(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月4日03時15分
山口県見島南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船貴和丸 |
漁船福栄丸 |
総トン数 |
1,599トン |
12トン |
全長 |
92.80メートル |
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登録長 |
85.95メートル |
14.99メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
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漁船法馬力数 |
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160 |
3 事実の経過
貴和丸は、専ら石油製品の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人ほか9人が乗り組み、C重油3,000キロリットルを積載し、船首5.10メートル船尾6.30メートルの喫水をもって、平成14年6月3日12時20分広島県鹿川港を発し、新潟県姫川港へ向かった。
出港後、A受審人は、2人当直4時間交替3直制の当直時間割に従い、出航部署に引き続いて船橋当直に当たり、15時30分次直の一等航海士と交替して一旦休息したのち、23時30分関門海峡を通過して山口県神田岬沖合に達したとき、再び昇橋して前直の船長から当直を引継ぎ、同県角島北西方沖合の変針点へ向けて北上した。
翌4日00時45分A受審人は、前示変針点に至って053度の針路としたところ、しばらくして、風及び潮流の影響を受けて左方に少しばかり圧流される状況となったので、01時15分角島灯台から021度(真方位、以下同じ。)6.0海里の地点で、右に2度当て舵を取った055度の針路に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分220の全速力前進にかけ、053度の実航針路、11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、法定灯火を表示して進行した。
03時00分A受審人は、見島灯台から157度7.4海里の地点に達したとき、左舷船首約50度6海里付近に福栄丸を、右舷船首約70度4及び5海里付近に2隻の漁船を、それぞれレーダー画面上に認めたので、適宜、双方を監視しながら航行していたところ、しばらくして、福栄丸が、ほぼ同方位のまま約2.5海里まで接近したことから、同船方向に探照灯を向けて5回ばかりの照射を行った。
ところで、当時、福栄丸には、法定灯火として表示すべきマスト灯、両舷灯及び船尾灯のうち、マスト灯及び船尾灯が表示されていなかったものの、両舷灯が正しく表示されていたことから、A受審人は、目視及びレーダーを活用するなどして動静監視を十分に行えば、同船の進行方向などを把握することは容易い状況であった。
03時10分少し前A受審人は、見島灯台から143度7.1海里の地点に達したとき、左舷船首49度2.0海里のところに、南下中の福栄丸が表示する緑1灯を視認することができ、その後、同船が前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、自船が保持船に当たることから、やがて福栄丸が避航動作を取るものと思い、目視及びレーダーを活用するなどして同船の動静監視を十分に行うことなく、右舷側の前示漁船を注視しながら続航した。
こうして、03時13分半A受審人は、見島灯台から136度7.2海里の地点で、左舷側の福栄丸方向を見遣ったところ、ほぼ同方位のまま0.6海里まで接近した同船が表示する緑1灯を目視したので、汽笛により長音を1回吹鳴したものの、依然として、同船が避航動作を取るものと思い、警告信号を行わず、更に接近しても、機関を使用して行きあしを停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行中、福栄丸が、全く避航する気配のないことに気付いて衝突の危険を感じ、急きょ手動操舵に切り替えて右舵一杯を取るとともに、機関を微速力前進に減じ、次いで全速力後進としたが、効なく、03時15分見島灯台から134度7.2海里の地点において、貴和丸は、092度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、その左舷船首に、福栄丸の右舷船首が後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、視界は良好であった。
また、福栄丸は、主として敷網及び建網漁業に従事するFRP製漁船で、平成11年11月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同14年6月3日18時00分山口県大島漁港を発し、同県見島北北西方8海里付近の漁場へ向かった。
B受審人は、20時00分前示漁場に到着して建網漁を行い、翌4日01時40分いさき約40キログラムを漁獲したのち、水揚げを予定していた同県萩漁港へ向けて帰途に就き、同日02時58分見島灯台から100度3.3海里の地点で、針路を157度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分1,600にかけ、17.0ノットの速力で、マスト灯が消灯していたことから同灯と船尾灯の替わりに全周を照らす作業灯1灯を掲げ、法定灯火である両舷灯を表示して進行した。
ところで、当時、B受審人は、所属する漁業協同組合の申し合わせにより、同月1日の出漁を見合わせたものの、2日及び3日と連続して夕刻に出漁し、約2時間掛けて漁場に到着したのち、翌日の早暁まで建網漁を行い、明るくなってから帰港して水揚げ作業を行うという就業形態で操業に従事していたところ、3日の水揚げ終了後、午前7時過ぎから午後1時ごろまで睡眠を取ったものの、漁港と漁場間の往復航中は自らが操舵操船に当たり、漁場においても全く休息を取ることができない状況であったので、やや睡眠が不足していたうえ、連日不漁が続いたことなどから気が滅入って気怠さを覚える心身状態であった。
定針したのち、B受審人は、甲板員2人に操業終了後の甲板上での手仕舞い作業を命じ、自らは操舵室右舷側に置かれたいすに腰を掛けて1人で操舵操船に当たっていたところ、しばらくして、前示したようにやや睡眠が不足していたうえ、連日の不漁により気が滅入って気怠さを覚える心身状態であったことなどに起因して、眠気を催すようになり、そのまま1人で当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったが、萩漁港入港まで約1時間ばかりの短い時間であったことから、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、同作業中の甲板員のうち1人を呼んで2人当直とするなどの居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかった。
そして、03時10分少し前B受審人は、見島灯台から129度5.9海里の地点に達したとき、右舷船首29度2.0海里のところに、貴和丸が表示する白、白、紅の3灯を視認することができ、その後、同船が、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然として、居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったので、いつしか居眠りに陥り、このことに気付かないまま続航した。
こうして、03時13分半B受審人は、見島灯台から133度6.8海里の地点に至ったとき、貴和丸が、ほぼ同方位のまま0.6海里まで接近して衝突のおそれがある状況となったが、既に居眠りに陥っていたので、同船を避けることができない状態のまま進行中、同時15分少し前貴和丸の汽笛を聞いた甲板員に起こされ、船首至近に迫った同船が表示する白、白、紅の3灯を初認して衝突の危険を感じ、急きょ左舵一杯としたが、効なく、福栄丸は、137度に向首したとき、ほぼ原速力で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、貴和丸は、右舷船首に凹損を伴う擦過傷を生じ、福栄丸は、前部マスト取付部を損壊したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、山口県見島南東方海域において、貴和丸及び福栄丸の両船が、互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南行中の福栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る貴和丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行中の貴和丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、山口県見島南東方海域において、1人で操舵操船に当たり、水揚げ港へ向けて南行中、眠気を催した場合、やや睡眠が不足していたうえ、連日の不漁により気が滅入って気怠さを覚える心身状態であったことなどに起因して、そのまま1人で当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、甲板上で作業中の甲板員を呼んで2人当直とするなどの居眠り運航を防止する措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同人は、水揚げ港入港まで約1時間ばかりの短い時間であったことから、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する貴和丸に気付かず、その進路を避けることなく進行して衝突を招き、自船の前部マスト取付部に損傷を、貴和丸の右舷船首に凹損を伴う擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、山口県見島南東方海域において、揚げ地へ向けて東行中、左舷前方に福栄丸を認めた場合、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、自船が保持船に当たることから、やがて福栄丸が避航動作を取るものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、更に接近しても、機関を使用して行きあしを停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。