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平成15年広審第54号
件名

旅客船レインボーのうみ桟橋衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年9月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志、供田仁男、西林 眞)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:レインボーのうみ船長 海技免状:三級海技士(航海)(履歴限定)

損害
のうみ・・・船首部に曲損
桟 橋・・・各ゴム製防舷材に曲損

原因
着桟時のクラッチ位置の確認不十分

主文

 本件桟橋衝突は、着桟時のクラッチ位置の確認が不十分で、前進惰力のまま進行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月7日18時47分
 広島県広島港
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船レインボーのうみ
総トン数 380トン
全長 62.28メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,618キロワット

3 事実の経過
 レインボーのうみ(以下「のうみ」という。)は、船体中央部に船橋を備えた旅客船兼自動車渡船で、広島県中田港内の能美町中町から同町高田を経由して広島港に至る航路を往復する定期運航に従事しており、主機として、減速逆転機(以下「クラッチ」という。)付きのディーゼル機関2機(以下、各主機を「左舷機」及び「右舷機」という。)を装備し、船橋内船首側中央部に操縦スタンドを設け、その前面中央上部に舵輪が、上面左側にバウスラスター遠隔操縦レバーが、同右側に両舷主機遠隔操縦ハンドル(以下「操縦ハンドル」という。)がそれぞれ組み込まれ、操船者が1人で、操舵のほか、左手でバウスラスターを、右手で両舷主機をそれぞれ遠隔操縦できるようになっていた。
 操縦ハンドルは、それぞれ1本のハンドルでクラッチの切替えと主機回転数の制御を行うもので、2本が逆U字状を形成して片手で同時に操作できるように並べて取り付けられ、中立位置である垂直から前方又は後方に操作することにより、クラッチ切替用の3位置シリンダ内のピストンが操作空気によって移動してクラッチが中立位置から前進又は後進各位置に切り替わるようになっていたが、中立位置と前進又は後進各0ノッチ間には2センチメートルばかりの緩衝帯が設けられており、同帯を越えた位置まで操作しないと操作空気が作動しないようになっていた。また、クラッチ位置は、操縦ハンドルの両側に設けられた各主機のクラッチ位置表示ランプ、操縦ハンドルノッチ及び回転計などで確認できるようになっていた。
 こうして、のうみは、A受審人ほか2人が乗り組み、平成15年4月7日18時00分中町を発し、高田に至って旅客39人及び車両20台を搭載し、同時09分同地を発し、広島港の宇品旅客ターミナル桟橋(以下「桟橋」という。)に向かった。
 A受審人は、18時35分半広島港東防波堤灯台から181度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で、針路を同灯台に向首する001度に定め、両舷主機を全速力前進にかけて14.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、舵輪の後方に立って手動操舵に当たりながら進行した。
 18時43分少し前A受審人は、広島港東防波堤灯台から181度160メートルの地点で、両舷主機を半速力前進に減じて針路を323度に転じ、更に同時44分極微速力前進に減じ、同時44分半同灯台から313度520メートルの地点で、右舷機クラッチだけを中立位置として針路を桟橋に直角に向首する015度に転じ、同時45分桟橋の約280メートル手前となったころ左舷機クラッチも中立位置として続航した。
 18時46分A受審人は、4ノットばかりの行きあしで桟橋の約100メートル手前となったころ、両舷主機を後進とするため右手で操縦ハンドルを引いたが、慣れや桟橋への接近具合を見ることに気をとられ、クラッチ位置表示ランプなどによるクラッチ位置の確認を十分に行わなかったので、操縦ハンドルの引き方が不十分で後進位置に至らず、両舷主機ともクラッチが中立位置であることに気付かないまま桟橋に接近した。
 18時47分少し前A受審人は、行きあしが落ちていないことに気付いて操縦ハンドルを後進に大きく引き直したが及ばず、18時47分広島港東防波堤灯台から340度800メートルの地点で、のうみは、原針路のまま、2.0ノットの前進惰力で桟橋に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、潮候は低潮時であった。
 衝突の結果、船首部及び桟橋の各ゴム製防舷材に曲損などをそれぞれ生じたが、いずれも修理された。

(原因)
 本件桟橋衝突は、広島港宇品旅客ターミナル桟橋への着桟にあたり、両舷主機を後進とするため操縦ハンドルを操作した際、クラッチ位置の確認が不十分で、クラッチが中立位置のまま前進惰力で進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、広島港宇品旅客ターミナル桟橋への着桟にあたり、両舷主機を後進とするため操縦ハンドルを操作した場合、クラッチ位置表示ランプなどによるクラッチ位置の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、慣れや桟橋への接近具合を見ることに気をとられ、クラッチ位置表示ランプなどによるクラッチ位置の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、操縦ハンドルが緩衝帯にとどまって両舷主機のクラッチが中立位置のままであることに気付かず、前進惰力で進行して同桟橋との衝突を招き、船首部及び同桟橋の各ゴム製防舷材に曲損などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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