(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月8日13時10分
北海道落石岬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第11釧洋丸 |
作業船真壁海皇 |
総トン数 |
19トン |
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全長 |
13.85メートル |
50.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,059キロワット |
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船種船名 |
漁船第八宝春丸 |
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総トン数 |
9.7トン |
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全長 |
18.40メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
470キロワット |
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3 事実の経過
第11釧洋丸(以下「釧洋丸」という。)は、2機2軸の鋼製押船兼作業船で、A受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか2人が乗り組み、その船首部を、作業員4人が乗船して魚礁32個を積載した非自航の浚渫船兼起重機船真壁海皇(以下「海皇」という。)の船尾部に嵌合して油圧装置で固定のうえ、全長約58メートルの押船列(以下「釧洋丸押船列」という。)とし、魚礁投入の目的で、船首1.0メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成14年8月8日07時00分北海道落石漁港を発し、同港南南東方7海里ばかりの魚礁投入区域に向かった。
08時30分A受審人は、前示区域に至って魚礁の投入に取りかかり、11時50分投入を終えて帰途に就くこととし、海皇のマストに黄色回転灯を点灯したうえ、12時10分落石岬灯台から156度(真方位、以下同じ。)6.5海里の地点を発進し、針路を349度に定め、機関を全速力前進にかけて6.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、単独の船橋当直に就いて自動操舵により進行した。
12時40分A受審人は、落石岬灯台から145度3.6海里の地点に至ったとき、霧により視界が制限された状態となり、その後徐々に視程が狭まる中、霧中信号を行わず、また、安全な速力に減ずることも、法定灯火を表示することもしないで続航した。
13時06分少し前A受審人は、視程が150メートルに狭められるようになったとき、1海里レンジとしたレーダーで右舷船首16度1.0海里のところに、南下する第八宝春丸(以下「宝春丸」という。)の映像を初めて探知し、同時06分落石岬灯台から102.5度1.6海里の地点に達したとき、同映像が方位に変化のないままわずかに接近したので、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知ったが、自船の左舷方の陸岸沿いには定置網が設置されていたことから、宝春丸がそのうち沖に向け左転して右舷側を航過するものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止することなく、その後汽笛による注意喚起信号を行いながら進行した。
A受審人は、宝春丸のレーダー映像にほとんど方位変化がなかったものの、なおも同船の左転を期待して続航中、13時09分半少し過ぎ同映像が右舷船首至近に迫り、危険を感じて右舵一杯とし、機関を後進としたが及ばず、13時10分落石岬灯台から088度1.5海里の地点において、釧洋丸押船列は、原針路のまま約2ノットの速力となったとき、海皇の右舷船首部に宝春丸の船首部が、前方から28度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視程は150メートルであった。
また、宝春丸は、さんま棒受網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(平成2年3月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同日12時10分北海道花咲港を発し、落石岬南方36海里沖合の漁場に向かった。
B受審人は、発航時から法定灯火を表示して単独の船橋当直に就き、12時25分花咲港の外防波堤を航過したころから霧により視界が制限された状態となったが、霧中信号を行わずに南下した。
12時49分少し前B受審人は、緩島灯台から275度1.0海里の地点に達したとき、針路を197度に定めて自動操舵とし、視程が150メートルに狭められる中、安全な速力とすることなく、機関を半速力前進にかけて8.5ノットの速力で進行した。
定針したときB受審人は、レーダーで左舷船首12度約5海里に北上する釧洋丸押船列の映像を初めて探知したが、一瞥しただけで左舷側を航過するように見えたことから、その後レーダーから離れ、操業日誌を整理することを思い立って、GPSプロッタから過去の船位記録を読み取り、操業日誌に記入する作業を始めた。
13時06分B受審人は、落石岬灯台から070.5度1.8海里の地点に至ったとき、釧洋丸押船列が左舷船首12度1.0海里となり、同押船列と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、左舷側を航過するものと思い、レーダーによる釧洋丸押船列の動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行した。
B受審人は、操舵室の窓及びドアを閉め切って操業日誌の整理作業を続け、釧洋丸押船列が発する注意喚起信号に気付かずに続航中、宝春丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、釧洋丸押船列は、海皇の右舷船首部に凹損を生じ、宝春丸は、船首部を圧壊したが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、霧により視界が制限された北海道落石岬沖合において、北上する釧洋丸押船列が、霧中信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーにより前路に探知した宝春丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、南下する宝春丸が、霧中信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーによる動静監視不十分で、釧洋丸押船列と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、霧により視界が制限された北海道落石岬沖合を北上中、レーダーにより右舷船首方に宝春丸の映像を認め、同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを知った場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船左舷方の陸岸沿いには定置網が設置されていたことから、宝春丸がそのうち沖に向け左転して右舷側を航過するものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、宝春丸との衝突を招き、海皇の船首部に凹損を生じさせ、宝春丸の船首部を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、霧により視界が制限された北海道落石岬沖合を南下中、レーダーにより左舷船首方に釧洋丸押船列の映像を探知した場合、同押船列と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥しただけで左舷側を航過するものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、釧洋丸押船列と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して同押船列との衝突を招き、前示のとおり海皇及び宝春丸に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。