(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月23日15時00分
大分県姫島南岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船幸安丸 |
プレジャーボートウイングス |
総トン数 |
494トン |
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全長 |
68.15メートル |
10.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
323キロワット |
船種船名 |
警戒船にっこう丸 |
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全長 |
8.10メートル |
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登録長 |
6.23メートル |
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機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
22キロワット |
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3 事実の経過
幸安丸は、船首部甲板上にクレーンを装備した、主として石材の運搬に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、船長Tほか4人が乗り組み、捨石1,196立方メートルを積載し、船首3.0メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成12年9月22日11時00分兵庫県家島諸島男鹿島を発し、大分県姫島南岸沖合の姫島地区地先型増殖場造成工事(以下「工事」という。)現場へ向かい、翌23日02時15分姫島港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から132度(真方位、以下同じ。)1,800メートルの地点に錨泊して待機した。
ところで、工事は、姫島村が発注して株式会社菅組(以下「菅組」という。)が受注し、海中にコンクリート製ブロックや捨石を投入して漁場を整備するもので、同社が大分海上保安部に対し、危険防止措置の一つとして工事海域で捨石投入作業に従事する作業船(以下「工事作業船」という。)に他船が接近することがないよう警戒に当たる船舶(以下「警戒船」という。)を配備する旨の工事作業届を提出し、同社姫島出張所が施工及び監督に当たっていた。
また、工事海域は、姫島ハイタテノ鼻の南方約130メートル沖合から、南西方向へ115メートル南東方向へ58.5メートルの長方形の工区が南西方向に50メートル隔て二区画並べて設定され、両工区の北東側をC工区、南西側をD工区と称し、C工区から捨石投入作業が開始されていて、各工区の四隅に直径45センチメートル(以下「センチ」という。)のオレンジ色球形浮標が設置されていた。
T船長は、C工区において第四十七天神丸(以下「天神丸」という。)が捨石投入作業を終えるのを待ち、同船が同工区外の北東側に出たのち、14時50分幸安丸を東防波堤灯台から101度1,620メートルの同工区内に移動させて323度を向首し、直径50ミリメートルの合成繊維索を錨索として、重さ550キログラムないし650キログラムの錨4個を右舷船首、左舷船首、右舷船尾、左舷船尾の四方に投錨し、船尾方は両舷船尾40度方向に各錨索150メートルを繰り出し、それぞれの錨には、オレンジ色のビニールシートで覆った直径45センチ長さ1メートルの円筒形発泡スチロール製浮標(以下「アンカーブイ」という。)を細索で取り付けて目印とし、船固めを終え、周囲の見張りを菅組手配の警戒船にっこう丸に任せて捨石投入作業に取り掛かった。
一方、A受審人は、菅組姫島出張所職員で、平成11年2月交付の四級小型船舶操縦士免状を有し、同日、にっこう丸に船長として単独で乗り組み、工事作業船の船尾方の見通しが良い海域で停留し、船尾船固め用の錨索に他船が著しく接近しないように、錨索に接近する他船に対し、長さ60センチの柄を付けた90センチ四方の赤色旗を振って注意を喚起することとしており、必要に応じて監督職員の工事作業船への移送にも従事していた。
14時45分A受審人は、捨石残量の検収のため、C工区外の北東側で北西方を向首して錨泊した天神丸に監督職員を移乗させ、同職員が戻るまで停留して待機することとしたとき、同船の昇降用縄ばしごが右舷側に設置されていたのでその付近に位置したところ、船体に遮蔽され姫島港方面から幸安丸の船尾付近に向けて東行する他船を見通すことができない状況であったが、それまで、付近を航行する漁船がアンカーブイを十分に離して航行していたうえ、監督職員が戻るまでの短時間なら天神丸の付近にいても大丈夫と思い、幸安丸船尾方の見通しが良い海域に速やかに移動するなどして、周囲の見張りを十分に行わなかった。
A受審人は、14時58分半東防波堤灯台から098.5度1,700メートルの地点において停留中、幸安丸の左舷船首48度500メートルのところに同船の左舷船尾錨索に向首するウイングスが存在し、その後、同錨索に衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、見張り不十分で、天神丸の船体に遮蔽されてそのことに気付かず、赤色旗を振って注意を喚起しないまま、15時00分東防波堤灯台から105度1,680メートルの地点において、幸安丸の船尾から約100メートル南方で、水面直下の錨索とウイングスとが衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
T船長は、船固めを終えたのち、捨石投入作業に取り掛かかってふと左舷船尾方を見たとき、ウイングスが自船の錨索に衝突したことに気付き、自船で作業に当たっていた菅組職員を介して監督職員に連絡し、事後の処置に当たった。
A受審人は、戻ってきた監督職員に衝突を知らされ、同職員からの指示を受けて事後の処置に当たった。
また、ウイングスは、2機2軸の推進装置を装備したFRP製プレジャーボートで、Sが船長として単独で乗り組み、平成10年6月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人ほか2人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日14時50分姫島港を発し、姫島東方沖合の釣り場に向かった。
S船長は、自らが操縦して出航に当たり、防波堤をかわってから針路をハイタテノ鼻沖合に向けて東行し、14時58分半わずか前東防波堤灯台から102度1,060メートルの地点で、手動操舵によって針路を110度に定め、機関を毎分回転数1,500にかけ12.0ノットの対地速力としたのち、B受審人と操縦を交代した。
操縦を交代して間もなくB受審人は、14時58分半東防波堤灯台から103度1,100メートルの地点に達し、左舷船首15度500メートルに幸安丸とその東側に天神丸とを、さらに左舷船首10度700メートルに幸安丸右舷船尾のオレンジ色の浮標1個を認めた際、同浮標が工事作業船のアンカーブイであることに気付いたものの、同ブイを十分に離して航行するから、前路に錨索は存在しないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、左舷側の二隻の工事作業船を見ただけで、右舷船首5度580メートルに投入された幸安丸左舷船尾のアンカーブイや、船首方400ないし500メートルの、右舷10度から左舷10度にわたり設置されていたC工区西側及びD工区を示す6個の浮標に気付かず、その後、右転するなどして、同船左舷船尾の錨索を避けることなく進行した。
こうして、ウイングスは、依然、B受審人が見張り不十分で、幸安丸の錨索を避けないまま続航中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸安丸は、損傷がなく、ウイングスは、両舷推進器及び同軸を曲損したが、のち修理され、S船長が、右胸部挫傷並びに肋骨骨折を負った。
(原因)
本件衝突は、大分県姫島南岸沖合において、釣り場に向けて東行中のウイングスが、見張り不十分で、工事作業船として錨泊中の幸安丸の錨索を避けなかったことによって発生したが、幸安丸の警戒船が、見張り不十分で、注意を喚起しなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、大分県姫島南岸沖合において、釣り場に向けて東行中、左舷船首方に工事作業船として錨泊中の幸安丸ほか一隻と、同方向に、幸安丸右舷船尾のアンカーブイ1個とを認めた場合、他のアンカーブイの存在を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、認めたアンカーブイを十分に離して航行するから、前路に錨索は存在しないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷船首方に存在した幸安丸左舷船尾のアンカーブイに気付かず、同船の錨索を避けることなく進行して同索との衝突を招き、ウイングスの推進器及び推進器軸に曲損を生じさせ、ウイングスの船長に、右胸部挫傷並びに肋骨骨折を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第3条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、大分県姫島南岸沖合において、幸安丸の警戒船としての業務に当たり、捨石投入作業を終えた工事作業船に監督職員を移乗させて同職員が戻るまで停留する場合、幸安丸船尾船固め用の錨索に接近する他船があれば注意を喚起することができるよう、幸安丸船尾方の見通しが良い海域に速やかに移動するなどして、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、監督職員が戻るまでの短時間なら同工事作業船の付近にいても大丈夫と思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ウイングスが幸安丸の錨索に衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、注意を喚起しないまま幸安丸錨索とウイングスとの衝突を招き、前示のとおり、ウイングスに損傷を生じさせ、同船船長を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第3条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。