(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月2日09時25分
下関南東水道
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船弘翔丸 |
貨物船ファーイースト2 |
総トン数 |
446トン |
1,372トン |
全長 |
59.19メートル |
73.250メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
1,103キロワット |
3 事実の経過
弘翔丸は、主として福岡県三池港から大阪港堺泉北区への液体化学薬品のばら積み輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、ポリウレタンの原料であるジフェニルメタンジイソシアネート280トン及びトルエンジイソシアネート180トンを積み、船首2.7メートル船尾4.1メートルの喫水をもって、平成14年7月1日15時00分三池港を発し、関門海峡経由で大阪港堺泉北区に向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直を、00時から04時まで及び12時から16時までを次席一等航海士に、04時から08時まで及び16時から20時までを二等航海士にそれぞれ受け持たせ、自らが08時から12時まで及び20時から24時までの同当直に就く単独の4時間交替制とし、視界制限時には、自らの当直時間帯以外の当直者から連絡があれば昇橋して操船指揮を執っていた。また、同受審人は、平素、瀬戸内海を東行する際に平郡水道を通航しており、関門港から同水道に向かうときには、山口県祝島西方で周防灘の推薦航路を西行する他船と針路が交差することを避けるため、海図上に記載された下関南東水道及び周防灘の各推薦航路線から離れて北側を航行していた。
こうして、A受審人は、翌2日08時00分関門第2航路西口付近で単独の船橋当直に就き、船橋中央の操舵スタンド後方に立ち、同スタンドの左舷側に設置されたレーダーを1.5海里レンジとして監視しながら関門航路を東行するうち、関門橋を通過したころから霧によって徐々に視界が制限され始め、09時00分関門航路第32号灯浮標付近で視程が約1海里になったことから法定灯火を点灯し、同時07分同航路第36号灯浮標を右方約100メートルに見て右転したのち、レーダーを6海里レンジに切り替えて周囲の監視に当たり、同航路第40号灯浮標の北方約100メートルに向けて続航した。
09時14分半A受審人は、部埼灯台から054度(真方位、以下同じ。)680メートルの地点に達したとき、いつものように針路を120度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵によって進行した。
09時15分A受審人は、部埼灯台から065度770メートルの地点で、視程が約400メートルの視界制限状態になったとき、右舷船首6度3.2海里のところにファーイースト 2(以下「ファ号」という。)を探知し、レーダーを3海里レンジに切り替えてその動静を監視したところ、同船が下関南東水道の推薦航路に沿って西行する船舶であり、電子カーソルを利用して約550メートルの船間距離で航過することを知ったが、ファ号の他に航行に支障となる他船の映像を認めなかったことから、安全な速力にすることも、霧中信号を行うこともせずに同船のレーダー監視を続けながら続航した。
09時23分A受審人は、部埼灯台から108度1.67海里の地点に達し、ファ号が右舷船首20度1,140メートルのところに接近したとき、電子カーソルを利用してレーダー監視を続けていた同船の方位変化が少なくなり、航過時の船間距離が約400メートルに狭まったことから、このまま進行すると同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、推薦航路線の約0.5海里北側を東行しているので、右舷を対して無難に航過できるものと思い、操舵を手動に切り替えたものの、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく、右舷船首方を見ながら、同じ針路、速力のまま続航した。
09時25分少し前A受審人は、右舷船首方間近にファ号の左舷側船体を初めて認め、急いで右舵一杯、機関を停止に引き続き全速力後進にかけたが間に合わず、09時25分部埼灯台から110度2.0海里の地点において、弘翔丸は、船首が140度を向き、速力が6.0ノットになったとき、その右舷前部に、ファ号の船首が前方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、視程は約400メートルであった。
また、ファ号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、B指定海難関係人ほか中華人民共和国籍を有する8人が乗り組み、鋼材1,936トンを積み、船首4.6メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、同月1日07時00分大阪港堺泉北区を発し、大韓民国仁川港に向かった。
B指定海難関係人は、船橋当直を、00時から04時まで及び12時から16時までを二等航海士に、04時から08時まで及び16時から20時までを一等航海士に、並びに08時から12時まで及び20時から24時までを三等航海士に受け持たせる単独の4時間交替制としていたが、経験の浅い三等航海士の当直時間帯には昇橋して監督していた。
B指定海難関係人は、二等航海士が船橋当直を引き継いだ翌2日00時00分ころから視界が悪くなり始め、瀬戸内海を航行中であったこともあり、引き続き在橋して同航海士を監督し、04時00分ころ視程が約400メートルに狭められた視界制限状態になったため、同当直に就いた一等航海士を手動操舵に当たらせて自ら操船指揮を執り、他船が接近したら霧中信号を行い、法定灯火を点灯したまま西行した。
08時00分B指定海難関係人は、船橋当直に就いた三等航海士を手動操舵に当たらせ、引き続き操船指揮を執り、操舵室左舷側に設置された2台のレーダーの後部に立ち、1台を3海里レンジに、他の1台を1.5海里レンジに設定して監視に当たりながら、西行を続けた。
08時29分B指定海難関係人は、下関南東水道第4号灯浮標から034度370メートルの地点で、針路を下関南東水道の推薦航路に沿う305度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの速力で、同水道第1号灯浮標に至ってから関門航路第39号灯浮標に向けて右転する予定で進行した。
09時11分B指定海難関係人は、部埼灯台から120.5度4.0海里の地点に差し掛かったとき、6海里レンジとしたレーダーにより正船首4.3海里のところに弘翔丸を探知し、その動静を監視しながら続航した。
09時15分B指定海難関係人は、部埼灯台から119.5度3.4海里の地点に達し、弘翔丸の映像を右舷船首1度3.2海里のところに認めたとき、同船が東行する船舶であり、その方位に明確な変化が認められないことから、衝突のおそれがある態勢で接近するものと判断し、機関を微速力前進にかけて8.9ノットの速力に落とし、同じ針路のまま進行した。
09時18分B指定海難関係人は、部埼灯台から119度2.9海里の地点に至り、弘翔丸の映像を右舷船首2度2.2海里のところに認めたとき、汽笛による霧中信号を始めたが、そのうち同船が右転し、下関南東水道の推薦航路に沿ってその右側を航行するであろうから、このまま進行すれば同船と左舷を対して無難に航過できるし、著しく接近するようなら右転すれば良いと思い、安全な速力にしないまま、引き続きその動静を監視しながら続航した。
09時23分B指定海難関係人は、部埼灯台から117度2.2海里の地点に達したとき、弘翔丸の映像を右舷船首15度1,140メートルのところに認め、このまま進行すると同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、同船が推薦航路の右側に向けて右転するであろうから、同船と左舷を対して無難に航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま、前示予定より早めに右転して同船との航過時の船間距離を広げるつもりで、三等航海士に右舵20度を令して回頭を始めたところ、更に接近するので右舵一杯として回頭を続けた。
09時25分少し前B指定海難関係人は、左舷船首方間近に弘翔丸の右舷船首部を初めて認め、衝突の危険を感じ、このまま右転を続けるよりも左転した方が良いと咄嗟に考え、左舵一杯を令するとともに、自ら機関を中立に引き続き後進一杯にかけたが及ばず、ファ号は、船首が000度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、弘翔丸は、右舷船首部外板に破口を伴う凹損、衝突直後ファ号の船首が後方に向かって外板を擦過した際に衝突部位から船橋楼までの外板に凹損及び同楼の右舷船首部に圧壊を生じ、ファ号は右舷船首部に破口を伴う凹損を生じたが、のちそれぞれ修理された。
(原因)
本件衝突は、霧のため視界制限状態となった下関南東水道において、東行中の弘翔丸が、安全な速力にすることも、霧中信号を行うこともせず、西行中のファ号のレーダー映像を認め、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、ファ号が、安全な速力にせず、弘翔丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、霧のため視界制限状態となった下関南東水道において、同水道の推薦航路に依らずに東行中、レーダーにより同航路に沿ってその右側を西行するファ号を右舷船首方に探知し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。ところが、同人は、推薦航路線の約0.5海里北側を東行しているので、右舷を対して無難に航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、そのまま進行して同船との衝突を招き、弘翔丸の右舷船首部外板に破口を伴う凹損、衝突部位から船橋楼までの外板に凹損及び同楼の右舷船首部に圧壊を、ファ号の右舷船首部に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、霧のため視界制限状態となった下関南東水道において、同水道の推薦航路に沿ってその右側を西行中、レーダーにより関門港を出航して東行する弘翔丸を探知し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま進行したことは、本件発生の原因となる。
よって主文のとおり裁決する。