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平成14年神審第123号
件名

漁船喜久丸貨物船ホープ スター衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年8月21日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(竹内伸二、小金沢重充、平野研一)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:喜久丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
喜久丸・・・船首を大破して転覆、のち廃船
船長が肋骨骨折及び打撲傷、甲板員が打撲傷
ホ 号・・・左舷船首外板に擦過傷

原因
喜久丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
ホ 号・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、喜久丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るホープ スターの進路を避けなかったことによって発生したが、ホープ スターが、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月7日18時09分
 石川県輪島市北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船喜久丸 貨物船ホープ スター
総トン数 6.99トン 1,598トン
全長   85.5メートル
登録長 12.35メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   1,323キロワット
漁船法馬力数 120  

3 事実の経過
 喜久丸は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成14年6月7日00時30分石川県輪島港を発し、同港北方の漁場に向かった。
 A受審人は、昭和41年から底びき網漁船に乗船し、同55年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得してから船長職を執り、専ら輪島港北方の日本海で操業に従事していた。
 A受審人は、平成14年6月7日01時10分ごろ沖ノ瀬付近で操業を始め、カレイなど約100キログラムを漁獲したのち帰航することとし、17時55分竜ケ埼(たつがさき)灯台から010度(真方位、以下同じ。)4.3海里の地点を発進すると同時に、針路を輪島港沖の第4防波堤東端に向首する180度に定めて自動操舵とし、全速力の9.0ノットより少し減速して機関を回転数毎分1,100とし、6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 発進後A受審人は、息子の甲板員に船首部で魚網の後片づけをさせ、自らは、入港までに漁獲物の選別を済ませることとし、輪島市北方沖合は商船が東西に往来する海域であったが、操舵室の外に出て、同室前の左舷側甲板上で漁獲物の選別作業にかかった。
 18時02分A受審人は、竜ケ埼灯台から012度3.6海里の地点に達したとき、右舷船首42度1.5海里にホープ スター(以下「ホ号」という。)を視認することができ、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、漁獲物の選別に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、早期に右転するなどして同船の進路を避けることなく、下を向いて選別作業に没頭した。
 18時09分少し前A受審人は、ホ号が吹鳴した汽笛を聞いて前方を見たところ、至近に迫った同船を認めたものの何らの措置をとることもできず、18時09分喜久丸は、竜ケ埼灯台から015度2.9海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首がホ号の左舷船首部に後方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、ホ号は、船尾船橋型の貨物船で、船長Rほか7人が乗り組み、滑石約2,000トンを積載し、船首3.4メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、同月1日18時00分(現地時間)中華人民共和国営口港を発し、途中、大韓民国釜山港に寄せ、同月5日18時20分(現地時間)同港を出航して北海道苫小牧港に向かった。
 越えて7日17時55分R船長は、船橋当直に従事していた一等航海士の食事交替のために竜ケ埼灯台から328度2.3海里の地点で昇橋したとき、同航海士から前方に漁船がいる旨の報告を受けて左舷船首方3.0海里に喜久丸を初認し、針路を同航海士から引き継いだ067度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.3ノットの速力で自動操舵により進行した。
 18時02分R船長は、竜ケ埼灯台から355度2.3海里の地点に達したとき、喜久丸を左舷船首25度1.5海里に認めるようになり、その後同船の方位に著しい変化が認められず、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することを知り、手動操舵に切り換えて注意深くその動静を監視した。
 R船長は、喜久丸がさらに接近しても避航動作をとっている様子が認められなかったが、警告信号を行わず、機関の減速を開始して後進にかけるなど衝突を避けるための協力動作をとらないで続航し、18時08分依然として直進を続ける喜久丸を見て、エンジンテレグラフをスタンバイとして減速を開始し、同時08分半機関を半速力後進にかけて右舵25度をとるとともに、汽笛を吹鳴したが効なく、ホ号は、100度を向首したとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、喜久丸は、船首を大破して転覆し、のち救助に赴いた起重機船によって輪島港に引き付けられたが、修理に多額の費用がかかることから廃船となり、ホ号は、左舷船首外板に擦過傷を生じた。また、A受審人が2週間の加療を要する肋骨骨折及び打撲傷を、喜久丸甲板員が10日間の加療を要する打撲傷をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、石川県輪島市北方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際、喜久丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るホ号の進路を避けなかったことによって発生したが、ホ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、石川県輪島市北方沖合において、底びき網漁を終えて輪島港に向け帰航する場合、前路を左方に横切る態勢で接近するホ号を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、漁獲物の選別に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近するホ号に気付かず、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、喜久丸の船首部を大破させ廃船に至らせ、ホ号の左舷船首外板に擦過傷を生じさせるとともに、自ら2週間の加療を要する肋骨骨折及び打撲傷を負い、喜久丸甲板員に10日間の加療を要する打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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