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平成14年函審第46号
件名

プレジャーボートトリヨシプレジャーボートトムソーヤIV衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年8月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(黒岩 貢、岸良 彬、古川隆一)

理事官
千手末年、今泉豊光

受審人
A 職名:トリヨシ船長 操縦免許:小型船舶操縦士
C 職名:トムソーヤIV船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
指定海難関係人
B 職名:トリヨシ操縦者

損害
トリヨシ・・・・左舷船首部に擦過傷、転覆
トムソーヤ・・・ハンドル部の数箇所に損傷
同乗者1人が溺死、船長が右肩鎖関節脱臼、右気胸

原因
トムソーヤ・・・飲酒運航の防止措置不十分

主文

 本件衝突は、トムソーヤIVが、飲酒運航の防止措置が不十分で、トリヨシの前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Cの小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月14日15時30分
 北海道芦別市滝里ダム貯水池
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートトリヨシ
全長 4.95メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 84キロワット
船種船名 プレジャーボートトムソーヤIV
全長 2.67メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 67キロワット

3 事実の経過
(1)トリヨシ
 トリヨシは、ヤマハ発動機株式会社が製造した最大搭載人員5人のFRP製モーターボートで、風防ガラス後方のオープンコックピット前部に左右並んだ2個の座席が、同後部にソファーがそれぞれ配置され、前列右舷側の座席が、舵輪、スピ−ドメーター、機関操縦装置などを備えた操縦席となっており、湖、河川でのウェークボード等の遊びに利用されていた。同船は、最高速力毎時約70キロメートルで、高速走行時には船首が浮上し、操縦席に腰を下ろすと正船首方が若干見えにくくなった。同船の実質的な所有者は、B指定海難関係人であったが、海技免許を受有する同人の妻の所有として登録されていた。
(2)トムソーヤIV
 トムソーヤIV(以下「トムソーヤ」という。)は、カナダのボンバルディア社が製造した、最大搭載人員2人のウォータージェット推進式FRP製水上オートバイで、A受審人の夫が所有し、最高速力は毎時約90キロメートルであった。
(3)滝里ダム貯水池
 滝里ダム貯水池(以下「ダム湖」という。)は、平成11年石狩川水系空知川の多目的ダム建設により北海道芦別市滝里町に造成された全長約12キロメートル、最大幅約1キロメートルの湖で、近年の水上スポーツの普及に伴い、近郊から多くの水上スポーツ愛好家が集まるようになった。
(4)キャンプ旅行
 平成13年8月14日ダム湖湖畔において、水上オートバイ等の仲間であるA受審人の夫、同受審人の実兄であるB指定海難関係人及びC受審人が中心となってその家族や仲間30人ばかりが集まり、1泊2日のキャンプが催されることとなった。一行は、トリヨシ、トムソーヤほか1隻の水上オートバイをトレーラーで牽引して同日08時ごろ旭川市を出発し、09時半ごろダム湖湖畔に到着してテントの設営等を行い、その後昼食をとり、午後になって各自ウェークボードや水上オートバイでの遊走を楽しんだ。
 ところで、一行は、予め多量のビール、焼酎等の酒類を用意してきており、キャンプ参加者の一部は、午前中から飲酒し、酒酔い気味でモーターボート、水上オートバイ等に乗船していた。
(5)キャンプ場
 キャンプ場は、ダム湖北岸の、ポンルベシベ川東側600メートルに位置する標高397.5メートル頂所在の三角点(以下「朝日三角点」という。)から256度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点にあり、トリヨシ、トムソーヤほか1隻の水上オートバイがキャンプ場南東側200メートルの、朝日三角点から246度930メートルの湖岸(以下「係留地点」という。)に係留されていた。
(6)受審人等
ア A受審人
 A受審人は、平成9年9月四級小型船舶操縦士の海技免許を取得し、水上オートバイについては豊富な操縦経験があったが、モーターボートを操縦したことはなかった。同人は、家族でキャンプ旅行に参加し、昼食後、一度水上オートバイに乗船したあと、ダム湖の周遊やB指定海難関係人から操縦を教えてもらう目的で、両親や娘とともにトリヨシに乗船することになった。A受審人は、乗船者中、ただ一人の有資格者であることを知っていたが、船長としての自覚に乏しかった。
イ B指定海難関係人
 B指定海難関係人は、海技免許を取得していなかったものの、以前から友人のモーターボートに乗って操縦を覚え、1箇月ばかり前にトリヨシを購入してからも、有資格者を横に座らせて3回程度同船の操縦を経験していた。
ウ C受審人
 C受審人は、平成9年8月四級小型船舶操縦士の海技免許を取得したのち、水上オートバイに乗り始め、自らも2人乗りの水上オートバイを2台所有していた。同人は、キャンプに参加した際、自分の水上オートバイが故障していたため、トムソーヤを借りて遊走していたが、同船の操縦に馴れていなかった。
(7)本件発生に至る経緯
 トリヨシは、A受審人が船長として乗り組み、同人の両親と娘の優希及びB指定海難関係人の計4人を乗せ、ダム湖周遊及び操縦指導の目的で、船首0.05メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、平成13年8月14日15時00分係留地点を発し、対岸付近に向かった。
 A受審人は、オープンコックピット前列左舷側に座り、B指定海難関係人を操縦席に座らせて操船を任せ、後部座席に両親と優希を座らせていたが、乗船時ライフジャケットを着用するよう指示しなかったため、自分を含む全員がライフジャケットを着用していなかった。
 A受審人は、係留地点の対岸付近において、B指定海難関係人と操縦を代わり、800メートルばかりの区間の往復を数回繰り返しながら、同人からトリヨシの操縦を教わり、その後漂泊して写真撮影などを行ったのち、ダム湖を周遊して係留地点に帰ることとし、再びB指定海難関係人に操縦を任せて前列左舷側の席に右舷側を向いた姿勢で腰を下ろした。
 B指定海難関係人は、立った姿勢で操縦位置に就き、15時27分40秒朝日三角点から234度1,660メートルの地点を上流に向けて発進し、ダム湖南岸の沖合150メートルをこれに沿って毎時50キロメートルの速力(対地速力、以下同じ。)で航行したところ、同時28分20秒左舷船首方の対岸近くに無人のまま漂泊するトムソーヤをA受審人とともに認めた。
 B指定海難関係人は、トムソーヤが無人であったことから状況確認のため同船に向首して接近し、15時29分同船に50メートルまで近づいたとき、それまで同船の陰にいて見えなかったC受審人が同船に乗り込んだのを認めたことから、係留地点に戻ることとし、大きく右回頭したのち、小舵角の左舵により左に回頭を始めた。
 A受審人は、依然、右舷側を向いた姿勢のまま、次第に右舷後方に替わるトムソーヤを見ていたが、15時29分40秒朝日三角点から199.5度1,070メートルの地点に至ってトリヨシが004度を向首したころ、右舷船尾84度120メートルとなったトムソーヤが係留地点に向け発進し、その後高速力で自船を追い抜く態勢で接近してきたことを知った。
 操縦中のB指定海難関係人は、A受審人と同じころトムソーヤが発進するのを見ながら左回頭を続け、15時29分47秒朝日三角点から202.5度1,000メートルの地点に達したとき、左回頭を終えて針路を係留地点に向く319度に定め、同地点沖合で遊走する他船に注意を払いながら、毎時50キロメートルの速力のまま手動操舵により進行した。
 定針したころA受審人は、トムソーヤが右舷船尾31度50メートルまで接近したのを認めたが、自船の右舷側を10メートルばかり離して無難に航過する態勢であったことから、とくにトムソーヤに注意することもなく続航した。
 15時29分58秒A受審人は、トムソーヤが右舷側10メートルに並航したのを認め、B指定海難関係人に対し、同船が追い抜いた旨を伝えたが、次の瞬間同船が左転して自船の5メートルばかり前方に進出し、さらに右転を試みた途端右方を向いた態勢で横滑り状態となり、失速したことを知った。
 係留地点沖合の他船の動きに注意していたB指定海難関係人は、A受審人の言葉でトムソーヤが船首間近にいることに初めて気付き、直ちに右舵一杯としたが及ばず、15時30分トリヨシは、朝日三角点から212.5度930メートルの地点において、ほぼ原針路、原速力のまま、その船首部がトムソーヤの右舷側前部に後方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、視界は良好で、湖面は穏やかであった。
 また、トムソーヤは、C受審人が1人で乗り組み、ダム湖の水中で小用を足す目的で、船首船尾とも0.3メートルの喫水をもって、同日15時26分ごろ前示係留地点を発し、同地点の南東方900メートル付近に向かった。
 ところで、C受審人は、当日ダム湖に到着と同時にテントの設営やバーベキューの準備を始めるとともに、各自持ち寄ったビールを飲み始め、昼食後も、2回ほど水上オートバイでの航走をした以外は、ほとんどの時間360ミリリットル入りのプラスチック製容器にビールを入れて持ち歩くなど、それまで同容器で10杯近くのビールを飲み、発航時には酒酔い状態で注意力が散漫となっていたが、少し沖に出て小用を足すだけなので問題あるまいと思い、発航を中止するなど飲酒運航の防止措置をとらなかった。
 15時27分ごろ朝日三角点から193.5度1,060メートルの地点に到着したC受審人は、トムソーヤを止めて湖中に入り、同時29分小用を済ませて再びトムソーヤに乗り込んだとき、自船に50メートルばかりに向首接近したトリヨシを認め、まもなく同船が右回頭を開始したのを見て自船の船首を係留地点に向けた。
 15時29分40秒C受審人は、トリヨシが左舷船首方120メートルのところを左転しながら係留地点に向けつつあることを知り、同船の後を追うこととして発進し、針路を314度に定め、機関を半速力前進にかけ、毎時67キロメートルの速力で進行した。
 C受審人は、トリヨシの右舷側10メートルを無難に追い抜く態勢で接近し、15時29分58秒同船に10メートルの距離をもって並航したとき、飲酒により注意力が散漫となっていたことから、同船の前方に出てスラロームすることを思い立ち、機関を全速力前進にかけて毎時90キロメートルまで増速したのち、ハンドルを左にとってトリヨシの前方5メートルに進出した。
 C受審人は、次いで右転しようとしたところ操縦を誤り、019度を向首したままほぼ319度方向に横滑りして失速し、15時30分わずか前そのままの態勢でトリヨシの直前で停止状態となり、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、トリヨシは、トムソーヤに乗り揚げ、左舷船首部に擦過傷を生じて右舷側に転覆し、トムソーヤは、ハンドル部等に数箇所の損傷をそれぞれ生じた。両船の乗員は全員落水し、A、C両受審人、B指定海難関係人ほか2人は、来援した他のプレジャーボートに救助されたが、Y(平成12年5月21日生)が行方不明となり、後日遺体で発見され、溺死と検案された。また、C受審人が、長期間の加療を要する右肩鎖関節脱臼、右気胸を負った。

(原因)
 本件衝突は、北海道芦別市滝里ダム貯水池において、トムソーヤが、飲酒運航の防止措置が不十分で、先行するトリヨシを無難に追い抜いた直後、同船の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 C受審人は、北海道芦別市滝里ダム貯水池湖畔のキャンプ場において、通常以上の飲酒をしたのち、トムソーヤに乗り込もうとした場合、すでに酔っていて注意力が散漫となっていたのであるから、発航を取りやめるなどの飲酒運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、少し沖に出て小用を足すだけなので問題あるまいと思い、飲酒運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、発航して小用を足したのち、係留地点に向け航行中、トリヨシを追い抜く態勢となった際、同船の前方でスラロームすることを思い立ち、同船の前路に進出して衝突を招き、トリヨシを転覆させて同船の左舷船首部に擦過傷を、トムソーヤのハンドル部等に数箇所の損傷をそれぞれ生じさせるとともに、トリヨシの乗船者1人を溺死させ、自身も長期間の加療を要する右肩鎖関節脱臼、右気胸を負うに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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