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平成15年神審第41号
件名

押船第1寄悠丸被押土運船神B-6005警戒船第二幸丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年9月30日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(田邉行夫、相田尚武、平野研一)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:第1寄悠丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第二幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
寄悠丸・・・・・損傷ない
神B-6005・・・右舷船首部に擦過傷
幸 丸・・・・・右舷船尾部ブルワークに亀裂を伴う凹損

原因
幸 丸・・・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
寄悠丸・・・・・動静監視不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二幸丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第1寄悠丸被押土運船神B-6005の進路を避けなかったことによって発生したが、第1寄悠丸被押土運船神B-6005が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月23日16時12分
 大阪湾南部
 
2 船舶の要目
船種船名 押船第1寄悠丸 土運船神B-6005
総トン数 250.06トン 4,361トン
全長 29.00メートル 95.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,912キロワット  
船種船名 警戒船第二幸丸  
総トン数 6.87トン  
全長 16.10メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 308キロワット  

3 事実の経過
 第1寄悠丸(以下「寄悠丸」という。)は、2機2軸の鋼製押船で、A受審人ほか5人が乗り組み、土砂約5,000トンを載せて、船首4.5メートル船尾4.7メートルの喫水となった鋼製土運船神B-6005の船尾凹部に、直径約50ミリメートル(以下「ミリ」という。)と約100ミリのワイヤロープを両舷にそれぞれ1本ずつ使用してその船首部を嵌合し(かんごうし)、全長約120メートルの押船列(以下「寄悠丸押船列」という。)を構成して船首2.0メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成14年10月23日15時41分大阪湾南部の地ノ島(じのしま)灯台から062度(真方位、以下同じ。)1.4海里ばかりに位置する関西国際空港埋立工事用土砂搬出専用桟橋(以下「加太(かだ)専用桟橋」という。)を発し、関西国際空港2期工事埋立地(以下「埋立地」という。)に向かった。
 ところで、寄悠丸の運航体制は、日常的に神B-6005と一体となり、未明に兵庫県尼崎西宮芦屋港沖または関西国際空港沖の錨地を出航後、加太専用桟橋または大阪府泉南郡岬町の桟橋に向かい、そこで土砂を積載したのち、埋立地に向かい、現場に土砂を投入する作業を1日に2回ほど繰り返し、夕刻には前示錨地に停泊することとなっていた。
 16時03分A受審人は、地ノ島灯台から040度1.8海里の地点において、針路を344度に定め、機関を全速力前進にかけて6.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
 その後、A受審人は、地ノ島灯台から12.5度3.0海里の地点を起点に針路062度で埋立地の南西沖合に向く基準航路に乗せる予定で続航した。
 16時07分A受審人は、地ノ島灯台から029度2.0海里の地点に達したとき、左舷船首52度1,670メートルのところに、前路を右方に横切る態勢の第二幸丸(以下「幸丸」という。)を初めて認め、マストに掲げる旗により、警戒船であることを知った。
 16時10分A受審人は、地ノ島灯台から023度2.3海里の地点において、幸丸が左舷船首47度550メートルとなり、衝突のおそれのある態勢で接近していたものの、同船に対する動静監視を行わないまま、速やかに警告信号を行わず、更に間近に接近したとき、機関を後進にかけて、行きあしを停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
 16時11分A受審人は、ようやく危険を感じ、全速力後進としたが及ばず、16時12分、地ノ島灯台から020度2.4海里の地点において、原針路のまま、わずかに前進行きあしの残った神B-6005の右舷船首部が、幸丸の右舷船尾部に前方から81度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近海域には微弱な南西流があった。
 また、幸丸は、船体中央部に操舵室を有する一層甲板型FRP製警戒船で、平成11年6月16日交付の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人ほか1人が乗り組み、警戒業務の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年10月23日12時20分大阪府深日(ふけ)港を発し、同港沖合の警戒水域に向かった。
 ところで、幸丸は、通常は大阪湾南東部において、漁業に従事し、しらす漁などを行っていたが、月あたり1ないし2回の割合で、深日漁業協同組合が関西国際空港2期建設協力会から委託を受けた警戒業務を行い、主として、土運船に異常接近するおそれのある船舶に対して注意を喚起し、航行安全に関する情報提供を行う業務に従事していた。
 13時00分ごろ幸丸は、地ノ島灯台から021度2.5海里に位置する第1警戒ポイントに到着したのち、漂泊を開始し、GPSプロッタで自船の位置を確認しながら、16時までの間に、折からの南西流に流されたため、10回ばかりの潮上りを繰り返した。
 16時06分B受審人は、地ノ島灯台から000度1.9海里の地点において、第1警戒ポイントから南西方向に流されていることを知り、同ポイントに戻るべく発進し、針路を065度に定め、10.0ノットばかりの速力で進行した。
 16時10分B受審人は、地ノ島灯台から016度2.3海里の地点に達し、右舷船首52度550メートルのところに寄悠丸押船列を視認することができ、その後前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近することを認めうる状況であったが、GPSプロッタに表示された第1警戒ポイントの位置に気を取られ、右方の見張りを十分行わなかったので、これに気付かず、寄悠丸押船列の進路を避けないまま続航し、同時12分少し前、同ポイントに近づいたので、大きく減速し、更に機関を中立にした直後、16時12分幸丸は、原針路のまま、惰力で進行中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、寄悠丸に損傷はなかったが、神B-6005の右舷船首部に擦過傷を生じ、幸丸は右舷船尾部ブルワークに亀裂を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、大阪湾南部において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれのある態勢で接近中、幸丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る寄悠丸押船列の進路を避けなかったことによって発生したが、寄悠丸押船列が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、大阪湾南部において、第1警戒ポイントに向け航行する場合、前路を左方に横切る態勢で接近する寄悠丸押船列を見落とさないよう、右方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、GPSプロッタに表示された第1警戒ポイントの位置に気を取られ、右方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切る態勢で接近する寄悠丸押船列に気付かず、同押船列の進路を避けることなく進行して同押船列との衝突を招き、幸丸の右舷船尾部ブルワークに亀裂を伴う凹損を、神B-6005の右舷船首部に擦過傷を、それぞれ生じさせた。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、大阪湾南部を北行中、左舷前方に前路を右方に横切る態勢の幸丸を認めた場合、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、同船の方位の変化を確かめるなど動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、幸丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する同船に対し、速やかに警告信号を行わず、更に間近に接近したとき、機関を後進にかけて、行きあしを停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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