自ら申し出て右転したのであるから、当直航海士が自分を過信して水路状況に精通しているものと誤解されるおそれがあったが、危険であれば指示があると思い、B受審人に対して水路状況を確認してくれるよう申し出なかった。
19時14分C受審人は、西五番之砠灯標から124度1.4海里の地点で、前示漁船が左方に替わったので原針路に戻るために徐々に左回頭を始め、エビガヒレに著しく接近していることに気付かず続航し、19時18分姫高丸は、西五番之砠灯標から126度1,350メートルのエビガヒレに、原速力のまま、290度に向首して乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、船首部船底に凹損及び擦過傷を生じ、のち救援船により引き下ろされ、修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、広島湾柱島水道を北上中に漁船を避航するため転針した際、水路調査が不十分で、浅所に著しく接近する針路で進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が当直交替に当たり次直航海士に対して予定針路から外れるときの措置について指示しなかったこと、当直航海士が漁船を避航するために転針したときに水路調査を行わなかったこと、操舵手が当直航海士に水路状況を確認してくれるよう申し出なかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、広島湾柱島水道に向けて航行中に当直を交替する場合、次直航海士は柱島水道の航海に慣れていなかったから、安全に航行できるよう、次直航海士の昇橋を待ったうえ、自ら海図に記入した予定針路から大きく外れるときには水路調査を十分に行うことなどを指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、次直操舵手が先に昇橋してきたので、同操舵手が経験豊富で海技免許も受有しているから当直を引き継いでも大丈夫と思い、左舷船首方に見えている次の転針目標である広島湾第1号灯浮標を示しただけで、次直航海士に適切な指示をしなかった職務上の過失により、当直者が漁船を避航するために転針した際に水路調査を行わないまま進行して乗揚を招き、船首部船底に凹損及び擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、当直航海士として広島湾柱島水道を北上中、漁船を避航するため転針した場合、転針方向にはエビガヒレが存在していることは知っていたものの、その正確な位置までは知らなかったのであるから、転針方向の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵手は自分より年上で同等の海技免許を受有しており、付近海域の航行経験も豊富であると聞いていたことから、任せておけばよいものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、エビガヒレに著しく接近する針路で進行して乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、当直操舵手として広島湾柱島水道を北上中、漁船を避航するため自ら申し出て転針した場合、転針方向の水路状況を知らないまま手動操舵に当たっていたから、当直航海士に対して水路状況を確認してくれるよう申し出るべき注意義務があった。しかるに、同人は、危険であれば指示があるものと思い、当直航海士に対して水路状況を確認してくれるよう申し出なかった職務上の過失により、エビガヒレに著しく接近する針路で進行して乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。