(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月27日10時30分
関門港若松区
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート俊丸 |
遊漁船保進丸 |
全長 |
11.98メートル |
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登録長 |
9.95メートル |
7.65メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
154キロワット |
95キロワット |
3 事実の経過
俊丸は、漁船型のFRP製プレジャーボートで、平成12年2月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、知人1人を乗せ、釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同13年5月27日06時40分関門港小倉区高浜船だまりを発し、同港戸畑航路付近のあじ釣り場へ向かった。
A受審人は、06時50分釣り場に到着してあじ釣りを行っていたところ、しばらくして釣り餌がなくなったので、09時20分一旦釣りを中止して発航地点まで引き返し、釣り餌を補給したのち、10時00分再び同じ釣り場に戻ってあじ釣りを再開したが、釣果が芳しくなかったので、すぐ近くのきす釣り場へ移動することに決め、同時27分半若松洞海湾口防波堤灯台から152度(真方位、以下同じ。)2,150メートルの地点で、針路を021度に定め、短時間の航走予定であったことから、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵によって進行した。
ところで、平素、A受審人は、自船が10.0ノット前後の速力で航走すると、船首浮上により水平線が隠れて船首部両舷に渡って約15度の範囲に死角が生じることから、ときどき蛇行するなどして船首死角を補う見張りを行っていたものであった。
定針したとき、A受審人は、正船首方800メートルのところに、保進丸を視認することができ、その後、同船の行きあしがないことや甲板上の人物が竿を使用して釣りをしている様子などから、漂泊しているか否かを判断できる状況となったが、すぐ近くの釣り場へ移動する短時間の航走予定であったことから、船首浮上により水平線が隠れていても安全に航行できるものと思い、蛇行するなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同死角内で漂泊していた保進丸に気付かなかった。
こうして、10時29分A受審人は、前路で漂泊中の保進丸から300メートルの地点まで接近して衝突のおそれがある状況となったが、依然として、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま続航中、10時30分若松洞海湾口防波堤灯台から131度1,730メートルの地点において、俊丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、保進丸の左舷船首やや後方に前方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西北西風が吹き、関門海峡の潮流は弱い西流に当たり、視界は良好であった。
また、保進丸は、主として私的な釣りに使用されるFRP製遊漁船で、平成9年2月交付の四級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.5メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同13年5月27日09時20分関門港小倉区紫川尻船だまりを発し、同港若松区のきす釣り場へ向かった。
09時35分B受審人は、釣り場に到着して2回ほど場所を変えてきす釣りを行ったのち、10時24分前示衝突地点付近へ移動し、機関を中立運転として漂泊を開始した。
10時27分半B受審人は、船首をほぼ南西方に向け、船尾部で右舷側を向いて座り、釣り竿を使用してきす釣りをしていたとき、左舷船首30度800メートルのところに、自船に向首して接近する俊丸を視認できる状況となったが、釣りに熱中する余り、竿を操作することなどに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、操縦室の陰に隠れて接近する同船の存在に気付かなかった。
こうして、10時29分B受審人は、俊丸が、自船から300メートルの地点まで接近して衝突のおそれがある状況となったが、依然として、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近しても、中立運転としていた機関のクラッチを入れて場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中、保進丸は、船首を231度に向けていたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、俊丸は、船首左舷側外板に擦過傷及び左舷錨台に損傷を生じ、保進丸は、転覆して主機及びその他の機器類に濡れ損並びに左舷船首部から中央部にかけてのブルワークに亀裂を伴う凹損を生じるとともに、B受審人が頸部捻挫の傷を負った。
(原因)
本件衝突は、関門港若松区において、釣り場を移動中の俊丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の保進丸を避けなかったことによって発生したが、保進丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、関門港若松区において、釣り場を移動する場合、船首浮上により水平線が隠れて船首部に死角が生じていたのであるから、死角内で漂泊中の他船を見落とすことがないよう、蛇行するなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、すぐ近くの釣り場へ移動する短時間の航走予定であったことから、船首浮上により水平線が隠れていても安全に航行できるものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、死角内で漂泊中の保進丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首左舷側外板に擦過傷及び左舷錨台に損傷を生じさせ、保進丸を転覆させて同船の主機及びその他の機器類に濡れ損並びに左舷船首部から中央部に掛けてのブルワークに亀裂を伴う凹損を生じさせるとともに、B受審人に頸部捻挫の傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、関門港若松区において、漂泊して釣りを行う場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、釣りに熱中する余り、竿を操作することなどに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、操縦室の陰に隠れて接近する俊丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に接近しても、中立運転としていた機関のクラッチを入れて場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。