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平成14年横審第137号
件名

プレジャーボートトーマスプレジャーボートエム ジェイI衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年8月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西山烝一、阿部能正、吉川 進)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:トーマス船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:エム ジェイI船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
トーマス・・・・・右舷側船尾付近外板及びガンネルに破損等
エムジェイI・・・右舷側船首部外板及び同側船尾部外板に亀裂を伴う破口

原因
トーマス・・・・・法定灯火不表示、見張り不十分、注意喚起信号不履行

主文

 本件衝突は、トーマスが、法定の灯火を表示しないで錨泊したばかりか、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月14日20時45分
 岐阜県木曽川
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートトーマス プレジャーボートエム ジェイI
全長 6.43メートル 5.64メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 51キロワット 110キロワット

3 事実の経過
 トーマスは、ヤマハ発動機株式会社が製造したSRV20と称する、船体中央部に操縦席を設けた船外機付きFRP製プレジャーボートで、A受審人(平成13年3月2日四級小型船舶操縦士免状取得)が1人で乗り組み、知人5人を乗せ、花火大会を見物する目的で、船首0.37メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、平成13年8月14日19時45分岐阜県羽島市下中町城屋敷の、国土交通省木曽川上流工事事務所所管の距離標杭30.2KP(以下、各距離標杭の名称については「距離標杭」の冠称を省略する。)付近の木曽川右岸を発して上流に向かった。
 A受審人は、19時53分31.0KPから157度(真方位、以下同じ。)120メートルの、木曽川右岸から70メートルばかり川中の地点に至ったとき、機関を停止し、水深約2.5メートルの川底に重さ約12キログラムのダンホース型錨を投じ、直径2センチメートルの木綿製錨索を約9メートル延出して左舷船首クリートに係止し、錨泊を開始した。
 ところで、錨泊地点は、JR東海道新幹線木曽川鉄橋から下流800メートルの木曽川水域で、付近の可航幅が約440メートルあり、同川は伊勢湾と接続していたものの、木曽川大堰(せき)により航洋船が航行することができなかったが、同大堰には船通しの水門が設けられ、小型漁船が、月間10隻ほど通過して上流で漁を行っており、また、普段から、プレジャーボートなども当該水域を航走していた。
 A受審人は、トーマスが夜間航行を禁止されているため灯火の設備を備えていなかったものの、錨泊するにあたり、道路工事用の赤色点滅灯などで自船の存在がわかるものと思い、錨泊中の船舶が表示する法定の灯火を掲げることなく、船首甲板先端のアイボルトに、工事保安灯ダンブライト90(3ボルトの乾電池、0.9秒1閃光)と称する高さ41センチメートル(以下「センチ」という。)の赤色点滅灯を取り付け、水面上からの高さが1.06メートルとし、また、スターンハッチ船尾端付近に、高さ24センチの白色の螢光灯ランタン(単一型乾電池4個)を置いて水面上からの高さ0.73メートルとし、それぞれ点灯した。
 赤色点滅灯は、発光部が厚さ約2センチ直径9センチの円形状で、その正面と反対側からは点滅する灯火を見ることができるが、横方向からは視認することが困難であった。当時、同灯の正面が船首尾方向に向けて取り付けられ、同灯のすぐ後ろに同乗者1人が座り、風防ガラス後方の右舷側操縦席にA受審人、同じく左舷側の座席に他の同乗者1人が腰掛けていたことや、灯火の高さが甲板上及び水面上からも低い位置にあることから、同灯が船体構造や同乗者によって遮蔽されていたうえ、水面上に映る花火の明かりに紛れていたこともあり、同灯を正横後方から視認することが困難な状況であった。
 また、螢光灯ランタンは、スターンハッチ上に置かれていたので、前方の6人の同乗者や船体構造、後方の船外機、左右横方向の船尾部ガンネルによって遮蔽されていたうえ、水面上からの高さも低く、その灯火を視認することが困難な状況であった。
 20時44分A受審人は、前示錨泊地点で船首が038度を向いていたとき、左舷船尾8度450メートルのところにエム ジェイIの白、紅、緑3灯を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、花火見物に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船に対し所持していた懐中電灯を照射するなど注意喚起信号を行わないまま、錨泊を続けた。
 20時45分少し前A受審人は、他船の航走波により船首が振れて096度を向いていたとき、右舷後方にエム ジェイIの機関音を聞き、船首に続いて灯火を初めて視認したものの、同船の避航を期待しているうち、20時45分前示錨泊地点において、トーマスは、船首が096度を向いて、その右舷中央部にエム ジェイIの右舷船首部が前方から35度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、月齢は24.2日、月没は14時17分で月明はなく、上流から下流に向かう微弱な水流があった。
 また、エム ジェイIは、株式会社レスターファインのスキーターSF150SXと称する、船体中央部やや後方に操縦席を備えた船外機付きFRP製プレジャーボートで、B受審人(昭和60年9月2日四級小型船舶操縦士免状取得)が1人で乗り組み、知人3人を乗せ、花火大会を見物する目的で、船首0.37メートル船尾0.72メートルの喫水をもって、同日20時43分30.2KP付近の木曽川右岸を発し、法定の灯火を掲げて濃尾大橋に向かった。
 B受審人は、右舷側操縦席に腰掛けて手動操舵と見張りにあたり、20時44分わずか前31.0KPから215度570メートルの地点に達したとき、針路をJR東海道新幹線木曽川鉄橋の県境から右岸よりの1番目と2番目との橋梁の中間に向く046度に定め、機関を回転数毎分2,500にかけ、折からの微弱な水流に抗して14.7ノットの対地速力で進行した。
 20時44分B受審人は、31.0KPから213度510メートルの地点に至ったとき、正船首450メートルのところにトーマスが錨泊していたものの、法定の灯火である錨泊灯を掲げておらず、また、同船の赤色点滅灯及び螢光灯ランタンの灯火が、同乗者や船体構造により遮蔽されていたほか、水面上からの高さが低かったこともあり、それらの灯火を視認することができなかったので、同船の存在を認めることができないまま続航した。
 こうして、B受審人は、20時45分わずか前正船首至近にトーマスの白い船体を突然初認し、衝突の危険を感じ、左舵をとったが及ばず、エム ジェイIは、船首が311度を向いて、ほぼ原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、トーマスは、右舷側船尾付近外板及びガンネルに破損、同側中央部ガンネルにペイント剥離(はくり)及びウェイクポール右舷側ステイに曲損を、エム ジェイIは、右舷側船首部外板及び同側船尾部外板に亀裂を伴う破口を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因の考察)
 本件は、夜間、岐阜県木曽川において、トーマスが法定の灯火を掲げずに錨泊していたところ、上航中のエム ジェイIが衝突したもので、その原因について検討する。
1 トーマスの灯火について
 海上衝突予防法第30条第4項で、長さ7メートル未満の錨泊中の船舶は、一定の条件下では錨泊中の灯火または形象物を表示することを要しないと定められている。
 トーマスは、全長6.43メートルで7メートル未満の船舶に該当したが、錨泊地点付近の水域は、普段から、小型漁船が漁のため航行していることやプレジャーボートなども航走していること、また、本件時は上流で花火大会が行われ、同大会関係者や花火見物の船舶などが航行していたことから、同項の規定による他の船舶が通常航行する水域にあたり、法定の灯火を表示して錨泊しなければならなかった。
 また、トーマスは、法定の灯火である錨泊灯の代わりに、道路工事用の赤色点滅灯とキャンプ用の白色螢光灯ランタンを、船首先端及び船尾部に置いて点灯していたが、両灯火とも同乗者や船体構造により遮蔽された状況で、さらに、両灯火が水面上からの高さが低く、同船正横後方からは無灯火状態で、エム ジェイIからはトーマスを視認することができず、仮に同船の灯火を視認できたとしても、水面に浮かんでいる灯浮標などと誤認され、錨泊している船舶の灯火と判断することはできなかったものと認められる。
 したがって、トーマスが、夜間、錨泊するにあたり、法定の灯火を表示していなかったことは、本件発生の原因となる。
2 見張りについて
 A受審人は、衝突少し前自船に向かって接近するエム ジェイIの船体を、続いて灯火を初めて視認している。
 エム ジェイIは、白色全周灯と両色灯を点灯しており、同灯の視認を妨げるものは何もなかったと認められる。
 A受審人が、エム ジェイIを早期に視認していれば、自船に向かってくる相手船に対し、所持していた懐中電灯を照射して注意を喚起することができ、エム ジェイIがトーマスを避ける可能性があったと推認される。
 したがって、同人が、衝突少し前までエム ジェイIに気付かなかったことは、見張りが十分でなかったからであり、本件発生の原因となる。
 一方、エム ジェイIは、トーマスが法定の灯火である錨泊灯を掲げておらず、また、同船が掲げた赤色点滅灯などを視認することができない正横後方から接近中であったことから、B受審人は、同船の存在に気付くことができず、したがって、エム ジェイIの見張り不十分を、本件発生の原因として摘示することはできない。

(原因)
 本件衝突は、夜間、岐阜県木曽川において、トーマスが、法定の灯火を表示しないで錨泊したばかりか、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、花火見物をするため岐阜県木曽川で錨泊する場合、他船から自船の存在と錨泊状態が明確にわかるよう、法定の灯火を掲げて錨泊すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、赤色点滅灯などを点灯するので自船の存在がわかるものと思い、法定の灯火を表示しないで錨泊した職務上の過失により、接近中のエム ジェイIに自船の存在を認識させることができず、同船と衝突する事態を招き、トーマスの右舷側船尾付近外板及びガンネルなどに破損を、エム ジェイIの右舷側船首部外板などに亀裂を伴う破口をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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