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平成15年神審第45号
件名

プレジャーボート弥七離岸堤衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年9月19日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

副理事官
河野 守

受審人
A 職名:弥七船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
艇首底部に擦過傷
同乗者が腕等に擦り傷

原因
同乗者に対する乗艇中の注意不適切、緊急機関停止装置の取扱い不適切

裁決主文

 本件離岸堤衝突は、同乗者に対する乗艇中の注意が適切でなかったばかりか、緊急機関停止装置の取扱いが適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月4日13時10分
 大阪府下荘漁港西方沖合
 
2 船舶の要目
 船種船名 プレジャーボート弥七
 全長 2.84メートル
 機関の種類 電気点火機関
 出力 55キロワット

3 事実の経過
 弥七は、ウォータージェット推進の2人乗り用FRP製水上オートバイで、平成6年8月22日免許の四級小型船舶操縦士の免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、遊走の目的で、船首尾とも0.3メートルの喫水をもって、平成14年8月4日13時ごろ大阪府下荘(しもしょう)漁港東側の海岸を発し、同漁港西方の箱作(はこつくり)海水浴場沖合に向かった。
 ところで、箱作海水浴場の沖合100メートルのところには、海岸線と平行して北東側から南西側へ順に長さ80メートル、同130メートル及び同90メートルの3本の離岸堤がそれぞれ80メートルの間隔をもって直線状に整備されていた。
 また、弥七には、艇体のほぼ中央にバー状のステアリングハンドル(以下「ハンドル」という。)が装備され、ハンドルの後方に鞍型の2人用座席が備え付けられていた。ハンドルの右グリップの根元前部にはスロットルレバーがあり、機関を始動したのち、同レバーを引き込んだり緩めたりすることによりウォータージェットポンプに接続する機関の回転数を増減して前進速力を制御することが可能であった。ハンドルの左グリップの根元には機関停止スイッチ2個と機関始動ボタン1個が装備され、取扱説明書には、緊急機関停止装置の適切な取扱いについて、機関を始動するときはカールコードのバンドを操縦者の左手首に係止したうえで、同コードの端のロックプレートを2個の機関停止スイッチのうちハンドル上部にある方のスイッチに差込んでから機関を始動するように記載されていた。
 A受審人は、13時05分前示離岸堤のうち中央の離岸堤で知り合った女性1人を同乗させ、自らが操縦して離岸堤沖合を遊走することとし、スロットルレバーに不用意に触れないことなど乗艇中の注意を適切に与えることなく、同乗者を前部座席に座らせたのち、弥七を離岸堤沖合30メートルまで押し出して自身は後部から乗艇した。
 13時10分少し前A受審人は、下荘港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から253.5度(真方位、以下同じ。)850メートルの地点で、艇首を沖合に向く327度として、機関始動後にカールコードのバンドを手首に係止すれば支障ないものと思い、機関始動前にロックプレートに繋がるカールコードのバンドを手首に係止するなど緊急機関停止装置の取扱いを適切に行わないで、同乗者の後ろで座席に跨り腰を浮かせた姿勢のまま左グリップに手を伸ばし、機関始動ボタンを押して機関を始動させた。
 この直後、弥七に高速で接近してきた他の水上オートバイの水しぶきを浴びたことに驚いた同乗者がスロットルを握ったので、弥七が急発進するとともに、A受審人が後方に落水したが、カールコードのバンドをA受審人の手首に係止していなかったので、弥七は緊急機関停止装置が働かないまま進行した。急発進後も同乗者はスロットルを緩めず、ハンドルが右側に取られていたので、弥七は右旋回して離岸堤に接近して行った。
 13時10分西防波堤灯台から252度810メートルの地点において、弥七は、艇首が147度に向いたとき、時速30キロメートルの対地速力で離岸堤にほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 衝突の結果、艇首底部に擦過傷を生じたが、のち修理され、同乗者は衝撃で離岸堤上に投げ出されて腕等に擦り傷を負った。

(原因)
 本件離岸堤衝突は、同乗者を前部座席に座らせて発進しようとする際、同乗者に対する乗艇中の注意が適切でなかったばかりか、緊急機関停止装置の取扱いが適切でなく、同乗者が不用意にスロットルレバーを握って急発進したとき、船長が落水して機関が停止しないまま離岸堤に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、同乗者を前部座席に座らせて発進しようとする場合、同乗者が不用意にスロットルレバーを握ることなどによる急発進で自身が落水しても進行しないよう、機関始動前にロックプレートに繋がるカールコードのバンドを手首に係止するなど、緊急機関停止装置の取扱いを適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、機関始動後に同バンドを手首に係止しても支障ないものと思い、緊急機関停止装置の取扱いを適切に行わなかった職務上の過失により、急発進で落水して機関を止めることができず、離岸堤に向首進行させて衝突を招き、艇首底部に擦過傷を生じさせ、同乗者の腕等を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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