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平成15年長審第28号
件名

プレジャーボート遊海班IIプレジャーボート猪鹿蝶衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年7月25日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(原 清澄)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:遊海班II船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:猪鹿蝶船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
遊海班II・・・前部船底に擦過傷
猪鹿蝶・・・・後部シート脱落等
同乗者1人が脳挫傷、肋骨骨折及び腰椎突起骨折

原因
遊海班II・・・動静監視不十分、船員の常務(急発進)不遵守(主因)
猪鹿蝶・・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、遊海班IIが、動静監視不十分で、漂泊中の猪鹿蝶に向けて急発進したことによって発生したが、猪鹿蝶が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月30日14時20分
 伊万里港港内
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート遊海班II プレジャーボート猪鹿蝶
登録長 2.70メートル 2.64メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 106キロワット 88キロワット

3 事実の経過
 遊海班IIは、航行区域を限定沿海区域とする3人乗りのFRP製水上オートバイで、一級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、船首尾とも0.2メートルの等喫水をもって、マリンレジャーを終えて帰途に就くため、平成15年3月30日14時19分03秒伊万里港福田地区イマリンビーチの沖合35メートルばかりの地点を発進し、長崎県のつばきマリーナに向かった。
 ところで、A受審人は、発進するにあたり、同乗者が海に来たのが初めてであったことから、同人に水上オートバイの操縦を経験させようと思い、機関のスロットルレバーを放せば自然と停止回転に戻ることなどの操縦方法を教えたのち、同乗者を前部座席に座らせ、自らは後部座席に移動して同人に操縦させることにした。
 同乗者は、針路を206度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を8.1ノットの対地速力(以下「速力」という。)にかけて発進し、14時19分23秒福田防波堤北端(以下「防波堤」という。)から072度265メートルの地点に達したとき、針路を佐賀県道切島南端沖合に向首する305度に転じて進行した。
 A受審人は、同乗者が無資格者であったが、発進時、先行した仲間の水上オートバイである猪鹿蝶が自船の前方17メートルのところを航行しており、その後、同船を左舷方に見ることなく航行していたので、同船と著しく接近することはあるまいと思い、猪鹿蝶に対する動静監視を十分に行い、必要に応じて自ら操縦するなどの安全航行に対する配慮を十分に払うことなく、同乗者に操縦を任せていた。
 14時19分31秒同乗者は、防波堤から066度245メートルの地点に達したとき、猪鹿蝶を右舷船首41度6メートルばかりに見る状態まで接近したが、その後、同船とは徐々に離れて行く状況であったところから、そのまま続航し、同分46秒防波堤から051.5度220メートルの地点に至り、同船が左転して自船の前路に進出してくるのを認め、機関をアイドリング運転として同船が左舷方に替わるのを待った。
 A受審人は、猪鹿蝶に対する動静監視を十分に行っていなかったので、同船が速力を上げたことも、針路を左方に転じたことも、更に14時19分50秒前路で漂泊を始めたことにも気付かなかった。
 14時19分56秒同乗者は、3.5ノットの低速力で進行中、防波堤から049度215メートルの地点に達したとき、A受審人から突然「ちょっと待て。」と言われたことに驚き、操縦ハンドルを強く握りしめて遊海班IIを急発進させ、速力が14.6ノットとなって船首部が浮上した状態で、船首が270度を向いたとき、14時20分防波堤から042度200メートルの地点において、その船首が、180度に向首して漂泊中の猪鹿蝶の左舷船尾に直角に衝突し、乗り切った。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 A受審人は、急発進したため、後方に転倒して自らの体勢を立て直すことができず、自ら操縦が行えないまま衝突し、事後の処置にあたった。
 また、猪鹿蝶は、航行区域を限定沿海区域とする3人乗りのFRP製水上オートバイで、四級小型船舶操縦士免許を有するB受審人が1人で乗り組み、同乗者2人を乗せ、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、マリンレジャーを終えて帰途に就くため、同日14時18分57秒伊万里港福田地区イマリンビーチの沖合35メートルばかりの地点を発し、長崎県のつばきマリーナに向かった。
 B受審人は、発進するにあたり、同人の前と後ろに同乗者を座らせ、自ら操縦にあたることとし、針路を206度に定め、機関を5.4ノットの速力にかけて進行した。
 14時19分17秒B受審人は、防波堤から070度275メートルの地点に達したとき、道切島と防波堤との間の同島寄りを航行する予定で、針路を289度に転じて続航し、同分31秒防波堤から064.5度245メートルの地点に至り、非常停止用バンドを付け替えることを思い出し、後方を振り返って6メートルばかり後方を遊海班IIが追走しているのを確認したのち、針路を更に右に転じて砂浜に向く318度とし、速力を10.8ノットに上げて進行した。
 14時19分40秒B受審人は、防波堤から053度235メートルの地点に達したとき、低潮のため道切島とイマリンビーチの砂浜が繋がったように海底が干上がり、岩に付着したフジツボなどが見えていたことから、後方から追走する遊海班IIの動静を十分に監視することなく、これらに接近しないよう徐々に左転を始めた。
 14時19分50秒B受審人は、船首が南西方を向いた状態で、衝突地点に至り、機関を停止して非常停止用バンドの付替え作業を再開したが、依然として遊海班IIの動静監視を十分に行っていなかったので、接近する同船に気付かず、何ら衝突を避けるための措置をとらないまま作業を続け、風潮流の影響を受けて船首が180度を向いていたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、遊海班IIは、前部船底に擦過傷を生じ、猪鹿蝶は、後部シート脱落等を生じたが、のちいずれも修理された。また、猪鹿蝶の最後部の同乗者は、脳挫傷、肋骨骨折及び腰椎突起骨折などを負ったが、のち入院加療して完治した。

(原因)
 本件衝突は、伊万里港港内において、遊海班IIが、動静監視不十分で、漂泊中の猪鹿蝶に向けて急発進したことによって発生したが、猪鹿蝶が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、伊万里港港内において、無資格者に水上オートバイの操縦を体験させる場合、必要に応じて自ら操縦するなどの安全航行に対する配慮を十分に払えるよう、猪鹿蝶の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同船を左舷方に見ることなく航行していたので、同船と著しく接近することはあるまいと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、左転して自船の前路で漂泊を始めた猪鹿蝶に気付かず、同乗者を驚かせて自船を急発進させ、猪鹿蝶との衝突を招き、自船の前部船底に擦過傷を、猪鹿蝶に後部シート脱落等の損傷を生じさせ、猪鹿蝶の同乗者に脳挫傷、肋骨骨折及び腰椎突起骨折などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、伊万里港港内において、漂泊して非常停止用バンドの付替え作業を行う場合、自船に著しく接近する態勢の遊海班IIを見落とすことのないよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、自船が砂浜に向ける針路を採っていたので、遊海班IIとは十分に離れ、安全なところにいるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、遊海班IIの前路で漂泊して非常停止用バンドの付替え作業を再び始め、衝突のおそれのある態勢で接近する同船に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自船の同乗者を負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 


参考図
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