(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月15日05時15分
兵庫県家島諸島南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船八幡丸 |
漁船金栄丸 |
総トン数 |
499トン |
4.9トン |
全長 |
70.91メートル |
登録長 |
|
11.42メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
46キロワット |
3 事実の経過
八幡丸は、船尾船橋型の鋼製砂利採取運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉で、船首1.25メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成14年12月15日01時10分大阪港堺泉北区汐見ふ頭を発し、航行中の動力船が掲げる灯火を表示して、香川県大槌(おおつち)島西方の海砂採取海域へ向かった。
ところで、八幡丸は、船首甲板にクレーン及びその運転席が装備され、同運転席により、操舵室中央の操舵位置から前方を見るとき、正船首から左右各舷約4度の間が死角となり、また、A受審人は、船橋当直における見張りについて、時々身体を左右に移動するなどし、同死角を補う必要性を知っていた。
A受審人は、離岸操船後自室で休息したのち、05時05分男鹿(たんが)島灯台から122度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点で昇橋し、船橋中央の操舵輪後方のいすに腰掛けて単独の航海当直にあたり、針路を兵庫県家島諸島加島(かしま)の南方1海里ばかりに向く271度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
05時12分A受審人は、男鹿島灯台から137度2.9海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1,500メートルのところに、金栄丸の白、紅、緑3灯と、甲板上を照らす作業灯の余光を視認できる状況であったが、前路に他船はいないものと思い、右舷方の家島諸島の漁港から出漁してくる数隻の漁船に気を取られ、前路の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、金栄丸の存在に気付かなかった。
A受審人は、その後金栄丸とほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近したことにも気付かず、十分な距離をもって同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく、同じ針路のまま進行し、05時15分男鹿島灯台から147度2.5海里の地点において、八幡丸は、原針路原速力のまま、その左舷船首部が金栄丸の左舷船首部に前方から1度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、金栄丸は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、平成元年3月に一級小型船舶操縦士免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同14年12月15日04時20分兵庫県坊勢(ぼうぜ)漁港長井地区を発し、航行中の動力船が掲げる灯火を表示して、同港南東方沖合の漁場へ向かった。
B受審人は、漁場に至って、まんがと称する漁具を取り付けた曳索を船尾から約300メートル延出し、05時00分男鹿島灯台から177度2.1海里の地点で、針路を090度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分2,800にかけ、5.0ノットの速力で、漁ろうに従事している船舶を示す灯火を表示しないで操業を開始したのち、前部甲板に赴いて100ワットの作業灯2個を点灯し、魚倉に海水を張るなどの作業に取り掛かった。
05時12分B受審人は、男鹿島灯台から152度2.4海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1,500メートルのところに、八幡丸の白、白、紅、緑4灯を視認できる状況であったが、甲板作業に気を取られ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かなかった。
B受審人は、その後八幡丸とほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近したことにも気付かず、十分な距離をもって同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく、同じ針路のまま進行し、05時14分ごろ船橋に戻ったが、依然、見張りを十分に行わないで僚船と無線交信を始めて続航し、金栄丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、八幡丸は、左舷船首部外板に擦過傷を生じたのみであったが、金栄丸は、左舷船首部外板に亀裂を伴う損傷を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、兵庫県家島諸島南東方沖合において、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがあるとき、八幡丸が、見張り不十分で、金栄丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったことと、金栄丸が、見張り不十分で、八幡丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、兵庫県家島諸島南東方沖合において西行中、単独で船橋当直にあたる場合、クレーン運転席のため船首方に死角があったから、東行中の金栄丸を見落とすことのないよう、身体を左右に移動するなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、右舷方の家島諸島の漁港から出漁してくる数隻の漁船に気を取られ、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、金栄丸とほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく進行して衝突を招き、自船の左舷船首部外板に擦過傷を、金栄丸の左舷船首部外板に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、兵庫県家島諸島南東方沖合において、単独で操船に当たり、操業しながら東行する場合、西行中の八幡丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、甲板作業や僚船との無線交信に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、八幡丸とほとんど真向かいに行き会い衝突するおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。