(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月20日13時35分
福井県内浦港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート大翔丸 |
プレジャーボート01 |
全長 |
2.78メートル |
2.54メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
36キロワット |
69キロワット |
3 事実の経過
大翔丸は、2人乗りのジェット推進式FRP製水上オ−トバイで、普段は大阪府豊能郡豊能町のA受審人の父親所有の倉庫に保管されていた。
A受審人は、昭和52年8月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したあと、プレジャーボート古谷丸を購入して釣りや遊走などのマリンレジャーに使用していたところ、平成13年5月に大翔丸を購入して水上オートバイの遊走も行うようになった。そして、同14年7月同人が経営している酒類販売店の顧客や知人との親睦のため、海水浴やマリンレジャーを楽しむこととし、同月20日00時ごろ大翔丸をトラックに、古谷丸をトレーラーにそれぞれ乗せ、家族や顧客らと一緒に自宅を出発して福井県内浦港に向かい、04時ごろ同港港内の音海(おとみ)漁港に到着した。
A受審人は、しばらく車内で休憩したあと、09時ごろから大翔丸に乗り組み、内浦港内を一人で遊走したあと、顧客やその家族を交代で後部座席に乗せて遊走を繰り返した。そして、10時ごろいったん遊走を中止して同船を音海漁港漁具干場岸壁(以下「岸壁」という。)に係留し、同岸壁西端付近(以下「バーベキュー会場」という。)で顧客らとともにバーベキューの用意にとりかかり、11時ごろから料理を食べながらビールを飲んだ。
ところで、C受審人及びB指定海難関係人は、いずれもA受審人が経営する酒類販売店の顧客で、B指定海難関係人はA受審人と一緒に音海漁港に至り、C受審人は家族と友人らとともに10時ごろ同漁港に到着してA受審人らのグループに合流した。こうしてA受審人及び顧客とその家族約20人が音海漁港に集まり、その中で小型船舶操縦士の免許を取得していたのは、A、C両受審人のほか3人で、大部分の者が免許を取得していなかった。
12時ごろA受審人は、再び大翔丸に乗り込み、水上オートバイに乗ったことがない、無資格のB指定海難関係人を後部座席に乗せ、岸壁を発進して数分間港内を遊走し、その後別の乗船希望者を乗せたあと岸壁に戻ってバーベキュー会場の南側に係留したが、そのとき、無免許操縦について、いちいち注意するまでもないと思い、B指定海難関係人に対し、単独で大翔丸を操縦しないよう厳重に注意せず、いつでも機関を始動できるよう、緊急機関停止装置のロックプレートを付けたまま同船を離れた。
B指定海難関係人は、A受審人とともに大翔丸に乗って遊走している間、後部座席から同人が操縦するのを見て水上オートバイの操縦がそれほどむずかしくなく、自動二輪車の運転ができるので無資格の自分でも水上オートバイを操縦することができ、1人で乗ってみたいと思ったが、同人には何も言わなかった。
大翔丸を離れたあとA受審人は、バーベキュー会場に戻って飲食し、13時ごろ古谷丸に乗り、その後有資格の知人と交代で同船を操縦しながら内浦港内で水上スキーをしていた。
B指定海難関係人は、バーベキュー会場で料理を食べながらビールを少し飲み、魚釣りなどをしていたが、13時30分大翔丸がロックプレートを付けたまま岸壁に係留してあるのを見て、近くに置いてあった救命胴衣を着用して同船に乗り込み、同時33分内浦港防波堤灯台から089度(真方位、以下同じ。)1,050メートルの地点で岸壁を発進した。
初めて水上オートバイを操縦するB指定海難関係人は、岸壁沖をゆっくりと南下していたとき、前方に北上して来る01を認め、同岸壁から約200メートル離れたところで同岸壁の方に戻ろうとしてゆっくりと右転し、13時34分少し過ぎ内浦港防波堤灯台から096度950メートルの地点で、岸壁のほぼ中央に向首する045度の針路とし、機関を前進にかけて11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
13時34分半B指定海難関係人は、岸壁まで80メートルとなったとき、右舷船尾25度70メートルにほぼ同じ方向に航走している01を認め、再び沖合に向かうつもりでゆっくり右転を開始した。
13時35分少し前B指定海難関係人は、右転しながら岸壁東端を左舷側20メートルに航過し、13時35分わずか前右転を続けながらほぼ180度に向首し、岸壁南東方の音海漁港防波堤(以下「防波堤」という。)が左舷側約25メートルにほぼ並んだとき、緩やかに右転中の01が右舷船首55度40メートルに接近して衝突のおそれが生じたが、速やかに停止するなどして衝突を避けるための措置がとられないまま、同じ速力で右転を続け、間もなく203度に転じて沖合に向け進行中、進行方向が直角に近い角度で交差する01を至近に見て危険を感じ、増速して右転しようとしたが、13時35分大翔丸は、内浦港防波堤灯台から095度1,100メートルの地点において、203度に向首したまま、その右舷船首が01の船首と直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
大翔丸は、B指定海難関係人が落水し、緊急機関停止装置によって停止した。
A受審人は、B指定海難関係人が単独で大翔丸を操縦していることを知らないまま、岸壁南西方約200メートル沖合で、古谷丸を操縦して水上スキーを引いていたとき、衝突の事実を知り、直ちに救助に赴いて事後の措置にあたった。
また、01は、2人乗りのジェット推進式FRP製水上オートバイで、平成9年3月四級小型船舶操縦士の免許を取得したC受審人が乗り組み、A受審人の顧客のNを後部座席に乗せ、13時15分岸壁を発し、沖合に向かった。
C受審人は、平素A受審人の店に出入りし、B指定海難関係人及びN同乗者と面識があり、内浦港に到着したあとバーベキューの用意をし、12時ごろから飲食して350ミリリットルの缶ビール3缶を飲んだあと、01に乗り組み内浦湾を遊走したが、N同乗者から乗せて欲しいとの申し出があったので、同人に救命胴衣を着用させて後部座席に乗せた。
岸壁を発進して数分後C受審人は、内浦港防波堤灯台の南南東方約700メートルのところで停止したとき、N同乗者が操縦練習を希望したので、同人を操縦席に座らせて自らは後部座席に座り、スロットルレバーの使い方や停止方法などを10分ほどかけて指導した。
その後C受審人は、N同乗者がバーベキュー会場でかなり飲酒していることを知っていたにも関わらず、同人に操縦させ、緊急機関停止用コードをN同乗者に取り付けさせないまま、13時30分内浦港防波堤灯台から157度750メートルの地点を発進して岸壁に向けゆっくりと航走を始めた。
C受審人は、船首が左右に大きく振れるので、ときどきN同乗者に進行方向を指示しながら岸壁に向かい、13時33分内浦港防波堤灯台から116度800メートルの地点で、N同乗者に操縦させたまま、針路を050度に定め、機関を前進にかけて8.0ノットの速力で進行した。
C受審人は、定針したころ前方に大翔丸を初認し、13時34分半同船を左舷船首30度70メートルに認めるようになり、無資格のB指定海難関係人が1人で操縦していることを知り、間もなくN同乗者が緩慢なステアリングハンドル(以下「ハンドル」という。)操作をしながら緩やかに右転を始め、同時35分わずか前090度を向いたとき、大翔丸が左舷船首35度40メートルとなり、衝突のおそれがある状況となったが、N同乗者が大きく右転して衝突を避けることを期待し、速やかに自らハンドルを操作して大きく右転するか、同人に停止するよう指示するなど衝突を避けるための措置をとらず、同人に操縦させたまま大翔丸の動向を見守った。
C受審人は、大翔丸が左舷船首方10メートルに迫ったとき、ようやくN同乗者に「近すぎますよ。」と告げたものの、01は、緩慢に右転しながら113度に向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
01は、C受審人及びN同乗者が落水したが、機関が停止しないまま衝突地点付近でゆっくり旋回中、C受審人によって機関が停止された。
衝突の結果、大翔丸は、右舷船首部に凹損、ゴム製フェンダーに亀裂などの損傷を生じ、01は、船首部に亀裂及びハンドル前方の小物入れカバーが脱落するなどの損傷を生じた。また、C受審人が全治約10日間の右前額部挫傷及び頸椎損傷を負い、N同乗者(昭和24年11月19日生)が頸椎損傷、肋骨骨折などを負って死亡した。
(原因)
本件衝突は、福井県内浦港において、両船が相前後して陸岸の近くを航走中、互いに右転して衝突のおそれが生じた際、大翔丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、01が、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
大翔丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格者に対し、単独で操縦しないよう注意しなかったことと、無資格者が係留中の同船を単独で操縦したこととによるものである。
(受審人等の所為)
C受審人は、内浦港において、後部座席に座り、無資格の同乗者に操縦させて航走中、右転中の大翔丸と接近して衝突のおそれが生じた場合、速やかに自らハンドルを操作して大きく右転するか、同乗者に停止するよう指示するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、同乗者が大きく右転して衝突を避けることを期待し、速やかに自らハンドルを操作して大きく右転するか、同乗者に停止するよう指示するなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、大翔丸との衝突を招き、大翔丸の右舷船首部に凹損及びゴム製フェンダーに亀裂などの損傷を、01の船首部に亀裂及び小物入れカバーが脱落するなどの損傷をそれぞれ生じさせるとともに、自身が全治約10日間の右前額部挫傷及び頸椎損傷を負い、同乗者を頸椎損傷、肋骨骨折などにより死亡させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、内浦港において、多数の顧客との親睦のため、無資格の顧客を乗せて遊走したあと、岸壁に係留した大翔丸から離れる場合、同乗した無資格の顧客に対し、単独で操縦しないよう厳重に注意すべき注意義務があった。しかし、同人は、いちいち注意するまでもないと思い、単独で操縦しないよう厳重に注意しなかった職務上の過失により、無資格の顧客が、係留中の大翔丸を単独で操縦して01との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせ、01の同乗者を死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、係留中の大翔丸を単独で操縦したことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、単独で操縦したことを深く反省している点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。