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平成15年門審第50号
件名

漁船松丸遊漁船第2釣研丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年9月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、長浜義昭、橋本 學)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:松丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第2釣研丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
松 丸・・・・・船首部に擦過傷
第2釣研丸・・・船尾部に亀裂を伴う損傷
釣客7人が肋骨骨折及び打撲傷

原因
松 丸・・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第2釣研丸・・・注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、松丸が、見張り不十分で、錨泊中の第2釣研丸を避けなかったことによって発生したが、第2釣研丸が、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月19日15時25分
 長崎県対馬尾崎湾
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船松丸 遊漁船第2釣研丸
総トン数 4.7トン  
登録長 10.50メートル 10.66メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50  
出力   84キロワット

3 事実の経過
 松丸は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、平成11年2月交付の四級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年6月19日15時05分長崎県下県郡美津島町昼ヶ浦を発し、尾崎湾南西部の漁場に向かった。
 A受審人は、浅茅湾に出たところで芋埼北端に向け、15時12分芋埼灯台から000度(真方位、以下同じ。)80メートルの地点において、針路を229度に定め、機関回転数毎分2,300の11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、尾崎湾最奥部にある鹿ノ島西方の漁場に向けて進行した。
 A受審人は、立って手動操舵に当たっていたが、船尾甲板に長さ約1,000メートル幅約2メートルの刺し網を積んでいたことなどから、船首が浮上して正船首から両舷側にそれぞれ約10度の範囲で死角(以下「船首死角」という。)を生じており、船首方向の見通しが妨げられた状態で尾崎湾の南東岸に沿って続航した。
 A受審人は、これまで犬ヶ首埼沖から黒太郎島沖にかけての海域において、錨泊又は漂泊して釣りをしている遊漁船などを見かけていたので、15時18分少し前犬ヶ首埼北西方約800メートルの、芋埼灯台から231度1.1海里の地点に差し掛かったところで、遊漁船などを見落とすことのないよう、船首を左右に振って船首死角を補う見張りを始めた。
 A受審人は、船首を左右交互に振って前路に遊漁船などがいないことを確認しながら進行し、15時22分黒太郎島北方約700メートルの、芋埼灯台から230度1.8海里の地点に達したとき、同島沖に遊漁船などを認めなかったことから、船首を左右に振ることをやめ、立ったままいすに寄り掛かった姿勢をとり、船首方向の見通しが妨げられた状態で続航した。
 15時23分A受審人は、黒太郎島北西方約600メートルの、芋埼灯台から230度2.0海里の地点を通過したとき、正船首680メートルのところに第2釣研丸が存在し、その後、同船が黒色球形形象物を掲げていなかったものの、移動しないことなどから、錨泊又は漂泊していることを認め得る状況で、同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして、船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、同死角に入っていた第2釣研丸に気付かず、同船を避けずに進行した。
 こうして、A受審人は、15時24分芋埼灯台から230度2.2海里の地点に至ったとき、第2釣研丸に340メートルまで接近したが、右舷前方のまぐろ養殖いかだの近くにいた漁船に気を取られ、依然として船首死角に入っていた錨泊中の第2釣研丸に気付かず、同船を避けないまま続航中、15時25分芋埼灯台から230度2.4海里の地点において、松丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、第2釣研丸の船尾に平行に衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、第2釣研丸は、最大搭載人員11人のFRP製遊漁船兼交通船で、船長Cが1人で乗り組み、釣客9人を乗せ、釣りの目的で、船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成13年10月交付の四級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組んだ第一釣研丸とともに、同日13時00分長崎県下県郡美津島町箕形を発し、尾崎湾南西部の釣場に向かった。
 13時20分ごろC船長は、同釣場に到着し、水深約20メートルの前示衝突地点で重さ約10キログラムの錨を入れ、錨索を約50メートル繰り出して船首のたつに取り、黒色球形形象物を掲げずに機関を停止して錨泊した。
 一方、B受審人は、第一釣研丸の錨を入れずに、同船船首から錨泊した第2釣研丸の船尾にもやい索を取って係留し、第一釣研丸には釣客を乗船させていなかったので、第2釣研丸に乗船していた釣客の一部を第一釣研丸に移乗させ、前部甲板で釣りを始めさせた。
 ところで、B受審人及びC船長の両人は、第2釣研丸及び第一釣研丸ほか1隻を所有して遊漁船業などを営むNに雇用され、両人がいずれかに船長として乗り組んで遊漁船業などに従事しており、同日午前中も両船を運航して尾崎湾周辺の瀬に磯釣客を渡したほか、別の釣客8人を乗せて箕形浦北部の沖ノ島東方で釣りをさせていた。
 15時00分ごろC船長は、各瀬に渡していた磯釣客の状況を確認するため、第一釣研丸に乗船していたB受審人及び釣客を第2釣研丸に移乗させ、B受審人と交替して第一釣研丸の船長として乗り組み、第2釣研丸に取っていたもやい索を放して発進し、各瀬の見回りに向かった。
 B受審人は、C船長と交替して第2釣研丸の船長として乗り組み、引き続き錨泊したまま前部甲板で釣客9人に釣りを行わせ、船尾付近にある操縦席の前部でクーラーボックスに腰を掛け、釣客の世話をしながら周囲の見張りを行っていたところ、15時19分半船首が南西風に立って229度を向いていたとき、正船尾1.0海里のところに自船に向首した松丸を視認したので、その動静監視に当たった。
 15時23分B受審人は、松丸が自船に向首して正船尾680メートルに接近し、さらに、同時24分同船が避航の気配を示さないまま340メートルに接近したので、釣客に注意するよう声を掛けたものの、そのうち松丸の方で錨泊中の自船を避けてくれるものと思い、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、速やかに機関を始動して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもせずに、松丸の避航を期待して錨泊を続けた。
 こうして、B受審人は、操縦席前部で立って松丸を注視していたところ、15時25分少し前、同船が自船に向首したまま約100メートルに接近して衝突の危険を感じ、釣客に衝突の危険を知らせるとともに、操縦席で機関を始動して移動しようとしたが、慌てていたため機関を始動することに手間取り、衝突を避けるための措置をとることができないまま錨泊中、第2釣研丸は、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、松丸は、船首部に擦過傷を生じ、第2釣研丸は、船尾部に亀裂を伴う損傷を生じたが、のちいずれも修理され、釣客1人が全治3週間の肋骨骨折などを負ったほか、釣客6人が全治3日から1週間の打撲傷などを負った。

(原因)
 本件衝突は、長崎県対馬尾崎湾において、松丸が、見張り不十分で、錨泊中の第2釣研丸を避けなかったことによって発生したが、第2釣研丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県対馬尾崎湾の漁場に向けて航行中、船首が浮上して船首死角を生じていた場合、前路に存在する他船を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどして、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船首死角に入っていた錨泊中の第2釣研丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、松丸の船首部に擦過傷を、第2釣研丸の船尾部に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせ、第2釣研丸の釣客7人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、長崎県対馬尾崎湾において、黒色球形形象物を掲げずに錨泊中、自船に向首接近する松丸に避航の気配が認められなかった場合、速やかに機関を始動して移動するなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち松丸の方で錨泊中の自船を避けてくれるものと思い、速やかに衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、松丸が間近に接近してようやく衝突の危険を感じ、機関を始動して移動しようとしたものの、慌てていたため機関を始動することができず、そのまま錨泊を続けて松丸との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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