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平成15年門審第41号
件名

漁船正美丸漁船進勝丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年8月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、西村敏和、小寺俊秋)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:正美丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:進勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
正美丸・・・船首部に擦過傷
進勝丸・・・左舷船首外板に亀裂を伴う破口

原因
正美丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
進勝丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、正美丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している進勝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、進勝丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月9日10時50分
 山口県宇田郷漁港西南西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船正美丸 漁船進勝丸
総トン数 3.17トン 0.52トン
登録長 9.90メートル 4.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 40 15

3 事実の経過
 正美丸は、船尾船橋型のFRP製漁船で、平成2年1月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、うに潜水漁の目的で、船首0.25メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、同14年7月9日07時30分山口県宇田郷漁港を発し、僚船約10隻とともに、同漁港西南西方の小田部ノ鼻の西岸沖合約300メートルの漁場に向かった。
 A受審人は、07時45分前示漁場に到着して12時00分までの予定で操業を始めたが、10時30分ごろ時化模様になったことから、うに潜水漁に従事中の全船が漁を切り上げることになり、10時44分宇田郷港今浦防波堤灯台(以下「宇田郷灯台」という。)から237度(真方位、以下同じ。)2,900メートルの地点を発進し、数隻の僚船に後続して帰途に就いた。
 ところで、正美丸は、操舵室後部が開放されており、船首端から後方8メートル甲板上高さ2メートルから下方に、幅116センチメートル(以下「センチ」という。)高さ30センチの同室前部窓が設けられていた。A受審人は、同窓の正横から後方については直接見張りに当たることができたが、前方については、同窓の甲板上の高さが高いため、同室両側壁後端の間に、甲板上高さ25センチの踏み板を設けてこの上に立ち、30センチ前方となる同窓越しに前路の見張りに当たっていたが、海水のしぶきや雨滴がかかって前方が見にくくなるときには、同側壁から身体を外側に乗り出して前路の見張りに当たるようにしていた。
 こうして、A受審人は、発進後小田部ノ鼻の陸岸を右舷側に見ながら北上し、10時48分宇田郷灯台から252度1,990メートルの地点で、針路を同灯台に向く072度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操舵室左舷側の踏み板の上に立ち、右手で舵柄を操作しながら、同室前部窓に雨滴がかかって前路が見にくい状態で進行した。
 定針時にA受審人は、正船首620メートルのところに、赤色旗をマストに括り(くくり)付けた進勝丸を認めることができ、同船が漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げていなかったものの、その船体形状と海域とにより、同船が宇田郷漁港を基地とする漁船であり、ほぼ停留した状態で底はえ縄により漁ろうに従事していることを推認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、出航時に底はえ縄漁船を見かけなかったことや、時化模様になってきたことから、操業している漁船はいないものと思い、身体を操舵室側壁の外側に乗り出すなどして前路の見張りを十分に行うことなく、進勝丸に気付かないまま、持参したペットボトルに詰めたお茶を飲み始め、基地に向けて先航する僚船を同室側壁の内側から右舷前方にときどき見ながら続航した。
 10時49分A受審人は、宇田郷灯台から252度1,680メートルの地点に達したとき、進勝丸が正船首310メートルに接近したが、依然、前路の見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かず、その進路を避けないまま進行中、10時50分宇田郷灯台から252度1,370メートルの地点において、正美丸は、原針路、原速力のまま、その船首が進勝丸の左舷船首部に後方から27度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力3の北東風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
 また、進勝丸は、有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていないFRP製漁船で、平成12年6月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、かさご底はえ縄漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同14年7月9日06時30分宇田郷漁港を発し、同漁港西側防波堤の北西方沖合水深約10メートルの漁場に向かった。
 ところで、進勝丸は、船体中央部に長さ1.1メートル幅0.9メートル甲板上高さ0.4メートルの機関室を有し、船首端から約2.7メートル後方の同室前壁の船体中心線に同高さ約1.7メートルのマストを備えており、遠くからでも自船の存在が分かるように、同マスト上部に縦0.3メートル横0.4メートルの赤色旗を結びつけた竹竿を、同高さ約3メートルとなるように括り付けていた。また、操業時に船首部で操船できるようにするため、舵柄に竹竿を、クラッチに直径3センチの肉厚の薄いステンレス鋼管を、及びガバナに細いロープをそれぞれ取り付け、機関室後部の操縦場所から船首部まで導いていた。
 B受審人は、底はえ縄漁具として直径約2ミリメートルの合成繊維製幹縄200メートルに1.5メートルないし2メートルの間隔で釣針を付けた枝縄を取り付けたものを1組として1個の桶に入れ、3桶積み込んで投縄時にこれを順に接続して全長600メートルとし、目印として漁具の両端及び接続部に内側を白色に塗装したペットボトル等を取り付けて浮かせていた。平素、操業時に同人は、機関室内後部に設置した魚群探知機で水深を見ながら、約20分間かけて等深線沿いに3桶を投縄後、20分間ないし30分間魚の掛かりを待ったのち、船首を風に立てて機関を中立とし、船首部に座り込んで右舷側から手で幹縄を取り込みながら、他船から見ればほぼ停留している状態で、1桶当たり約20分間かけて揚縄を行っていた。
 こうして、B受審人は、06時50分前示漁場に到着して第1回目の操業を行ったのち、宇田郷漁港の西南西方約1,400メートルで水深約10メートルの漁場に移動し、09時20分南西向きに等深線に沿って第2回目の投縄を開始し、同時40分投縄を終えて魚の掛かりを待っているうちに雨が降り出したため、携帯電話機の時刻表示が10時10分であることを確認してこれを濡れないところに格納し、合羽を着用したのち、同時15分船首を045度に向けて風に立て、船首部に船尾を向いて座り込み、機関を中立として揚縄を開始した。
 10時48分B受審人は、宇田郷灯台から252度1,370メートルの地点で、自船の陸側至近をうに潜水漁に従事していた宇田郷漁港を基地とする漁船が時化てくるから早く帰航した方がよい旨の声をかけて航過したとき、左舷船尾27度620メートルのところに、小田部ノ鼻の先端から赤島沖を通って同漁港に向かう正美丸を初めて認め、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、声をかけてくれた漁船と同じように、正美丸も近くを航過して声をかけていくものと思い、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うことなく、このことに気付かず、更に接近した際、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための協力動作をとらずに、揚縄を続けた。
 10時50分わずか前B受審人は、同方位約30メートルに自船に向首して接近する正美丸を再び認め、避航の気配が認められないことから衝突の危険を感じ、立ち上がって大声を出し、両手を振ったが気付いた様子がないことから、急いでクラッチを前進に入れて右舵一杯としたが間に合わず、進勝丸は、船首を045度に向けたまま、ほぼ停留しているとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、正美丸は、船首部に擦過傷を生じたが修理は行われず、進勝丸は、左舷船首外板に亀裂を伴う破口を生じたが、のち修理された。 また、B受審人は、衝突の衝撃により転倒した際に両船の間に右足が挟まれ、全治約6箇月を要する大腿骨顆上骨折による右大腿部切断等の傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、山口県宇田郷漁港西南西方沖合において、帰航のため東行中の正美丸が、見張り不十分で、底はえ縄により漁ろうに従事している進勝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、進勝丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県宇田郷漁港西南西方沖合において、帰航のため東行する場合、操舵室前部窓に雨滴がかかると前路が見にくい状態になることを知っていたのであるから、底はえ縄により漁ろうに従事している進勝丸を見落とさないよう、身体を同室の外に乗り出すなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、出航時に底はえ縄漁船を見かけなかったことや、時化模様になってきたことから、宇田郷漁港までの海域で操業している漁船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、進勝丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、正美丸の船首部に擦過傷を、進勝丸の左舷船首外板に亀裂を伴う破口をそれぞれ生じさせ、B受審人に大腿骨顆上骨折による右大腿部切断等の傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、山口県宇田郷漁港西南西方沖合において、底はえ縄による漁ろうに従事中、自船に向けて接近する正美丸を認めた場合、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、時化てくるから早く帰航した方がよい旨の声をかけて航過したうに潜水漁に従事していた宇田郷漁港を基地とする漁船と同じように、正美丸も近くを航過して声をかけていくものと思い、引き続き同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、正美丸が衝突のおそれがある態勢で接近する状況に気付かず、更に接近した際、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま揚縄を続けて同船との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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