(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月19日06時30分
北海道羅臼港南南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船千代丸 |
漁船第二十一寿人丸 |
総トン数 |
4.98トン |
4.9トン |
登録長 |
9.85メートル |
11.83メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
90 |
90 |
3 事実の経過
千代丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和58年9月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか2人が乗り組み、ほっけ漁の目的で、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成14年6月19日02時00分北海道松法漁港を発し、同時50分同港南東方5海里ばかりの漁場に至って操業を開始した。
ところで、ほっけ刺網漁は、漁場に到着後、事前に仕掛けていた網を揚げ、次に搭載していた網及び揚げ終えて漁獲物を外した網の一部を再び投入し、後日の揚網に備えるものであった。また揚網は、機関を中立運転として船体前部右舷側に設置された揚網機を操作し、ほぼ停留状態で行う作業であった。
A受審人は、漁ろうに従事している船舶が表示する形象物を掲げないまま操業を続け、06時05分松法港南防波堤灯台から127度(真方位、以下同じ。)4.7海里の地点付近において、機関を中立運転の停留状態とし、前日投入した最後の網を揚げ始めたところ、同時20分船首が045度を向いていたとき、右舷船尾70度1.8海里のところに来航する第二十一寿人丸(以下「寿人丸」という。)を初認した。
06時27分わずか前A受審人は、寿人丸を同方位1,000メートルに認めるようになり、衝突のおそれがある態勢で自船に向首接近していることを知ったが、そのうち航行中の寿人丸が停留状態で揚網中の自船を避けてくれるものと思い、寿人丸の様子を見ながら揚網を続けた。
06時28分A受審人は、寿人丸が自船を避けないまま同方向650メートルのところまで接近したが、寿人丸に対して有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近しても機関を前進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとることもなく揚網中、同時29分半至近に迫った寿人丸に衝突の危険を感じ、漁業無線で同船を呼び出したものの応答が得られず、同時30分わずか前機関を前進にかけたが効なく、千代丸は、06時30分松法港南防波堤灯台から127度4.7海里の地点において、その右舷後部に寿人丸の船首部が後方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、寿人丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和53年9月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか3人が乗り組み、ほっけ漁の目的で、船首0.8メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同日01時00分北海道羅臼港を発し、同時45分同港南南東方9海里ばかりの漁場に至って操業を開始した。
06時10分B受審人は、松法港南防波堤灯台から139度8.0海里の地点において操業を終え、帰途に就くため単独の船橋当直に当たって発進し、針路を335度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
B受審人は、GPSプロッターの画面を見て帰航針路を確かめながら続航し、06時27分わずか前松法港南防波堤灯台から130度5.2海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルのところに、停留状態で揚網中の千代丸を認め得る状況となり、同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、既に僚船が帰港している時刻であり、前路に他船はいないものと思い、このころ入港予定時刻などを妻に知らせるため、操舵室右舷側壁に寄り掛かって自宅に電話をかけ、左舷方を向いて通話に没頭し、見張りを十分に行っていなかったので前路の千代丸に気付かず、同船を避けることなく進行した。
寿人丸は、千代丸を避けずに続航中、B受審人が通話を終えた直後、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、千代丸は、右舷後部外板に破口を生じ、浸水して水船となり、羅臼港に引き付けられたがのち廃船となり、寿人丸は、船首部に擦過傷を生じた。また、千代丸の乗組員は寿人丸に全員救助された。
(原因)
本件衝突は、北海道根室海峡において、寿人丸が、見張り不十分で、停留状態で揚網中の千代丸を避けなかったことによって発生したが、千代丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、根室海峡において帰航中、停留状態で揚網中の千代丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、僚船が既に帰港している時刻であり、前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、操舵室右舷側壁に寄り掛かって自宅に電話をかけ、左舷方を向いて通話に没頭し、千代丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、千代丸の右舷後部外板に破口を生じさせて廃船とせしめ、寿人丸の船首部に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、根室海峡において、停留状態で揚網中、自船に向首接近する寿人丸を視認し、同船に避航の気配が認められなかった場合、有効な音響による注意喚起信号を行い、更に機関を前進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、航行中の寿人丸が停留状態で揚網中の自船を避けてくれるものと思い、寿人丸に対し、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近しても機関を前進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。