(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月26日01時00分
和歌山県田辺港第3区
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船堀由丸 |
総トン数 |
8.23トン |
全長 |
12.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
120 |
3 事実の経過
堀由丸は、探索船としてまき網漁業に従事するFRP製漁船で、平成15年2月19日交付の一級小型船舶操縦士の免状を受有するA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年2月25日14時30分ごろ和歌山県田辺港内にある田辺漁港を発し、自船以外に網船2隻、探索船3隻及び運搬船3隻で構成する船団とともに、徳島県日和佐沖の漁場へ向かった。
A受審人は、同日16時ごろ日和佐沖漁場に到着し、操業を開始したが漁模様が良くなかったので、21時ごろから魚群探索を行いながら東方に向かい、翌26日00時40分ごろ和歌山県瀬戸埼西方沖で操業を終了して田辺漁港に戻ることとした。
00時51分半A受審人は、田辺沖ノ島灯台(以下「沖ノ島灯台」という。)から218度(真方位、以下同じ。)1,750メートルの地点で、針路を065.5度に定め、機関を半速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力で、田辺港大浜導灯(以下「導灯」という。)の2灯が一線に重なるように手動操舵により進行した。
定針したとき、A受審人は、田辺港口付近の状況を一瞥して右舷船首に田辺港アボセ灯浮標の赤の灯光を確認したが、左舷船首に見えるはずの田辺港斎田埼南方灯浮標(以下「南方灯浮標」という。)の緑の灯光については、その背景に同港第3区で操業する棒受漁業の漁船の集魚灯や街灯があって、確認できなかった。
00時55分少し過ぎA受審人は、左舷船首に斎田埼沖合を南下する漁船の灯火を認めたので、同船の動静を確認したのち、同時57分半沖ノ島灯台から100度1,270メートルの地点に達したとき、その船尾をかわすために小角度の左舵を繰り返しつつ、導灯の重視線から北方に徐々に離れながら続航した。
00時59分少し過ぎA受審人は、沖ノ島灯台から080度1,900メートルの地点に至り、前示漁船の船尾をかわして導灯の重視線上に復帰することとしたとき、右舷船首30度330メートルに南方灯浮標を視認できる状況となっていた。
その後A受審人は、小角度の右舵を繰り返しながら回頭し、南方灯浮標に接近することとなったが、導灯の重視線上に戻れば無難に入港できるものと導灯の重なり具合の変化に気をとられ、前路の見張りを十分に行わないで、南方灯浮標に気付かないまま著しく接近し、01時00分沖ノ島灯台から081度2,220メートルの地点において、堀由丸の船首が090度に向いたとき、原速力のまま、船首部が南方灯浮標に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東南東風が吹き、視界は良好であった。
衝突の結果、堀由丸は船首部外板に亀裂、及びプロペラシャフトの突出を、また、南方灯浮標の標体に凹損、標頭の脱落などそれぞれ損傷を生じた。
(原因)
本件灯浮標衝突は、夜間、和歌山県田辺港第3区において、他船を避航するため一度離れた導灯の重視線上に戻って入港しようとする際、見張りが不十分で、灯浮標に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、和歌山県田辺港第3区において、他船を避航するため一度離れた導灯の重視線上に戻って入港しようとする場合、南方灯浮標を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、導灯の重視線上に戻れば無難に入港できるものと導灯の重なり具合の変化に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、南方灯浮標に著しく接近して衝突を招き、堀由丸の船首部外板に亀裂などを、及び同灯浮標の標体に凹損などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。