(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月5日17時42分
長崎県佐賀漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八海興丸 |
漁船純洋丸 |
総トン数 |
288トン |
4.98トン |
全長 |
57.13メートル |
14.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,154キロワット |
|
漁船法馬力数 |
|
40 |
3 事実の経過
第十八海興丸(以下「海興丸」という。)は、大中型まき網漁業船団に所属する船尾船橋型の鋼製運搬船兼探索船で、A受審人、B受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首2.00メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成14年6月5日12時15分福岡県博多漁港を発し、対馬北西方沖合の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、漁場では自らが操船して魚群探索等を行い、漁場往復時に休息をとり、その間の船橋当直を、一等航海士に4時間、二等航海士に2時間、甲板長に4時間及び甲板員に2時間の順で輪番であたらせていたものの、自動操舵装置が装備されていないことから、必要に応じていつでも操船指揮がとれるように船橋後部の長いすで寝起きし、食事等で降橋する以外はほとんど在橋していた。
こうしてA受審人は、12時40分ごろ能古島の北西2海里付近で出港操船を終え、一等航海士に船橋当直を委ね、船橋後部の長いすに横になって休息した。
一方、B受審人は、16時00分対馬黒島灯台の東方18海里付近で昇橋し、一等航海士と交替して単独の船橋当直につき、対馬東方沖合を北上した。
B受審人は、16時55分対馬佐賀港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から061度(真方位、以下同じ。)14.4海里の地点で、網船に乗船している漁ろう長の指示を受けたA受審人に命ぜられ、同船の漁具修理を行うために長崎県佐賀漁港に向けるよう針路を236度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
B受審人は、佐賀漁港に近づいたらA受審人と交替するつもりで単独の船橋当直を続け、操舵スタンドの左舷側に隣接して設置された、自動衝突予防援助装置の組み込まれた主レーダーを3海里レンジで、及び従レーダーを1.5海里レンジで、いずれもオフセンター、ノースアップとして作動させ、専らそれらレーダーで周囲を見張っていたところ、17時32分北防波堤灯台から068度5.3海里の地点で、左舷前方に停留中の漁船数隻のレーダー映像を探知し、それらのうちの北端に位置した漁船(以下「第三船」という。)を正船首わずか左2.5海里付近に認めたので、同船との航過距離を大きくするため238度に転じて続航した。
17時38分B受審人は、レーダーによる見張りを続け、左舷船首6度1.0海里に第三船の映像を確認したとき、正船首1.0海里のところに純洋丸の映像を認めることができる状況で、レーダーの船首輝線に重なった同映像に気付かなかった。
そのころA受審人も、長いすの位置から肉眼及びレーダーで第三船を認め、左舷側に約200メートル離して航過できると判断したものの、純洋丸の存在に気付かないまま、小用を足すために降橋した。
B受審人は、17時40分わずか前北防波堤灯台から074度3.3海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルのところに純洋丸を視認することができる状況で、その後、球形の形象物を表示していなかったものの、船首から錨索を伸ばし、風上に向首して静止している状況から錨泊中であることが分かる同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが、レーダーで左舷前方に認めた停留中の漁船群をかわしたので、それらの北側に錨泊中の他船はいないものと思い、肉眼で見回すなり、レーダー船首輝線の輝度等を調整してレーダーを活用するなりして、前路の見張りを十分に行わなかったので、純洋丸に気付かず、同船を避けないまま進行した。
B受審人は、17時40分半純洋丸と正船首750メートルに接近して以降、同船が船首死角に隠れたものの、さらにレーダーを活用するなどして船首死角を補う見張りを行わず、同船を避けないまま続航中、17時42分北防波堤灯台から077度2.8海里の地点において、海興丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、純洋丸の右舷船首に前方から58度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
A受審人は、小用から戻って操舵室後方の長いすに腰掛けた直後、衝撃を感じると同時にB受審人から報告を受けて衝突を知り、その場で立ち上がって左舷側至近に純洋丸を認め、事後の措置にあたった。
また、純洋丸は、いか一本釣り漁業に従事する木製漁船で、平成14年3月交付の二級小型船舶操縦士(5トン未満限定)免状を受有するC受審人が1人で乗り組み、汽笛を装備しないまま、操業のため、船首0.40メートル船尾0.45メートルの喫水をもって、同年6月5日17時00分佐賀漁港を発し、同漁港の東方約3海里沖合の漁場に向かった。
C受審人は、17時30分水深約70メートルの前示衝突地点付近に至り、船首から重さ42キログラムの錨を投じて直径18ミリメートルの合成繊維製錨索を約90メートル伸出し、球形の形象物を掲げないまま、機関を中立運転として錨泊し、操業の準備を行って、日没後の操業開始を待った。
17時40分わずか前C受審人は、操業の準備を終え、操舵室で錨泊位置を測定して同位置を操業日誌に記載していたところ、船首が000度を向いたとき、右舷船首58度1,000メートルのところに、海興丸を視認することができる状況で、その後、自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、接近する他船があれば錨泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、海興丸に気付かなかった。
C受審人は、自船に向首して接近する海興丸に対して有効な音響による注意喚起信号を行わず、更に接近したとき、錨索を切り離して機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続け、船首が000度を向いたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海興丸は球状船首に擦過傷を生じ、純洋丸は船首部を折損して浸水し、のち沈没した。C受審人は、沈没する前に海興丸に無事救助された。
(原因に対する考察)
A受審人が左舷前方に認めていた漁船について検討する。
A受審人に対する質問調書中、「衝突予防援助装置の付いたレーダー及び肉眼により、停留中の純洋丸を左舷前方1.5海里に認め、同船を左舷側に約200メートル離して航過するものと判断し、衝突の4分前、同船を左舷前方1.0海里に認め、同じ距離を離して航過することを確認して小用のため降橋した。」旨の供述記載があるが、衝突の10分前にB受審人がレーダーで探知した停留中の第三船を左舷側に離して航過するために海興丸の針路を2度右に転じ、以降、衝突の12分前から錨泊していた純洋丸に向首進行して衝突に至っていることと、当時の風向及び付近海域には南方へ流れる海潮流はないこととから、A受審人がレーダー及び肉眼により左舷前方に確認していた停留中の漁船は純洋丸の南方に存在した第三船であったものと認められる。
(原因)
本件衝突は、長崎県対馬東方沖合において、佐賀漁港に向け西行中の海興丸が、見張り不十分で、錨泊中の純洋丸を避けなかったことによって発生したが、純洋丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、長崎県対馬東方沖合を佐賀漁港に向け西行中、手動操舵を行いながら単独で船橋当直を行う場合、前路で錨泊中の他船を見落とすことのないよう、肉眼で見回すなり、レーダー船首輝線の輝度等を調整しレーダーを活用するなりして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーで認めた左舷前方に停留中の漁船群をかわしたので、それらの北側に錨泊中の他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の純洋丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、海興丸の球状船首に擦過傷を生じさせ、純洋丸の船首部を折損して沈没させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
C受審人は、長崎県対馬東方沖合において、錨泊する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船があれば錨泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向けて接近する海興丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けて衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。