(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年1月7日22時20分
和歌山下津港和歌山区第2区
2 船舶の要目
船種船名 作業船第三天成 |
総トン数 66トン |
全長 23.5メートル |
機関の種類 ディーゼル機関 |
出力 735キロワット |
3 事実の経過
第三天成(以下「天成」という。)は、船体中央やや後部に操舵室を、また、船首に20トン吊りクレーンを備えた鋼製作業船で、A受審人ほか3人が乗り組み、和歌山県戸坂(とさか)漁港整備工事に伴う地盤改良工事を支援する目的で、引船に曳航(えいこう)された地盤改良台船等とともに、船首1.32メートル船尾2.24メートルの喫水をもって、平成15年1月7日16時30分ごろ兵庫県相生港を発した。
A受審人は、速力の遅い台船とは和歌山下津港沖合で翌朝会合することを約して単独で先行し、明石海峡及び加太瀬戸を経由して、同日21時30分ごろ和歌山下津港外港に到着したが、付近海域の視界が1,000メートルに制限されているうえ、東北東の風波が大きく漂泊できなかったので、防波堤内で避泊することとし、同港和歌山区南区へ向かった。
ところで、A受審人は、和歌山下津港和歌山区南区へは、何度か入港していたので、防波堤の配置等港内の状況については十分承知しており、紀ノ川左岸に沿って工事中の防波堤西端に設置された作業灯の灯光を左舷正横至近に見て航過し、右舷前方に見える外防波堤臨時灯台(以下「臨時灯台」という。)の灯光を見つけて、同灯光を右舷正横に見て同南区へ向けて右転するつもりであった。
22時14分A受審人は、和歌山北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から276度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの地点に至って、針路を092度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、レーダーを使用しながら手動操舵によって進行した。
22時16分半A受審人は、作業灯の灯光を左舷正横30メートルに見て航過したが、まもなく臨時灯台の灯光が見えてくるものと右舷前方の見張りに集中し、レーダーによる船位の確認を十分に行わず、紀ノ川河口に接近すればするほど視界が狭められ、当時の視界が250メートルとなっていたことに気付かないまま続航した。
22時18分半少しすぎA受審人は、北防波堤灯台から294度220メートルの転針予定地点に達したものの、依然としてレーダーによる船位の確認を十分に行わず、同時20分わずか前、船首至近に北防波堤を認め、右舵をとるとともに機関を後進としたが、22時20分北防波堤灯台から011度40メートルの地点において、天成は、速力が5.0ノットとなり、120度に船首が向いたとき、船首部が北防波堤に衝突した。
当時、天候は霧で、風力3の東北東の風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視程は250メートルであった。
防波堤衝突の結果、船首部の垂直防舷材3個のうち2個を脱落させ、同防舷材の台座3台に曲損を生じさせたが、のち修理された。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、和歌山下津港和歌山区南区へ入港中、視界不良となった際、レーダーによる船位の確認が不十分で、北防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
A受審人は、夜間、和歌山下津港和歌山区南区へ入港中、視界不良となった場合、転針のための正横目標とした臨時灯台の灯光を認めることができなかったから、北防波堤に接近しないよう、レーダーによる船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、まもなく同灯光が見えてくるものと右舷前方の見張りに集中し、レーダーによる船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、北防波堤に接近していることに気付かないまま向首進行して衝突を招き、船首防舷材を脱落させるなどの損傷を生じさせるに至った。