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平成15年門審第43号
件名

貨物船第八祇園丸漁船滝宝丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年8月1日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、長浜義昭、西村敏和)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:第八祇園丸次席一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:滝宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
祇園丸・・・船首部に塗装剥離
滝宝丸・・・右舷船尾外板に亀裂を伴う破口
船長と甲板員が頸椎むち打ち症等

原因
祇園丸・・・動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
滝宝丸・・・注意喚起信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八祇園丸が、動静監視不十分で、漁ろうに従事している滝宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、滝宝丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月12日21時07分
 佐賀県神集島北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八祇園丸 漁船滝宝丸
総トン数 368トン 3.99トン
全長 50.00メートル  
登録長   9.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 第八祇園丸(以下「祇園丸」という。)は、主として九州北部各港から長崎県五島列島へのセメント輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長K及びA受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成14年8月12日14時40分同列島中通島青方港を発し、大分県佐伯港に向かった。
 ところで、祇園丸は、船体中心線上の船首端から後方7.8メートルのところに、長さ1.2メートル幅0.9メートル甲板上高さ8.6メートルのバケットエレベータ装置があり、船首端から後方37.8メートルの操舵室中央に設置された操舵スタンド後方に立つと、船首左右各舷1度の範囲が死角となっており、平素、船橋当直者は、レーダーを活用して同死角を補う見張りを行うようにしていた。
 K船長は、発航操船に引き続いて単独の船橋当直に就き、首席一等航海士が食事当番に当たることから、同当直をA受審人と2人で6時間交代で当たることとし、17時00分黒母瀬灯台から047度(真方位、以下同じ。)4.4海里の地点で、同当直を同受審人に引き継ぎ、降橋して自室で休息した。
 その後、A受審人は、生月瀬戸、白岳瀬戸及び佐賀県呼子港と同県加唐島との間の水道を経由し、日没時に法定灯火を点灯して東行した。
 20時52分A受審人は、神集島港宮埼灯台(以下「神集島灯台」という。)から308度3.0海里の地点で、針路を灯台瀬灯標の南方沖合約1海里に向く068度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵によって進行した。
 定針時にA受審人は、左舷船首4度2.8海里のところに滝宝丸の、及びその手前約0.8海里のところに第三船の各作業灯の明かりを初めて認め、その後操舵スタンドの左舷側に隣接して設置されたレーダーの後部に置いたいすに腰掛けた姿勢で、3海里レンジとしたレーダーにより両船の動静を監視しながら続航した。
 21時01分半A受審人は、神集島灯台から340度2.6海里の地点に達したとき、滝宝丸が左舷船首9度1.2海里のところに、第三船が同20度0.4海里のところにそれぞれ接近し、滝宝丸が両舷灯のほか作業灯を点灯し、トロールにより漁ろうに従事している船舶(以下「トロール従事船」という。)が連掲して表示しなければならない緑色、白色両全周灯のうちの緑色全周灯のみを点灯し、トロール従事船の灯火を適切に表示していなかったものの、これまでの航行経験から両船が漁ろうに従事中の小型の底びき網漁船であると推認し、レーダーによって滝宝丸及び第三船のいずれも自船の針路に平行に接近するのを探知したことから、このまま両船の南方を無難に航過することができるものと思い、引き続き滝宝丸の動静を十分に監視することなく、同船が船首を南西方に向けて投網していることに気付かないまま、初めに航過する第三船を注視して同船との接近距離を確認しながら、同じ針路、速力で進行した。
 ところで、底びき網漁船に接近する船舶は、同漁船が揚網を始めると前進行きあしがなくなり、揚網が終わると引き続き投網を始めるために突然動き出すことがあるから、その動静を十分に監視する必要があった。
 21時03分A受審人は、神集島灯台から345度2.6海里の地点に達したとき、左舷船首6度0.8海里のところに滝宝丸がおり、同船が表示した緑色全周灯、同灯下方のマスト灯及び右舷灯を認めることができ、その後衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、依然、滝宝丸に対する動静監視不十分で、このことに気付かず、トロールによる漁ろうに従事している滝宝丸の進路を避けずに続航し、間もなく第三船を左舷側に約250メートル離して航過した。
 21時07分わずか前A受審人は、そろそろ滝宝丸と航過するころと思ってレーダー画面を見たが同船の映像が見当たらず、いすから立ち上がって前方を見たところ、正船首わずか右に同船の緑色全周灯及びマスト灯を認め、慌てて手動操舵に切り換え、左舵一杯にとったが間に合わず、21時07分神集島灯台から359度2.8海里の地点において、祇園丸は、原針路、原速力のまま、その船首が滝宝丸の右舷船尾に前方から37度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
 A受審人は、衝突しなかったものと思って続航したところ、滝宝丸の僚船数隻に前路を塞がれて(ふさがれて)前示衝突を知らされ、行きあしを止めてK船長に報告した。
 K船長は、自室で休息中、A受審人から衝突の報告を受け、急いで昇橋して事後の措置に当たった。
 また、滝宝丸は、専ら唐津湾沖合を漁場とする小型機船底びき網漁業に従事する船尾船橋型のFRP製漁船で、昭和51年6月一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人ほか1人が乗り組み、けた網によるくるまえび漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年8月12日19時05分佐賀県神集島漁港を発し、同漁港北方沖合約3海里の漁場に向かった。
 ところで、B受審人は、夜間、けた網による漁ろうに従事するときには、両舷灯のほか船首甲板に100ワットの笠付き作業灯3個及び船尾甲板に60ワットの同作業灯1個、並びにトロール従事船が連掲して表示しなければならない灯火のうち、操舵室上部に設けたマスト頂部に取り付けた緑色全周灯をそれぞれ常時点灯していた。しかし、同全周灯の垂直下方に取り付けられた白色全周灯を、光が船首甲板に反射して前方が見えにくいことから常時消灯し、また、1個のスイッチで連動するマスト灯及び船尾灯を、漁獲物取り込み作業中には点灯したものの、投網開始から揚網開始までの間は、光が船首尾両甲板に反射して前方及び後方が見えにくいことから消灯していた。なお、操業中に他船が接近してくるときは、自船の存在を明らかにするため、マストの白色全周灯の下方に取り付けた黄色回転灯を点灯することもあった。
 滝宝丸のけた網漁具は、上下2枚で長さ18メートルの漁網を取り付けた直径75ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ9メートルのFRP製の桁(けた)の両端に、股綱(またあみ)と称する直径18ミリ長さ75メートルの合成繊維製ブライドルロープ各1本をそれぞれ漁網の反対側に取り付け、同ロープを1本の直径18ミリ長さ350メートルの同繊維製曳索先端に接続する構成になっていた。
 B受審人は、曳網時には、曳索が後方に緊張すると操船の自由が利き難く、大舵角で回頭するとけた網が裏返るおそれがあるため、曳索をその先端から長さ250メートルのところに設けたアイまで繰り出し、船尾端から前方の右舷側4メートル、左舷側1.8メートルの各舷縁上のたつに巻き付けたネソ綱と称する直径48ミリ長さ6.5メートルの合成繊維製緩衝用ロープに取り付けたフックを同アイに引っ掛け、左方に大きな旋回径で回し曳きができるようにしていた。また、揚網時には、曳網時の針路のまま操舵室前方の機関室囲壁両舷に設けたワーピングエンドで曳索を股綱まで巻き揚げたのち、風を左舷に受けるように左回頭しながら股綱を左舷舷側に引き寄せ、桁が同舷側にきたら股綱を固縛し、その後操舵室前方のほぼ船体中央部に設けられた直径60ミリの鋼管製デリック装置により、漁獲物が溜まったけた網の袋部を船内に取り込んでいた。引き続き投網するときには、股綱を固縛したまま同袋部を海中に投入して左回頭を始め、針路を定めたのち股綱を緩めて曳索を繰り出していた。
 B受審人は、揚網開始から次の投網開始までが約20分間で、この間に機関を後進にかけると漁具や曳索をプロペラに巻き込むおそれがあるため、揚網開始と同時に機関を全速力前進が回転数毎分3,100のところ極微速力前進の同毎分500にかけ、ワーピングエンドで曳索を巻き込むと船体が漁具の方向に曳かれるように後退するが、けた網の袋部が離底すると同時に左回頭を始め、その後他船から見れば漂泊して行きあしがほとんどないように見える状態で、漁獲物の取り込み作業を行ったのち、引き続き袋部を海中に投入して左回頭を始め、機関を同毎分3,000として全長325メートルの股綱及び曳索を繰出し後、同毎分2,100として約1時間曳網していた。
 こうして、B受審人は、19時40分前示漁場に到着後、両舷灯、緑色全周灯及び船首尾両甲板上の作業灯をそれぞれ点灯し、北東方に向けて第1回目の曳網を行い、20時40分マスト灯及び船尾灯を点灯して揚網を開始し、21時00分漁獲物を取り込んだのち、マスト灯及び船尾灯を消灯して南西方に向けて第2回目の投網を開始し、甲板員を船首甲板で漁獲物の選別に当たらせた。
 21時01分半B受審人は、神集島灯台から002.5度3.05海里の地点に達したとき、針路を211度に定め、機関を回転数毎分3,000にかけ、7.0ノットの速力で、股綱、曳索の順にこれらを繰り出しながら、手動操舵によって進行した。
 21時03分B受審人は、神集島灯台から001度2.9海里の地点に至り、曳索の繰出しを終えて機関を回転数毎分2,100にかけ、2.1ノットの速力で曳網を開始したとき、右舷船首31度0.8海里のところに、祇園丸が表示する白、白、紅3灯を初めて認めた。このとき同人は、自船の存在を示すためにマスト灯及び船尾灯を点灯して作業灯を消灯し、その後同船の動静を監視したところ、衝突のおそれがある態勢で互いに接近することを知ったが、自船は緑色全周灯とマスト灯とによってトロール従事船の灯火を表示していることになるので、そのうち祇園丸が自船の進路を避けてくれるものと思い、直ちに祇園丸に対し、デリックポストを叩く(たたく)などして避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行うことなく、更に接近した際、機関回転数を落として曳索を巻き込み、前進行きあしをなくすなどして衝突を避けるための協力動作をとることもなく、同じ針路、速力のまま続航した。
 21時07分わずか前B受審人は、祇園丸の舷灯の見え方が、紅灯から紅、緑両灯に、引き続き緑灯に変わったので、何とか替わったものと考えて進行中、滝宝丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、祇園丸は、船首部に塗装剥離を生じたが修理は行われず、滝宝丸は、右舷船尾外板に亀裂を伴う破口を生じたが、のち修理された。また、衝突の衝撃によりB受審人が約2週間の、及び滝宝丸甲板員Iが約1週間のそれぞれ通院加療を要する頸椎むち打ち症等の傷を負った。

(原因等の考察)
 けた網による漁ろうに従事していた滝宝丸が、トロール従事船の灯火を適切に表示していなかったことについて検討する。
 滝宝丸は、操舵室上部に設けたマストにトロール従事船の灯火を装備していたものの、両舷灯及び緑色全周灯については常時点灯し、緑色全周灯の垂直下方に取り付けた白色全周灯については、船首甲板に反射して前方が見にくいことからこれを消灯し、1個のスイッチで連動するマスト灯及び船尾灯についても、同様の理由で漁獲物取り込み作業時や他船が接近するとき以外のときには消灯していた。
 滝宝丸のこの灯火表示は、トロールにより漁ろうに従事している航行中の船舶が表示しなければならない灯火の表示と合致せず、自船の漁ろうの形態を明確に示したものではないため、他の船舶に対し、適用航法を判断して衝突防止のために必要な措置をとらせることを困難にさせるばかりか、むしろ逆に衝突の危険性を増大させることにもなりかねない。
 一方、A受審人の当廷における「これまでの航行経験から滝宝丸及び第三船が漁ろうに従事中の漁船で、明かりの状況から底びき網漁船と思った。」旨の供述のとおり、佐賀県神集島北方沖合の通航を繰り返す船舶であれば、作業灯等の点灯模様と操業海域とにより、トロール従事船の灯火を適切に表示していなくても、漁ろうに従事している漁船であることを推認できる状況で、本件発生当時、同人も滝宝丸が漁ろうに従事中の漁船であることを推認していたものと認められる。
 しかしながら、事実の経過に示したとおり、祇園丸が、漁ろうに従事中の漁船であることを推認した滝宝丸の動静を十分に監視しなかったことと、滝宝丸が、衝突の4分前にマスト灯を点灯したものの、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこととから、滝宝丸がトロール従事船の灯火を適切に表示していなかったことについては、本件発生の原因をなしたものとは認めないが、今後、B受審人が、日没から日出までの間、けた網による漁ろうに従事するときには、自船の存在はもちろんのこと、種類、状態及び大きさ並びに漁ろうの形態等を他の船舶に明瞭に知らせることができるよう、トロール従事船の灯火を適切に表示しなければならない。

(原因)
 本件衝突は、夜間、佐賀県神集島北方沖合において、東行中の祇園丸が、動静監視不十分で、けた網による漁ろうに従事している滝宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、滝宝丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、佐賀県神集島北方沖合を東行中、滝宝丸の作業灯の明かりを認めた場合、これまでの航行経験から同船がけた網による漁ろうに従事中の漁船であることを推認できたのであるから、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、引き続き滝宝丸の動静を十分に監視するべき注意義務があった。ところが、同受審人は、レーダーによって滝宝丸及び第三船のいずれも自船の針路に平行に接近するのを探知したことから、このまま両船の南方を無難に航過することができるものと思い、滝宝丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が前進行きあしを付けて曳網を開始したことに気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、祇園丸の船首部に塗装剥離を、滝宝丸の右舷船尾外板に亀裂を伴う破口をそれぞれ生じさせ、B受審人に約2週間の、及び岩本甲板員に約1週間のそれぞれ通院加療を要する頸椎むち打ち症等の傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、佐賀県神集島北方沖合において、けた網による漁ろうに従事中、衝突のおそれがある態勢で接近する祇園丸の灯火を認めた場合、曳索が後方に緊張して操船の自由が利き難い状態であったから、直ちに祇園丸に対し、鋼管製のデリックポストを叩くなどして避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行い、更に接近した際、機関回転数を落として曳索を巻き込み、前進行きあしをなくすなどして衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、自船が緑色全周灯とマスト灯とによってトロール従事船の灯火を表示していることになるので、そのうち祇園丸が自船の進路を避けてくれるものと思い、有効な音響による注意喚起信号を行わず、更に接近した際、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して祇園丸との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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