(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年3月13日04時47分
長崎県野母埼南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船新世丸 |
プレジャーボート真喜丸 |
総トン数 |
56,212トン |
2.8トン |
全長 |
243.04メートル |
|
登録長 |
|
9.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
12,000キロワット |
147キロワット |
3 事実の経過
新世丸は、鹿児島県喜入港から日本各地の製油所へ原油を二次輸送する油タンカーで、A受審人ほか18人が乗り組み、原油115,600キロリットルを積載し、船首13.65メートル船尾14.22メートルの喫水をもって、平成15年3月12日17時45分喜入港を発し、富山県伏木富山港に向かった。
翌13日04時00分A受審人は、長崎県野母埼南方沖合13海里ばかりのところで、次席三等航海士及び甲板手とともに船橋当直に就き、同時10分大立神灯台から189度(真方位、以下同じ。)10.2海里の地点で、針路を338度に定め、機関回転数を航海速力より少し下げた毎分85とし、12.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
04時30分A受審人は、大立神灯台から208度6.9海里の地点に達したとき、右舷船首32.5度6.3海里のところに、17.0ノットの速力から5.0ノットまで速力を減じて航行中の真喜丸を初認し、同時36分同灯台から217度6.1海里の地点に達したとき、真喜丸が右舷船首38度4.7海里のところで、再び元の速力まで上げて航行し始めたのを視認した。
04時42分A受審人は、大立神灯台から239度5.4海里の地点に達したとき、右舷船首39度2.2海里のところに真喜丸を視認し、その方位が徐々に右方に変化しているのを認めたが、自船の存在を知らせておこうと2海里まで接近したとき、念のため昼間信号灯を同船に向けて照射し、その動向を監視しながら続航した。
04時45分A受審人は、真喜丸を右舷船首42度1.0海里に見るようになったとき、同船が自船の後方150メートルばかりのところを航過する態勢にあることを知ったが、同船に向けて再び昼間信号灯を照射して注意を喚起し、原針路、原速力を保ったまま進行した。
そのころ、A受審人は、真喜丸がその速力を19.0ノットに増速され、かつ、舵輪を放置された状態で、徐々に右転しながら自船の前路に向けて航行していることに気付かないまま続航し、04時47分少し前舷灯の見え具合などから同船が右転していることに初めて気付いたが、どうする暇もなく、04時47分新世丸の船橋が大立神灯台から239度5.3海里の地点に達したとき、その右舷船首部外板に、真喜丸の船首部が直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、潮候は高潮時であった。
また、真喜丸は、FRP製プレジャーボートで、一級小型船舶操縦士免許(平成14年7月15日取得)を有するB受審人が1人で乗り組み、魚釣りを行う目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、3月13日03時40分長崎県長崎港小瀬戸を発し、途中、同県神ノ島の船着場から出港した同人の弟と落ち合い、共に同県野母埼南西方沖合の鯵曽根に向かった。
ところで、B受審人は、本船を購入するまで航海計器を搭載した船に乗船した経験がなく、レーダーやプロッターの操作に慣れておらず、また、昼間の陸岸近くを航行した経験だけで、夜間の航行経験が全くなかった。
04時18分半B受審人は、三ツ瀬灯台から103度1.9海里の地点に達したとき、針路を221度に定め、機関を港内全速力前進にかけて17.0ノットの速力とし、手動操舵により進行した。
04時30分B受審人は、大立神灯台から271度2.1海里の地点に達したとき、長崎県高鉾島の北方沖合で落ち合った際、弟から手渡された鯵曽根の釣り場の緯度と経度をプロッターに入力することとし、機関回転数を毎分500の最低回転数まで下げ、5.0ノットの速力として入力作業を行いながら続航した。
04時36分B受審人は、大立神灯台から261度2.4海里の地点に達し、プロッターへの入力作業を終え、再び速力を17.0ノットに上げたとき、左舷船首25度4.7海里のところに、前路を右方に横切る態勢の新世丸の白、白、緑3灯を初認した。
04時42分B受審人は、大立神灯台から245度3.9海里の地点に達したとき、左舷船首24度2.2海里のところに、新世丸の航海灯が視認でき、その後、同船の船尾方を航過する態勢となって進行した。
04時45分B受審人は、大立神灯台から241度4.7海里の地点に達したとき、プロッターへの入力作業のために速力を下げたことから、弟の船から後れて同船を見失い、鯵曽根に行くのが初めてであったところから、様子をよく知る弟の船に追いつこうと機関を全速力前進にかけ、速力を19.0ノットに上げたが、増速して間もなく、自船の左舷側を航過した漁船の航走波の影響を受けて大きく船体が動揺し、棚に置いてあった食料などが床に落ちたので、これらを拾い集めることにした。
真喜丸は、B受審人が、新世丸に対する動静監視を行わないまま、舵輪から手を放して落下物を拾い集めていたところ、徐々に右転しながら進行する状況となり、船首が248度に向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、新世丸は、損傷がなかったが、真喜丸は、船首部を圧壊し、のち修理された。また、B受審人は、頚部捻挫、左大腿及び左側胸部の打撲等を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、長崎県野母埼南西方沖合において、真喜丸が、動静監視不十分で、新世丸の前路に進出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、長崎県野母埼南西方沖合を南西進中、前路を右方に横切る態勢の新世丸を視認した場合、その後の同船の動向を十分に把握できるよう、同船が安全に航過するまで、引き続き動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、新世丸の船尾方を無難に航過できるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、原速力を保ったまま、航過した漁船の航走波による船体の動揺で、棚から落ちた食料品などを拾い上げることに気をとられ、舵輪から手を放したまま進行して新世丸との衝突を招き、自船の船首部を圧壊させ、自ら負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。