(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月3日06時05分
岩手県綾里埼南西沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六錦栄丸 |
漁船第十一長栄丸 |
総トン数 |
9.7トン |
2.85トン |
全長 |
18.68メートル |
|
登録長 |
|
9.88メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
308キロワット |
|
漁船法馬力数 |
|
25 |
3 事実の経過
第六錦栄丸(以下「錦栄丸」という。)は、引き網や刺し網漁業などに従事するFRP製漁船で、昭和62年10月16日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人ほか3人が乗り組み、いさだ引き網漁の目的で、船首0.35メートル船尾1.60メートルの喫水をもって、平成15年4月3日01時10分岩手県田老漁港を発し、同県綾里埼南西沖合の漁場に向かった。
A受審人は、目的の漁場に接近した05時30分半、綾里埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点で魚群探索を開始し、針路を232度に定め、機関を半速力にかけて7.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、ほかの乗組員を食堂で待機させ、操舵室右舷寄りに立った姿勢で単独で操舵操船に当たり、同室左舷側壁に装備された魚群探知機とソナーを監視し、時折右舷方に散在している同業他船の操業模様を見たりしていたが、左舷前方に魚群らしき反応を認め、06時00分わずか前綾里埼灯台から218度2.7海里の地点で針路を180度に転じて続航した。
06時03分A受審人は、綾里埼灯台から215度3.0海里の地点に至ったとき、正船首方430メートルに第十一長栄丸(以下「長栄丸」という。)が存在し、同船が船首を見せてほとんど停留しており、その先端付近の揚網ドラムで網を揚収していることから漁ろうに従事中であることが認められる状況であったが、魚群探知機などの監視に気を奪われ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま進行し、06時05分綾里埼灯台から211度3.2海里の地点において、錦栄丸の右舷船首が、原針路、原速力のまま、長栄丸の右舷船首に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、視界は良好で、日出は05時16分であった。
A受審人は、衝突の衝撃で事故に気付き、事後の措置にあたった。
また、長栄丸は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、昭和50年6月19日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するB受審人と甲板員である同人の息子が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成15年4月3日05時00分岩手県綾里漁港を発し、綾里埼南西沖合の漁場に向かった。
05時30分B受審人は、周囲に引き網漁に従事する漁船が散在している前示衝突地点付近の漁場に至って機関を中立とし、漁ろうに従事していることを示す所定の形象物を表示せずに、操舵室前部のマストに赤旗を掲げ、同室後部マストの黄色回転灯を点灯し、船尾のスパンカを展張して折からの北風に船首を立て、数日前に投網しておいた刺し網の揚網にとりかかった。
B受審人は、甲板員を船首の揚網ドラムに配置して網をさばかせ、自らは操舵室前部で機関の遠隔操作に当たるとともに、繰り込まれてくる網に混じったひとでなどの異物を取り外す作業にあたり、網の揚がってくる状況に応じて時折機関を中立、前進に操作し、ほとんど停留した状態で揚網を続けた。
06時03分B受審人は、全長約400メートルの刺し網を160メートルばかり揚収し、船体が000度に向首していたとき、正船首方430メートルに自船に向首して接近する錦栄丸を認めることができる状況であったが、揚網作業に気を奪われ、見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、避航を促す有効な音響による信号を行うことなく作業を続けるうち、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、錦栄丸は船首部右舷側外板に擦過傷を生じ、長栄丸は船首部右舷側ブルワークを圧壊し、レーダーアンテナを破損した。
(原因)
本件衝突は、岩手県綾里埼南西沖合において、錦栄丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事していることを示す形象物を表示せずに停留して揚網中の長栄丸を避けなかったことによって発生したが、長栄丸が、見張り不十分で、避航を促す有効な音響による信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、岩手県綾里埼南西沖合において、いさだ引き網漁の魚群探索を行いながら単独で操船に当たる場合、前路の長栄丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、魚群探知機などの監視に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、停留して刺し網を揚網中の長栄丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、錦栄丸の船首部右舷側外板に擦過傷を生じさせ、長栄丸の船首部右舷側ブルワークを圧壊し、レーダーアンテナを破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、岩手県綾里埼南西沖合において、停留して刺し網の揚網に当たる場合、前方から接近する錦栄丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、揚網に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する錦栄丸に気付かず、避航を促す有効な音響による信号を行わないまま揚網を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。