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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年長審第32号
件名

遊漁船浩風丸プレジャーボートドルフィン衝突事件(簡易)
二審請求者〔受審人B〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年9月18日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(原 清澄)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:浩風丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:ドルフィン船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
浩風丸・・・・・ステムカバー曲損等
ドルフィン・・・右舷外板に破口、操舵室を圧壊及び機関台の曲損等
船長が左肋骨骨折等

原因
浩風丸・・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ドルフィン・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、浩風丸が、見張り不十分で、錨泊して遊漁中のドルフィンを避けなかったことによって発生したが、ドルフィンが、見張り不十分で、有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月16日15時12分
 長崎県高島南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船浩風丸 プレジャーボートドルフィン
総トン数 4.6トン  
全長 13.79メートル  
登録長   7.36メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 253キロワット 110キロワット

3 事実の経過
 浩風丸は、土曜日及び日曜日などの休日には主として遊漁に従事する、FRP製小型遊漁兼用船で、一級小型船舶操縦士免許(昭和50年7月4日取得)を有するA受審人が1人で乗り組み、釣り客4人を乗せ、船首0.60メートル船尾1.35メートルの喫水をもって、平成15年3月16日05時30分長崎県佐世保市鹿子前の係留地を発し、同県江ノ島の北北東4海里ばかりの釣り場に至って遊漁を行わせ、同日14時25分これを終えて帰港することにした。
 A受審人は、錨索を30メートルばかり繰り出した錨をローラーで巻き上げ、これを固縛したのち、14時33分半大立島灯台から319度(真方位、以下同じ。)3.8海里の地点で、針路を069度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、16.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵により進行した。
 ところで、浩風丸は、速力を上げ、操舵室の床の上に立って操舵にあたると、船首部が水平線上となり、片舷約7度の死角を生じるので、A受審人は、天候の良い日には、操舵室内の床上50センチメートルばかりのところに、船横方向に渡した幅30センチメートルの板の上に乗り、天窓から胸より上を出して周囲の状況を確認しながら操船するようにし、天候の悪い日には、船首を左右に振って前路の見張りを行うようにしていた。
 15時10分A受審人は、牛ケ首灯台から196度2.7海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルのところに、船首を東南東に向けて錨泊中のドルフィンを視認することができたが、レーダー画面上に他船の映像を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、発航時に雨模様の天気であったこともあって、天窓から顔を出さず、操舵室の床に立って操舵にあたり、船首を左右に振るなどの、死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、その後、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったものの、依然として同船に気付かず、同船を避けないまま続航した。
 浩風丸は、A受審人が前路のドルフィンを避けないまま進行中、15時12分牛ケ首灯台から185.5度2.4海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首がドルフィンの右舷中央部外板に後方から45度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、ドルフィンは、FRP製プレジャーモーターボートで、四級小型船舶操縦士免許(昭和51年7月2日取得)を有するB受審人が1人で乗り組み、釣りを行う目的で、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日10時00分同県相浦港真申(まさる)を発し、同県大島西方沖合のヒロ曽根に向かった。
 B受審人は、前示釣り場で釣果を得たのち、14時30分大島の185メートル三角点から282度5.9海里の地点で、針路を049度に定めて発進し、機関を11.0ノットの速力にかけ、魚群探知機に魚影が映れば釣りを再開するつもりで、魚群の探索を行いながら手動操舵により進行した。
 15時00分B受審人は、前示衝突地点に至り、魚群探知機に魚影を認めたので、再び釣りを行うことにし、錨を投入して錨索を30メートルばかり繰り出して投錨作業を終え、周囲を見渡したところ、自船にとって問題となるような他船を認めなかったことから、同時07分ころ船室内に置いた約30本の釣り竿(つりざお)から適当な竿を選ぶことにし、同室内に入って竿選びを始めた。
 15時10分B受審人は、船首が折からの風にほぼ向首して114度を向いていたとき、右舷船尾45度1,000メートルのところに、自船に向けて接近する浩風丸を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で近づく状況となったが、周囲に自船と関わりを持つような他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、接近する浩風丸に対し、有効な音響による信号を行うことも、更に接近したとき、機関を始動して左右いずれかに偏位するなどの、衝突を避けるための措置をとることなく、錨泊を続けた。
 ドルフィンは、B受審人が竿選びを終えて操舵室に入ろうとしたとき、同室右舷側窓越しに、至近に迫った浩風丸を視認したが、どうする暇もなく、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、浩風丸は、ステムカバー曲損等を生じ、ドルフィンは、右舷外板に破口、操舵室を圧壊及び機関台の曲損等を生じた。また、B受審人は、左肋骨骨折等を負った。

(原因)
 本件衝突は、長崎県高島南方沖合において、釣り場から帰港中の浩風丸が、見張り不十分で、前路で錨泊して遊漁中のドルフィンを避けなかったことによって発生したが、ドルフィンが、見張り不十分で、有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県高島南方沖合において、前路に死角を生じた状態で帰港する場合、前路で錨泊して遊漁中のドルフィンを見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどの、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダー画面上に他船の映像を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首方で錨泊して遊漁中のドルフィンに気付かず、同船を避けることなく進行して同船との衝突を招き、浩風丸のステムカバー等に曲損を生じさせ、ドルフィンの右舷側外板に破口等を生じさせ、B受審人に左肋骨骨折等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、長崎県高島南方沖合において、錨泊して遊漁の準備を行おうとする場合、自船に向首接近する浩風丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船室に入る前に周囲を見渡したものの、自船と関わりを持つような他船を認めなかったので大丈夫と思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する浩風丸に気付かず、有効な音響による信号を吹鳴することも、更に接近したとき機関を始動して左右いずれかに偏位するなどの、衝突を避けるための措置をとることもしないまま、錨泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、負傷を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 


参考図





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