日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年神審第18号
件名

貨物船海洋号漁船博栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年8月5日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎、竹内伸二、平野研一)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:海洋号船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:博栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
海洋号・・・損傷ない
博栄丸・・・左舷側外板に擦過傷と変形
船長が椎間関節性項痛症

原因
海洋号・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
博栄丸・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、海洋号が、見張り不十分で、漁ろうに従事している博栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、博栄丸が、汽笛不装備で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月13日15時45分
 兵庫県家島東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船海洋号 漁船博栄丸
総トン数 497.07トン 4.96トン
全長 61.50メートル  
登録長   11.42メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 海洋号は、船首部にジブクレーンを装備した船尾船橋型の鋼製砂利石材運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、土砂700立方メートルを積載し、船首0.8メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成14年12月13日04時ごろ兵庫県家島港の錨地を発し、大阪港夢洲(ゆめしま)埋立地で土砂を卸し、同日12時50分ごろ同港を離れ、家島港の錨地に向かった。
 A受審人は、15時30分兵庫県鞍掛島南方沖合で入港準備のため昇橋し、それまで単独当直に入っていた一等機関士から当直を引き継ぎ、船橋中央やや右舷側にあるいすに腰をかけて同機関士と作業の打合せをしながら当直に当たった。
 15時41分半A受審人は、男鹿島(たんがしま)灯台から035度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点に達し、針路を270度に定め、機関を半速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 15時42分半少し前A受審人は、男鹿島(たんがしま)灯台から031度2.0海里の地点に至り、右舷船首2度1,000メートルに低速で東行してくる博栄丸を認めることができ、また、同船が漁ろうに従事していることを示す正規の形象物を掲げていなかったものの、双眼鏡を使用すれば、その後部から出ている漁具の一部を確認でき、衝突のおそれのある態勢で接近したが、同人は一等機関士との作業の打合せに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、博栄丸に気付かないまま、速やかに右転するなどしてその進路を避けずに続航した。
 15時44分少し過ぎA受審人は、博栄丸が方位に変化のないまま350メートルに接近したが、依然として見張りを十分に行わないまま進行し、同時45分わずか前、博栄丸のマストをジブクレーン付近に視認し、右舵一杯としたものの、効なく、15時45分男鹿島灯台から020.5度1.8海里の地点において、原針路、原速力のまま、海洋号の左舷船首外板と博栄丸の左舷外板とがほとんど平行に衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北北西風が吹き、視界は良好であった。
 また、博栄丸は、船体中央に操舵室、その後ろにローラーとデリッキと称するやぐらを備えたFRP製小型底びき網漁船で、平成13年7月30日交付の一級小型船舶操縦士の免状を有するB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.25メートル船尾1.15メートルの喫水をもって、平成14年12月13日04時30分家島漁港を発し、岡山県日生(ひなせ)港で前日の漁獲物を水揚げしたのち、水深約28メートルの家島北方海域に戻り、11時ごろから同海域を東西方向に曳く底びき網漁にとりかかった。
 ところで、B受審人は、全長が12メートルを超える博栄丸に装備されていた汽笛が以前故障したが、その後特に支障がないと思い、汽笛を撤去したまま装備していなかった。
 B受審人は、漁ろうに従事している船舶が表示する正規の形象物が破損していたので、これに代えて前部マストに直径約30センチメートルの黒球を、中央部にオレンジ色の球を、また船尾に青色のかごを掲げ、約330メートルのワイヤー2本で長さ約30メートルの魚網を曳いて「板こぎ網漁」と称するトロールによる漁ろうに従事し、同日15時27分半男鹿島灯台から353度1.9海里の地点で針路を098度に定め、3.0ノットの速力で船尾から約360メートルの漁具を曳いて、自動操舵により進行した。
 15時42分半少し前B受審人は、男鹿島灯台から017度1.8海里の地点に達したとき、左舷船首6度1,000メートルに自船の進路を避けないで西行してくる海洋号を初認し、その後衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めていたが、曳網中で大幅な針路変更が困難な状況下、他の砂利石材運搬船と同様にいずれ海洋号が家島港に向け左転するものと予想して続航した。
 15時44分少し過ぎB受審人は、海洋号が避航の様子がないまま350メートルに接近したが、汽笛を装備しておらず、警告信号を行うことができずに、手を振ったり、回転灯や投光器を点灯したりして合図を試みたものの、同船が至近に迫ったので、正面からの衝突と船尾の漁具の損傷を避けるため、右舵一杯をとったのち、引き続いて左舵をとって針路を090度としたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海洋号は、損傷がなかったが、博栄丸は、左舷側外板に擦過傷と変形を生じ、B受審人が、7週間の通院加療を要する椎間関節性項痛症を負った。

(原因)
 本件衝突は、家島東方沖合において、西行中の海洋号が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している博栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、博栄丸が、汽笛不装備で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、家島東方沖合において、家島港に向けて西行する場合、前路でトロールにより漁ろうに従事している博栄丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、一等機関士との作業の打合せに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、博栄丸の存在に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、博栄丸の左舷側外板に擦過傷と変形を生じさせ、B受審人に椎間関節性項痛症を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、博栄丸を航行させる場合、汽笛を装備すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、汽笛が故障したとき、特に支障がないと思い、これを撤去したまま装備しなかった職務上の過失により、家島東方沖合において、トロールにより漁ろうに従事中、避航の様子のないまま接近する海洋号を認めた際、警告信号を行うことができない事態となって、海洋号との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
(拡大画面:22KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION