(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月5日11時45分
宮崎県戸崎鼻北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八若戎丸 |
漁船豊静丸 |
総トン数 |
13トン |
2.7トン |
全長 |
15.40メートル |
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登録長 |
11.88メートル |
6.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
330キロワット |
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漁船法馬力数 |
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60 |
3 事実の経過
第八若戎丸(以下「若戎丸」という。)は、まぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、平成9年7月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同14年5月5日07時00分宮崎県門川漁港を発し、東シナ海のまぐろ漁場へ向かった。
出港後、A受審人は、1人で操舵操船に当たり、同県飛島東方沖合約200メートルの地点を通過したのち、日向灘を南下して日向市美々津沖に達したところ、周囲に漁船や行き合い船などを見受けなくなり、航行の支障となる他船がいなくなったことから、07時30分美々津港灯台から043度(真方位、以下同じ。)4.3海里の地点で、針路を192度に定め、機関を経済速力である回転数毎分1,350にかけ、7.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、レーダーの衝突予防警報作動範囲を1.3ないし0.8海里に設定して、自動操舵によって進行した。
ところで、若戎丸の船橋は、床から天井までの高さが約1メートルの構造であることから、立った姿勢で見張りができないうえ、旋回窓がある前方の窓に面して主レーダー、補助レーダー、魚群探知機及びGPS受信機が、左舷側に無線方位測定機及び交信用無線機2台がそれぞれ設置されているものの、操舵輪は船橋後部の外壁に設置されており、オーニングを張った甲板上に出て操舵するようになっているので、A受審人は、出入港時を除き、広い海域を航行するときなどは、船橋右舷側に敷かれた仮眠用布団の傍に胡座をかいた姿勢で座り、手元に引き込んだ遠隔操縦用のコントローラーを使用して、見張り及び操舵操船に当たっていたものであった。
11時15分A受審人は、宮崎港沖合に達したとき、胡座をかいた姿勢を続けていることに疲れたので、身体を伸ばそうとして仮眠用布団の傍に横になったところ、周囲に航行の支障となる他船がいなかったので気が緩んでいたことや、穏やかな海象で心地の良い揺れを感じていたことなどに起因して眠気を催すようになり、そのまま横になっていると、居眠りに陥るおそれがある状況となったが、出航前に8時間以上の十分な睡眠を取っていたので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、操舵輪が設置されている前示甲板上に出て手動操舵で操船するなり、休息中の他の乗組員を呼んで2人で見張りに当たるなりすることなく、居眠り運航を防止する措置を十分にとらないまま続航した。
そして、11時34分半A受審人は、戸崎鼻灯台から031度6.5海里の地点に達したとき、正船首方1.3海里のところに、豊静丸をレーダーで捕捉することができたうえ、設定していた作動範囲で警報が鳴ったものと推認できる状況となったが、前示居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったので、いつしか居眠りに陥り、警報が鳴ったことに気付かないまま進行したところ、同時41分戸崎鼻灯台から034度5.8海里の地点に至ったとき、正船首方0.5海里のところに、豊静丸を視認することができ、その後、その船首から錨索が海中に延出していることや、甲板上の人物が竿を使用して釣りをしている様子などから、錨泊していると判断できる状況となったが、既に居眠りに陥っていたので、同船の存在に気付かなかった。
こうして、11時44分少し前A受審人は、豊静丸から300メートルのところまで接近して、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、居眠りに陥った状態であったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航中、11時45分戸崎鼻灯台から036度5.2海里の地点において、若戎丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、豊静丸の左舷中央部に直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、視程は約1海里であった。
また、豊静丸は、エアーホーンを有する和船型のFRP製漁船で、平成12年2月交付の四級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、私的な釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同14年5月5日08時30分宮崎港内の係留場所を発し、同港南東方沖合約5海里付近の釣り場へ向かった。
B受審人は、09時00分ごろ釣り場に到着して2回ほど錨泊場所を変えて釣りを行い、11時00分水深25メートルばかりの前示衝突地点で、重さ約8キログラムの5本爪ステンレス製錨を投下したのち、船首から化学繊維製の錨索を40メートルばかり延出して、法定形象物を掲揚しないまま、再び錨泊を始めた。
そして、11時41分B受審人は、船首をほぼ東方に向け、船尾甲板で右舷側を向いた姿勢を保ち、さびき仕掛けの竿を使用して釣りをしていたとき、左舷正横0.5海里のところに、自船に向首して接近する若戎丸を視認できる状況となったが、釣りに熱中する余り、竿を操作することなどに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船の接近に気付かなかった。
こうして、11時44分少し前B受審人は、若戎丸が、自船から300メートルのところまで接近して、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近しても、機関を使用して前方へ移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊中、豊静丸は、船首を102度に向けていたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、若戎丸は、球状船首部に擦過傷を、豊静丸は左舷中央部外板に破口をそれぞれ生じ、のち豊静丸が沈没した。また、B受審人が頸椎を捻挫する傷を負った。
(原因)
本件衝突は、宮崎県戸崎鼻北東方沖合において、漁場へ向けて航行中の若戎丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊中の豊静丸を避けなかったことによって発生したが、豊静丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、宮崎県戸崎鼻北東方沖合において、1人で操舵操船に当たり、漁場へ向けて航行中、胡座をかいた姿勢で見張り及び操舵操船を行うことに疲れた場合、身体を伸ばそうとして仮眠用布団の傍に横になると、周囲に航行の支障となる他船がいなかったので気が緩んでいたことや、穏やかな海象で心地の良い揺れを感じていたことなどに起因して居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、操舵輪が設置されている船橋後方の甲板上に出て手動操舵で操船するなり、休息中の他の乗組員を呼んで2人で見張りに当たるなりして、居眠り運航を防止する措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、出航前に十分な睡眠を取っていたので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、前路で錨泊中の豊静丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の球状船首部に擦過傷を、豊静丸の左舷中央部外板に破口をそれぞれ生じさせ、のち豊静丸が沈没した。また、B受審人が頸椎を捻挫するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、宮崎県戸崎鼻北東方沖合において、錨泊して釣りを行う場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、釣りに熱中する余り、竿を操作することなどに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、若戎丸が、衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近しても、機関を使用して前方へ移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。