(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年11月17日01時54分
千葉県犬吠埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船真英丸 |
貨物船ショウ シュン |
総トン数 |
689トン |
5,373トン |
全長 |
79.20メートル |
113.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3,883キロワット |
3 事実の経過
真英丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船兼砂利運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、残土1,900トンを積載し、船首4.20メートル船尾5.24メートルの喫水をもって、平成14年11月16日14時40分京浜港川崎区を発し、福島県相馬港に向かった。
A受審人は、3直4時間制の船橋当直を0時から4時まで受け持つこととしており、23時45分昇橋して単独の同当直に就き、翌17日01時30分少し過ぎ犬吠埼灯台から127度(真方位、以下同じ。)2.6海里の地点において、針路を005度に定め、機関を全速力前進にかけ10.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、右舷船尾71度1.0海里のところに、北上中のショウ シュン(以下「シ号」という。)が表示した白、白、紅3灯を初めて視認したが、同船の方位が前方にかわっていたことから、危険な見合い関係になることはないものと思い、その後の動静監視を十分に行わず、間もなく海図室に赴き、書類の整理作業を開始した。
01時49分A受審人は、犬吠埼灯台から053度2.9海里の地点に達したとき、シ号が、右舷船首80度1,200メートルのところで茨城県鹿島港に向けて左転し、その後前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然動静監視不十分で、このことに気付かなかったので、直ちに右転するなどシ号の進路を避けることなく続航した。
01時54分少し前A受審人は、前示の作業を終えて船橋に戻ったとき、右舷船首至近に迫ったシ号を認め、衝突の危険を感じて左舵一杯としたが効なく、01時54分犬吠埼灯台から042度3.6海里の地点において、真英丸は、原針路原速力のまま、その右舷船首部に、シ号の左舷船首部が、後方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力5の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、シ号は、船尾船橋型鋼製ケミカルタンカーで、B指定海難関係人ほか大韓民国人12人及び中華人民共和国人4人が乗り組み、椰子(やし)油など1,840.636トンを積載し、船首3.90メートル船尾5.10メートルの喫水をもって、同月16日16時15分京浜港横浜区を発し、茨城県鹿島港に向かった。
B指定海難関係人は、3直4時間制の船橋当直を0時から4時まで受け持つこととしており、23時45分昇橋し、甲板手を補佐につけて同当直に就き、翌17日01時29分犬吠埼灯台から126度3.7海里の地点において、針路を000度に定め、機関を回転数毎分180にかけ12.0ノットの速力とし、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
間もなく、B指定海難関係人は、甲板手を貨物の検温作業のため降橋させ、自らは船橋左舷後部の海図室に赴き、海図の整理作業を開始し、01時49分犬吠埼灯台から058度3.3海里の地点に達したとき、海図室から出て前方を一瞥(いちべつ)し、鹿島港に向けて針路を325度に転じた。
転針したときB指定海難関係人は、左舷船首60度1,200メートルのところに、北上中の真英丸が表示した白、白、緑3灯を視認することができる状況で、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、見張りを十分に行わなかったので、同船の存在と接近に気付かないまま、海図室で前示の作業を再開した。
B指定海難関係人は、真英丸に対し警告信号を行わず、同船がさらに接近しても衝突を避けるための協力動作をとらないで続航し、01時54分少し前検温中の甲板手が前部甲板から船橋に向け照射した灯火に気付き、続いて左舷船首至近のところに真英丸を初めて認め、汽笛を吹鳴して右舵一杯としたが及ばず、シ号は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、真英丸の右舷船首部外板に凹損を、シ号の左舷船首部外板に凹損をそれぞれ生じた。
(航法の適用)
本件は、千葉県犬吠埼東方沖合において、真英丸が北上中、シ号が北西進中に衝突したものであるが、以下、適用される航法について検討する。
衝突地点は、港則法も海上交通安全法も適用される海域ではないので、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)が適用される。
衝突のおそれがある見合い関係が発生したのは、衝突の5分前、両船が1,200メートルに接近したときであり、真英丸は、マスト灯の見え具合などからシ号が左転したことも、同船の方位がかわらなくなったことも容易に識別でき、操縦性能を考慮すると、直ちに右転するなど、前路を左方に横切るシ号の進路を避けることは可能で、海域の広さや第3船の不在など行動を制限する要素はなく、時間的にも距離的にも余裕があった。
同様に、シ号は、衝突するまで針路及び速力を変更していないうえ、前路を右方に横切る真英丸に対し、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることが可能であった。
以上を総合すると、真英丸は予防法第16条の避航船に、シ号は同法第17条の保持船にそれぞれ当たり、同法第15条の横切り船の航法を適用して律するのが相当と判断する。
(原因)
本件衝突は、夜間、千葉県犬吠埼東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上する真英丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るシ号の進路を避けなかったことによって発生したが、北西進するシ号が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、千葉県犬吠埼東方沖合を北上中、右舷方に同航中のシ号を視認した場合、その後の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船の方位が前方にかわっているので、危険な見合い関係になることはないものと思い、その後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、シ号が茨城県鹿島港に向け左転し、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、シ号の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、真英丸の右舷船首部外板に凹損を、シ号の左舷船首部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、千葉県犬吠埼東方沖合を北西進する際、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
よって主文のとおり裁決する。