(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月29日14時19分
大阪港堺泉北区
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船しんりゅう |
貨物船パシフィック キング |
総トン数 |
747トン |
3,451トン |
全長 |
86.25メートル |
101.99メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,765キロワット |
2,647キロワット |
3 事実の経過
しんりゅうは、自動衝突予防援助装置(以下「アルパ」という。)を備えた船尾船橋型の鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか5人が乗り組み、海水バラスト880トンを張り、船首1.82メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成14年10月29日13時50分大阪港堺泉北区新日本製鐵堺製鉄所製品岸壁を発し、大分港へ向かった。
A受審人は、船橋における航海当直として、自らが08時から12時及び20時から24時に、B受審人が00時から04時及び12時から16時に、一等航海士が04時から08時及び16時から20時にそれぞれ単独で就く4時間3直体制としていた。
A受審人は、離岸操船に引き続き船橋当直に就いて堺航路を西行し、14時09分わずか過ぎ堺航路第8号灯浮標を左舷に航過したとき、船首甲板での離岸作業を終えたB受審人が昇橋して航海当直の配置に就いたので、まだ、港内を航行中であったが、気になる他船を見掛けなかったことから、部下に港内航行を任せても大丈夫と思い、自ら操船の指揮を執ることなく降橋した。
B受審人は、単独の船橋当直に就き、14時10分半わずか前大阪港大和川南防波堤北灯台(以下「北灯台」という。)から000度(真方位、以下同じ。)240メートルの地点に達したとき、針路を270度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で自動操舵により進行した。
定針時、B受審人は、左舷船首22度2.9海里のところに、前路を右方に横切る態勢のパシフィック キング(以下「パ号」という。)を初めて視認したものの、接近船に対する警報装置を活用するなどアルパを適切に使用しないまま続航した。
14時14分少し過ぎB受審人は、北灯台から279度1,450メートルの地点で堺航路を出航したとき、明石海峡航路東口へ向かう269度の針路に転じ、左舷船首方のパ号に気を留めずに進行した。
14時15分B受審人は、北灯台から277度1,750メートルの地点に至ったとき、パ号が左舷船首21度1.4海里となり、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、自船が保持船の立場であるから相手船が自船を避けるものと思い、右舷方のみに気を配り、パ号に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、自船の進路を避けないで接近を続けるパ号に対して警告信号を行わず、更に間近になっても行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
B受審人は、同じ針路速力で進行し、14時18分半ごろ左舷船首至近に接近したパ号を見て驚き、左舵20度をとって減速しながら汽笛を吹鳴したところ、パ号が時を同じくして右転してきたように見えたので、右舵一杯に取り直したが及ばず、14時19分北灯台から273度1.7海里の地点において、しんりゅうは、8.0ノットの速力で270度に向いたころ、その左舷側後部にパ号の船首部が前方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、入浴中、汽笛の吹鳴と機関の減速を認めるとともに、強い衝撃を感じたので、急いで昇橋し、パ号と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、パ号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長Zほか22人が乗り組み、川砂5,570トンを載せ、船首6.6メートル船尾7.1メートルの喫水をもって、同月24日10時50分中華人民共和国福州港を発し、大阪港へ向かった。
越えて29日12時55分Z船長は、二等航海士を見張りに、操舵手を手動操舵にそれぞれ就かせ、操船指揮に当たって大阪湾を北上し、14時08分北灯台から246度3.3海里の地点で、針路を042度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力で進行した。
14時10分半わずか前Z船長は、北灯台から249.5度2.9海里の地点に達したとき、右舷船首26度2.9海里のところに前路を左方に横切る態勢のしんりゅうを初めて視認し、接近模様に注意しながら航行した。
14時15分Z船長は、北灯台から259度2.2海里の地点に至ったとき、しんりゅうが方位変化のないまま1.4海里となり、その後衝突のおそれのある態勢であることを認めたが、もう少し接近してから同船の船尾方を替わせばよいと思い、直ちに右転するなどしんりゅうの進路を避けることなく続航した。
Z船長は、14時18分しんりゅうが約600メートルに接近したころ、ようやく衝突の危険を感じて減速しながら右舵10度としたところ、同船が左転を始めたので、左舵に転じたが、しんりゅうが左転を中止したように見えたことから、再度右舵20度としたが及ばず、パ号は、船首が050度に向いたとき、6.0ノットの速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、しんりゅうは、左舷側後部外板に長さ約10メートルの亀裂及びハンドレール等の損壊を、パ号は、左舷船首部外板に直径約0.4メートルの破口及びハンドレール等の損壊をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、大阪港堺泉北区において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、パ号が、前路を左方に横切るしんりゅうの進路を避けなかったことによって発生したが、しんりゅうが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
しんりゅうの運航が適切でなかったのは、船長が、港内を航行中、自ら操船の指揮を執らなかったことと、船橋当直者が、動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、大阪港堺泉北区において、港外へ向け航行する場合、自ら操船の指揮を執るべき注意義務があった。しかるに、同人は、気になる他船を見掛けなかったことから、部下に港内航行を任せても大丈夫と思い、自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、パ号と衝突する事態を招き、自船に左舷側後部外板の亀裂及びハンドレール等の損壊を、パ号に左舷船首部外板の破口及びハンドレール等の損壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、大阪港堺泉北区において、港外へ向け西行中、左舷船首方に前路を右方に横切るパ号を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が保持船の立場であるから相手船が自船を避けるものと思い、右舷方のみに気を配り、パ号に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が自船の進路を避けないで接近してきたことに気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。