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平成15年門審第59号
件名

漁船昭福丸漁船康栄丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年8月1日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:昭福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:康栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
昭福丸・・・損傷ない
康栄丸・・・左舷中央部に破口及び船外機に濡損、のち廃船

原因
昭福丸・・・見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守

裁決主文

 本件衝突は、運転不自由状態の康栄丸を追い越す昭福丸が、見張り不十分で、康栄丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月14日11時00分
 山口県矢玉漁港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船昭福丸 漁船康栄丸
総トン数 2.72トン 0.30トン
登録長 9.39メートル 3.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 70 30

3 事実の経過
 昭福丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成13年12月交付の二級小型船舶操縦士(5トン限定)免状を有するA受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、 船首0.42メートル船尾1.19メートルの喫水をもって、平成15年3月14日07時00分山口県矢玉漁港A護岸北側の係留地を発し、同漁港南南西方約0.6海里の漁場に向かった。
 ところで、矢玉漁港は、長さ108メートルのG防波堤をはじめ、その内側に築造された同320メートルのA防波堤及び同125メートルのH防波堤などの外郭施設によって囲まれ、A防波堤とH防波堤との間の長さ約110メートル可航幅約60メートルの南北に延びる水路が、港口となっていた。
 07時00分A受審人は、漁場に到着し、矢玉港A防波堤灯台(以下「A防波堤灯台」という。)から203度(真方位、以下同じ。)1,040メートルの地点に錨泊してあじの一本釣り漁を始めた。
 10時30分ごろA受審人は、操業を終え、同時55分揚錨して同地点を発進し、針路を031度に定め、機関回転数毎分2,100の10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、係留地に向けて進行した。
 A受審人は、操舵装置の後方で立って手動操舵に当たり、10時58分A防波堤灯台から170度220メートルの、G防波堤南東端から約50メートル隔てた地点において、針路を港口の水路中央に向く003度に転じた。
 転針したとき、A受審人は、前路を一見して、左舷船首方約160メートルのA防波堤南端付近で停留し、箱めがねを使用して磯物を採捕中の小型漁船(以下「操業漁船」という。)を視認したものの、右舷船首4度160メートルのところの康栄丸には気付かず、操業漁船の近くを通過して何を漁獲しているかを見ることにし、大きな航走波を立てないようにするため、機関回転数毎分700として3.0ノットの速力に減じて続航した。
 10時59分A受審人は、A防波堤灯台から163度140メートルの地点に差し掛かったとき、右舷船首3度80メートルの港口の水路内に、船外機をチルトアップして櫂(かい)を掻きながら(かきながら)極低速力で北上する康栄丸を視認でき、運転不自由状態の同船に追い越す態勢で接近していることを認め得る状況であったが、操業漁船に気を取られ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、康栄丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けずに進行した。
 こうして、A受審人は、左舷前方の操業漁船の様子を見ながら続航し、10時59分半A防波堤灯台から153度95メートルの地点に達したとき、康栄丸がほぼ正船首45メートルとなったが、依然として同船に気付かず、その進路を避けないまま進行中、11時00分A防波堤灯台から131度60メートルの地点において、昭福丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、康栄丸の左舷中央部に後方から28度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 A受審人は、B受審人の叫び声を聞いて衝突に気付き、事後の措置に当たった。
 また、康栄丸は、採介藻漁業に従事する船外機装備の木造伝馬船で、平成14年11月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、 わかめ採取の目的で、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日09時00分矢玉漁港C物揚場の係留地を発し、同漁港東南東方約300メートルのわかめ採取場所に向かった。
 09時10分B受審人は、山口県豊浦郡豊北町津波敷沖の採取場所に至り、船外機を止めて漂泊し、長さ約2メートルの櫂を操って船の位置を微調整しながら、底見用の箱めがねと竿の先端に鎌を付けた道具を使ってわかめの採取を始めた。
 10時30分B受審人は、わかめ約40キログラムを得て採取を終え、帰途に就くため、船外機を始動しようとしたところ、船外機が故障して始動しなかったで、これをチルトアップし、船首部で座ってわかめ採取用の櫂を左右交互に掻きながら推進し、運転不自由状態で海岸線に沿って係留地に向け北上した。
 10時42分B受審人は、A防波堤灯台から151度335メートルの、矢玉漁港の港口まで約200メートルの地点を通過し、港口の水路に向けて335度方向に0.5ノットの極低速力で進行した。
 10時55分B受審人は、A防波堤灯台から145度135メートルの、H防波堤の南端を約30メートル隔てた地点を通過して港口の水路に入ったとき、左舷船尾55度970メートルのところに昭福丸を視認し、同船も水路に向かっており、水路内で自船を追い越すことが予測されたので、水路の右側端に寄せようとしたが、H防波堤上で多数の釣人が投げ釣りなどをしていて、釣糸が水路中央付近まで出ていたため、水路の右側端に寄せることができず、やむを得ず釣糸を替わすためにそのまま水路中央部に向けて続航した。
 B受審人は、船首部で座って櫂を掻きながら進行し、10時58分A防波堤灯台から139度85メートルの地点に差し掛かったとき、昭福丸が左舷船尾32度160メートルのところで水路に向けて針路を転じたのを認めたので、左舷後方を振り返っては、同船の動静を監視しながら続航した。
 こうして、B受審人は、水路中央部を進行していたところ、10時59分A防波堤灯台から135度70メートルの地点に達したとき、左舷船尾31度80メートルとなった昭福丸が、自船の左舷側を追い越す態勢で接近するのを認め、運転不自由状態の自船を無難に追い越していくものと思って、その動向を注視していたところ、同時59分半前示衝突地点付近に至ったとき、依然として昭福丸が避航の気配を示さないまま45メートルのところに迫ったことで衝突の危険を感じ、櫂だけでは衝突を回避することができないので、昭福丸に対して避航を促すため、立ち上がって櫂を大きく左右に振り、大声で叫びながら注意を喚起したが、及ばず、康栄丸は、船首を335度に向け、行きあしが止まった状態で、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、海中に飛び込んで難を逃れ、昭福丸に揚収された。
 衝突の結果、昭福丸は、損傷がなかったが、康栄丸は、左舷中央部に破口を伴う損傷及び船外機に濡損を生じ、のち廃船とされた。

(原因)
 本件衝突は、山口県矢玉漁港において、船外機の故障で運転不自由状態となった康栄丸を追い越す昭福丸が、見張り不十分で、康栄丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県矢玉漁港において、港口の水路を係留地に向けて帰航する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷船首方で停留して操業中の小型漁船に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船外機の故障により櫂で推進していた運転不自由状態の康栄丸を追い越す態勢で接近していることに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して衝突を招き、昭福丸は損傷がなかったが、康栄丸の左舷中央部に破口を伴う損傷などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、 海難審判法第4条第2項の規定により、 同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。 


参考図





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