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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年門審第20号
件名

貨物船楠栄丸桟橋衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年8月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小寺俊秋、長谷川峯清、西村敏和)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:楠栄丸船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
楠栄丸・・・・・・・左舷船首部外板に凹損
ドルフィン桟橋・・・着船ドルフィンに防舷材損傷等

原因
楠栄丸・・・・・・・操船(着桟時の減速)措置不十分

主文

 本件桟橋衝突は、着桟時の減速措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月21日08時15分
 福岡県苅田港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船楠栄丸
総トン数 698.46トン
全長 61.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット

3 事実の経過
 楠栄丸は、一軸右回りの固定ピッチ推進器を装備した船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか6人が乗り組み、石炭灰712トンを積載し、船首3.2メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、平成14年3月20日17時10分広島県竹原港を発し、翌21日02時50分福岡県苅田港沖に至り、苅田港沖波浪観測塔灯から348度(真方位、以下同じ。)820メートルの地点に錨泊待機した後、07時40分同地点を発進し、同港南港岸壁に隣接して築造されたドルフィン構造の桟橋(以下「ドルフィン桟橋」という。)に向かった。
 ところで、苅田港は、南北に延びる逆くの字形の岸壁と、その前面水域を取り囲むように、岸壁東方沖合約400メートルの神ノ島、同島から北側に延びる東防波堤、南側に延びる南防波堤、東防波堤北方の東西方向に延びる北防波堤及び南、北両防波堤にそれぞれつながる埋立地とによって形成されていて、南港岸壁が、逆くの字形岸壁の南側に位置していた。
 また、ドルフィン桟橋は、側面にゴム製防舷材が取り付けられた矩形のコンクリート製着船ドルフィン3基と、同製荷役ドルフィン1基とで構成され、北側から順に着船ドルフィン2基、荷役ドルフィン及び着船ドルフィン各1基が、長さ約50メートルの間に直線状にそれぞれ配置され、隣接するドルフィン間が鋼製歩行橋で連絡されていた。そして、ドルフィン桟橋へ着桟する船舶は、東防波堤及び神ノ島の沖合から南西方に、南防波堤の中央部を切り通すように灯浮標によって囲まれた水路(以下「南西水路」という。)に沿って入港し、十分に減速した後、右舷付けの場合には入港針路からわずかに右転して、左舷付けの場合には反転して接舷する操船を行っていた。
 A受審人は、ドルフィン桟橋への着桟経験が、右舷付け及び左舷付けともに何度もあり、それらがいずれも静穏時における操船であったところ、当日、荷役の都合により左舷付けを予定していたので、南防波堤開口部の手前で機関を停止し、惰力で同桟橋前面水域に至って3ノットばかりの速力(対地速力、以下同じ。)となったとき、機関を後進にかけて右舵を一杯にとり、右回頭で反転して着桟する予定としていたが、入港に支障がない程度であったもののやや強い南西風が吹いていて、同状況下での着桟操船は初めての経験であった。
 発進後、A受審人は、自らが操舵・操船に当たり、機関長にテレグラフの操作を行わせ、乗組員を船首と船尾の入港部署配置に就けて入港中、07時54分少し前苅田港南防波堤灯台(以下「苅田南灯台」という。)から039度1,900メートルの地点に達したとき、針路を南西水路にほぼ沿う215度に定め、機関を半速力前進にかけ、9.0ノットの速力で手動操舵により進行し、同時57分少し前苅田南灯台から041度1,080メートルの地点に至り、機関を微速力前進として徐々に速力を減じながら続航した。
 A受審人は、正船首方からの風の影響による減速を見込んでいつもより長めに機関を前進側に使用することとし、08時01分半南防波堤開口部に差し掛かったとき機関を停止し、その後、惰力によって進行した。
 A受審人は、08時07分苅田南灯台から208度1,020メートルの地点に達し、ドルフィン桟橋北端が右舷船首72度350メートルになったとき、5.0ノットの残存速力があって見込んだほど減速されておらず、静穏時における反転開始時の目安としていた3.0ノットに比べてやや速力が過大であることを認めたが、依然、向かい風の影響による減速を見込み、右舵一杯をとって機関を微速力後進としただけで、後進にかければ船首が右に振れて右回頭力が得られるものと思い、同桟橋前面水域で全速力後進にかけたり右舷錨を併用したりして一旦(いったん)速力を落とすなど、着桟時の減速措置を十分にとらなかったので、その後、機関を前進にかけられず、推進器流による舵効が得られないまま右回頭を続けた。
 こうして、楠栄丸は、右回頭によって左舷方から風を受ける態勢となり、正船首方からの風による減速の影響が小さくなり、船首の風上への切上がりによって右回頭が抑えられたためか、見込んだほどの減速と右回頭力とが得られず、08時13分ドルフィン桟橋に向首したとき、A受審人が危険を感じて機関を全速力後進とし、それに引き続いて右舷錨を投下したが及ばず、08時15分苅田南灯台から225度1,160メートルの地点において、351度に向首し約1ノットの速力で、左舷船首部が中央の着船ドルフィン東端に60度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力5の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、北九州地方に雷、強風、波浪注意報が発表されていた。
 衝突の結果、楠栄丸は、左舷船首部外板に凹損を生じ、ドルフィン桟橋は、着船ドルフィンに防舷材損傷とコンクリートの一部欠損及び鋼製歩行橋に曲損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件桟橋衝突は、福岡県苅田港において、やや強い南西風が吹いている状況下、ドルフィン桟橋前面水域で反転して左舷付けする際、着桟時の減速措置が不十分で、機関を前進にかけられず、推進器流による舵効が得られないまま同桟橋に向首接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、福岡県苅田港において、ドルフィン桟橋前面水域で反転して左舷付けする場合、やや強い南西風が吹いていたから、着桟時に機関を前進にかけ、推進器流による舵効を得て回頭できるよう、桟橋前面水域で全速力後進にかけたり右舷錨を併用したりして一旦速力を落とすなど、着桟時の減速措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舵一杯をとって機関を微速力後進としただけで、後進にかければ船首が右に振れて右回頭力が得られると思い、着桟時の減速措置を十分にとらなかった職務上の過失により、その後、機関を前進にかけられず、推進器流による舵効が得られないまま同桟橋に向首接近して衝突を招き、楠栄丸の左舷船首部外板に凹損を、ドルフィン桟橋の着船ドルフィンに防舷材損傷とコンクリートの欠損及び鋼製歩行橋に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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