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平成15年横審第41号
件名

漁船第十一鵬伸丸漁船第六徳栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年9月11日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(阿部能正、黒田 均、稲木秀邦)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:第十一鵬伸丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第六徳栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
鵬伸丸・・・船首部に擦過傷
徳栄丸・・・左舷側中央部外板及び同船底外板に破口、転覆し、のち廃船
船長が右腰部打撲傷

原因
鵬伸丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
徳栄丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十一鵬伸丸が、見張り不十分で、漂泊中の第六徳栄丸を避けなかったことによって発生したが、第六徳栄丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月15日07時15分
 静岡県下田港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一鵬伸丸 漁船第六徳栄丸
総トン数 69.01トン 2.0トン
全長 8.35メートル  
登録長 26.75メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 69キロワット  
漁船法馬力数 360  

3 事実の経過
 第十一鵬伸丸(以下「鵬伸丸」という。)は、きんめだいはえなわ漁に従事する船尾船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成14年5月15日07時00分静岡県下田港を発し、伊豆諸島八丈島沖合の漁場に向かった。
 ところで、鵬伸丸は、船体の構造上操舵室から正船首方の見通しが悪く、同室内の右舷側に立った状態では、右舷船首約7度から左舷船首約11度にわたる死角を生じていた。
 07時07分少し過ぎA受審人は、下田港西防波堤灯台(以下、防波堤灯台の名称は、「下田港」を省略する。)から090度(真方位、以下同じ。)20メートルの地点において、針路を196度に定め、機関を半速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で、操舵室内の右舷側に立ってリモコンにより操舵しながら進行した。
 A受審人は、07時12分少し前西防波堤仮設灯台から021度590メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首方500メートルのところに、船首を北東方に向けて漂泊している第六徳栄丸(以下「徳栄丸」という。)を視認することができる状況であったが、定針時、周囲を一瞥し、左舷方に1隻の小型船が存在しているだけで、他の船舶は見当たらなかったことから、前方には航行の妨げとなる船舶はいないものと思い、正船首方の徳栄丸を見落とさないよう、操舵室から右舷側の外に出るなり、船首を振るなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
 こうして、A受審人は、その後、徳栄丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、左転するなど、同船を避けることなく続航中、07時15分西防波堤仮設灯台から045度100メートルの地点において、鵬伸丸は、原針路原速力のまま、その左舷船首部が、徳栄丸の左舷中央部に前方から29度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、徳栄丸は、FRP製漁船で、B受審人(昭和53年4月7日一級小型船舶操縦士免状を取得)が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日05時55分下田港の係留地を発し、同港南部の釣り場に向かった。
 B受審人は、06時10分衝突地点付近に到着し、機関の回転数を中立運転の毎分500にかけたまま漂泊し、船尾にスパンカを展張したのち、操舵室後部の右舷船尾甲板に立ち、右舷側を向いて竿釣りを始めた。
 B受審人は、水深約40メートルの所から移動しないよう、船首を風上に向け、操舵室後部に備えた機関リモコンにより機関を小刻みに前進にかけて釣りを続けていたところ、07時12分少し前船首が045度に向いていたとき、左舷船首29度500メートルのところに、自船に向かって接近する鵬伸丸を視認できる状況であったが、魚釣りに気を取られ、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行わなかったので、鵬伸丸の存在に気付かなかった。
 こうして、B受審人は、その後、鵬伸丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、間近に迫ったとき、機関を前進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとることもしないまま漂泊中、07時15分わずか前左舷船首方至近に鵬伸丸を初めて視認したが、どうすることもできず、徳栄丸は、船首が045度を向いたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、鵬伸丸は船首部に擦過傷を生じたのみであったが、徳栄丸は左舷側中央部外板及び同船底外板にそれぞれ破口を生じて転覆し、のち廃船にされ、B受審人が右腰部打撲傷などを負った。

(原因)
 本件衝突は、静岡県下田港において、発航して南下中の鵬伸丸が、見張り不十分で、漂泊中の徳栄丸を避けなかったことによって発生したが、徳栄丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、静岡県下田港を発航して南下する場合、操舵位置から船首方向に死角があったから、正船首方の徳栄丸を見落とさないよう、操舵室から右舷側の外に出るなり、船首を振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方には航行の妨げとなる船舶はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、徳栄丸の存在と接近とに気付かず、左転するなど、同船を避けないまま進行して衝突を招き、鵬伸丸の船首部に擦過傷を、徳栄丸の左舷側中央部外板及び同船底外板に破口をそれぞれ生じさせ、B受審人に右腰部打撲傷などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、静岡県下田港において、漂泊して魚釣りを行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚釣りに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、鵬伸丸の存在と接近とに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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