(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年3月30日10時30分
鹿児島県下甑島東岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船若宮丸 |
漁船はつ丸 |
総トン数 |
7.9トン |
0.2トン |
全長 |
15.50メートル |
4.82メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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29キロワット |
漁船法馬力数 |
90 |
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3 事実の経過
若宮丸は、磯建網漁業に従事するFRP製漁船で、平成11年8月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同15年3月30日10時15分鹿児島県下甑島の長浜港を発し、同県宇治群島周辺の漁場に向かった。
単独で出港操船中のA受審人は、10時16分ごろ防波堤の入口付近で、下甑島瀬尾埼の北東1海里付近に漂泊して操業中の漁船数隻(以下「漁船群」という。)を認めたので、それらをかわすために沖出ししてから漁場に向け右転することとして南東進した。
10時25分少し前A受審人は、甑長浜港東防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から152度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点で、漁船群の沖側に出たので、針路を漁場に向く208度に定め、機関を全速力前進にかけて17.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、自動操舵で進行した。
10時27分ごろA受審人は、宇治群島周辺漁場から帰航中の僚船の無線交信を聞き付け、右舷側の漁船群を見ながら同無線交信に加わった。
10時28分半A受審人は、防波堤灯台から171度2.8海里の地点に達したとき、正船首800メートルのところに漂泊中のはつ丸を視認することができる状況で、その後、同船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近したが、瀬尾埼北東方沖合に漂泊して操業中の漁船群を十分離すように沖出ししたことから、前路に漂泊中の小型漁船はいないものと思い、操舵室右舷側のいすに腰掛けて右舷前方を向き、帰航中の僚船に無線で漁模様や気象状況を問い合わせることに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、転舵するなどしてはつ丸を避けることなく続航した。
A受審人は、依然、見張り不十分のまま、前路で漂泊中のはつ丸に気付かず、同船に向首進行し、10時30分防波堤灯台から176度3.2海里の地点において、若宮丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、はつ丸の左舷船首に、前方から74度の角度で衝突し、同船を乗り切った。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、はつ丸は、一本釣り漁業に従事する、右舷船尾に22キロワットの船外機(以下「主船外機」という。)を、左舷船尾に7キロワットの船外機(以下「補助船外機」という。)をそれぞれ備えた、汽笛を備えない和船型FRP製漁船で、昭和50年1月免許の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成15年3月30日06時30分同県手打漁港を発し、瀬尾埼南東方1海里付近の漁場に至って、時々移動しながら一本釣り漁を行った。
10時26分B受審人は、水深約120メートルの衝突地点付近に移動し、主船外機を停止してチルトアップし、補助船外機を停止してチルトダウンしたまま、シーアンカー代わりに重さ3.5キログラムの錨を結んだ直径12ミリメートルの錨索を正船首から海中に約20メートル伸出して漂泊し、右舷船尾物入れの上に船首方を向いて腰掛け、右舷正横方に出した釣り竿の先を見ながられんこだい一本釣り漁を再開した。
10時28分半B受審人は、顔を上げて周囲を一瞥したところ、船首が102度に向いて左舷船首74度800メートルのところに、自船に近づく態勢で南下する若宮丸を初認したが、衝突のおそれがあれば航行中の同船が漂泊中の自船を避けるものと思い、すぐに目を離して釣りを続け、動静監視を十分に行わなかったので、その後、自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する状況となった若宮丸に気付かなかった。
B受審人は、依然、動静監視を行わないまま釣りを続け、避航の気配を示さずに接近する若宮丸に対し、避航を促す有効な音響信号を行うことも、更に接近して、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中、10時30分わずか前、餌を付け替えるために仕掛けを巻き揚げ終えたころ、機関の運転音を聞いて左舷側至近に迫った若宮丸に気付いたが、どうすることもできず、はつ丸は、船首が102度を向いて漂泊したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、若宮丸は、船首船底に擦過傷を、右舷船尾外板に破口を、推進器翼に曲損をそれぞれ生じたが、のち、修理され、はつ丸は船首部が切断して転覆し、のち、廃船処分とされた。また、衝突の衝撃で海中に投げ出されたB受審人は若宮丸に無事救助された。
(原因)
本件衝突は、下甑島東岸沖合において、漁場に向け南下中の若宮丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のはつ丸を避けなかったことによって発生したが、はつ丸が、動静監視不十分で、避航を促す有効な音響信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、下甑島東岸沖合において、漁場に向け南下する場合、前路で漂泊中の他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同沖合に漂泊して操業中の漁船群を十分離すように沖出ししたことから、前路に漂泊中の小型漁船はいないものと思い、目的とする漁場から帰航中の僚船に無線で漁模様や気象状況を問い合わせることに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のはつ丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首船底に擦過傷を、右舷船尾外板に破口を、推進器翼に曲損を、はつ丸の船首部に切断をそれぞれ生じさせ、はつ丸を転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
B受審人は、下甑島東岸沖合において、一本釣り漁を行いながら漂泊中、自船に近づく態勢の若宮丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、衝突のおそれがあれば同船が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、若宮丸が自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、避航を促す有効な音響信号を行うことも、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷等を生じさるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。