(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月8日23時30分
水島港港内航路
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船宝栄丸 |
貨物船サン クラウン |
総トン数 |
499トン |
1,292.00トン |
全長 |
74.99メートル |
75.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
1,323キロワット |
3 事実の経過
宝栄丸は、製鉄副原料の国内輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.75メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成14年10月8日23時06分水島港川鉄D岸壁を発し、姫路港に向かった。
A受審人は、離岸作業終了後、法定灯火に加えて作業灯2個を点灯し、単独で港内操船にあたり、乗組員4人をコークス揚荷後の甲板上及び船倉の水洗い作業につかせた。
ところで、作業灯2個は、450ワットの反射型白熱電球が、船橋左右両ウイング前面の、左右両舷灯より1.3メートル船体中心線寄りで0.7メートル高く、後部マスト灯より10.7メートル低く、30度の俯角をもってそれぞれ設置されていた。宝栄丸は、夜間、航行中に作業灯2個を点灯すると、航海灯の水平射光範囲内において、マスト灯については遠方から視認できて影響はないが、両舷灯については、双眼鏡を使用すれば遠方から識別できるものの、肉眼によれば、作業灯の光芒に妨げられ、約1,400メートル離れて正船首から左右各15度以内の方向からの識別が困難になる状況であった。
また、水島港には、航行管制された港内航路が、水島航路北口に接続して北方の港奥に向け設定されていて、水島航路の延長線上780メートルの水島港港内航路第2号灯浮標(以下、水島港港内航路各号灯浮標については「水島港港内航路」を省略する。)及び第3号灯浮標で示された水域で20度右に屈曲しており、第5号灯浮標の西北西方0.9ないし2.6海里の港域内に水島港内錨泊場所(以下「指定錨地」という。)が5箇所設定されていた。
こうしてA受審人は、23時16分少し前水島港西1号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から018度(真方位、以下同じ。)2,550メートルの地点で、針路を160度に定め、機関を10.0ノット(対地速力、以下同じ。)の港内全速力前進にかけ、同時18分少し過ぎ、11.5ノットの全速力前進とし、同時20分少し前水島信号所の信号により長さ200メートル未満の船舶が入出航できることを確認して港内航路に入航し、手動操舵で進行した。
A受審人は、23時22分わずか過ぎ防波堤灯台から074度1,570メートルの地点で、左舷船首6度2.4海里のところに水島航路を北上するサン クラウン(以下「サ号」という。)の白、白、緑3灯及び紅色せん光1灯を初認し、GPSプロッターで自船の位置を確認したところ、港内航路の中央付近を航行していることを知り、航路の右側を航行することとし、針路を163度に転じて続航した。
A受審人は、23時25分わずか前港内航路に入航したサ号を左舷船首9度2,720メートルに認めて、機関を9.0ノットの半速力前進に減じ、同時27分わずか過ぎ防波堤灯台から119度2,250メートルの地点で、同船が左舷船首8度1,550メートルに近づいたので、更に航路の右側端に寄るよう針路を169度に転じ、同船が同航路から指定錨地に向かうのであれば、航路を航行する自船と航過してから左転するものと思いながら進行した。
23時27分半A受審人は、防波堤灯台から121度2,330メートルの地点に達したとき、港内航路の屈曲部付近を右転の様子がないまま北西進するサ号を左舷船首14度1,350メートルに認め、その後、港内航路を斜航して航路から航路外に出ようとする同船と衝突のおそれのある態勢で接近することを知ったが、航路の右側端に寄って航路を南下していることでもあり、そのうち同船が右転して航路を航行する自船の進路を避けるものと思い、警告信号を行わなかった。
A受審人は、サ号と間近に接近したものの、依然、同船がそのうち右転して避航するものと思い、機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもないまま続航中、23時29分半同方位300メートルに認めてサーチライトを照射したのち、機関を全速力後進にかけたが、及ばず、23時30分防波堤灯台から132度2,870メートルの地点において、宝栄丸は船首が180度に向き、6.0ノットの前進行きあしで、その左舷船首にサ号の船首が、前方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、衝突地点付近に潮流はほとんどなかった。
また、サ号は、船尾船橋型ケミカルタンカーで、船長Jほか11人が乗り組み、アセトン952トンを積載し、船首3.60メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、同月8日14時50分大阪港を発し、水島港の指定錨地に向かった。
J船長は、23時16分少し過ぎ防波堤灯台から137度3.6海里の地点において、針路を320度に定め、機関を10.2ノットの港内全速力前進とし、三等航海士を操船補助に、機関長を機関操作に、操舵手を手動操舵にそれぞれつけ、自ら操船指揮にあたり、法定灯火を表示し、2台のレーダーを作動させ、同時20分には機関を8.2ノットの半速力前進に減じて水島航路を北上した。
23時24分半わずか過ぎJ船長は、港内航路に入航したとき、右舷船首14度2,850メートルのところに白、白、紅3灯及び作業灯2個を表示して同航路内を南下する宝栄丸が存在したが、そのことに気付かないまま、第3号灯浮標と第5号灯浮標との間から航路外に出て指定錨地に向かうつもりで港内航路を進行した。
23時27分半J船長は、防波堤灯台から133度3,530メートルの地点に達したとき、右舷船首15度1,350メートルのところに港内航路の右側端に寄って南下する宝栄丸の白、白、紅3灯と作業灯2個のうち、一瞥して明るい作業灯2個だけを初認したが、作業灯を点灯していることから錨泊しているものと思い、慎重に肉眼や双眼鏡を使用して航海灯の点灯状況を確かめるなり、作動中の2台のレーダーを活用するなりしてその動静監視を十分に行わなかったので、同船が港内航路を南下していることに気付かなかった。
J船長は、宝栄丸の作業灯2個を初認したとき、折しも、港内航路の屈曲部に差しかかっていたものの、指定錨地に向かうため、原針路のまま同航路を斜航するように続航したので、その後、同船と衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが、動静監視不十分で、このことにも気付かず、航路から航路外に出ようとする自船が、機関を後進にかけるなり、右転するなりして航路を航行する宝栄丸の進路を避けなかった。
23時29分半J船長は、同方位300メートルに認めた宝栄丸が港内航路を航行していることにようやく気付き、全速力後進、右舵一杯を令したものの、及ばず、船首が330度を向き、5.0ノットの前進行きあしで、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、宝栄丸は左舷船首外板等に凹損を生じ、サ号は船首に圧壊を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因に対する考察)
宝栄丸の灯火の表示模様で認定したとおり、同船が、当時、法定灯火に加え、作業灯2個を点灯していたことから、舷灯については、作業灯の光芒に妨げられて海上衝突予防法第22条に定められた灯火の視認距離をその水平射光範囲の全域において満たしておらず、海上衝突予防法第20条第1項に違反していたことになり、以下、同船の灯火について検討する。
宝栄丸の灯火の模様等についての検査調書、同船の一般配置図及び両船の相対位置関係から、サ号は、宝栄丸の前後部マスト灯を衝突の約5分半前左舷船首14度1.5海里に視認でき、そのころ、同船の左舷灯を肉眼では識別できないものの、双眼鏡を使用すれば識別でき、さらに、衝突の2分半前右舷船首15度1,350メートルに前後部マスト灯に加えて左舷灯を肉眼で識別できたものと認められるので、サ号が港内航路に入航した衝突の約5分半前以降、衝突の2分半前に宝栄丸の作業灯を初認するまでの間、肉眼による見張りを十分に行っていれば、宝栄丸の前後部マスト灯を視認することにより、同船が港内航路内を南下していることを容易に判断でき、同時に双眼鏡による見張りを併用して左舷灯を識別すれば、一層確実に同船の動静を把握でき、さらに、衝突の2分半前同船の作業灯を初認したときに、注意深く動静監視を行えば、前後部マスト灯に加えて左舷灯をも肉眼で識別できる状況であったことに徴し、宝栄丸が作業灯を点灯して左舷灯の法定の視認距離を満足させなかったことを本件発生の原因をなしたものとはしないが、今後は両舷灯の法定の視認距離の確保を難しくする灯火を表示してはならない。
(原因)
本件衝突は、夜間、水島港港内航路において、航路から航路外に出ようとするサ号が、動静監視不十分で、航路を航行する宝栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、宝栄丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、水島港港内航路を南下中、航路から航路外に出ようとするサ号と衝突のおそれのある態勢で接近することを認めた場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航路の右側を航行する自船を、サ号がやがて避航するものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、同船と間近に接近して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、宝栄丸の左舷船首外板等に凹損を、サ号の船首に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。