(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年4月14日11時42分
長崎県黒島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート雲竜 |
漁船富久丸 |
総トン数 |
4.95トン |
3.76トン |
全長 |
13.40メートル |
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登録長 |
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9.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
279キロワット |
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漁船法馬力数 |
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50 |
3 事実の経過
雲竜は、FRP製プレジャーボートで、一級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、釣りを行う目的で、船首0.15メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成14年4月14日08時00分佐賀県東松浦郡肥前町星賀を発し、長崎県黒島北方沖合の釣り場に向かった。
08時40分A受審人は、貝瀬灯台から273度(真方位、以下同じ。)1.1海里の釣り場に至り、先発して釣りをしていた他の1隻と合流して釣りを行い、その後、同乗者が先発組と一緒に釣ることを希望したので、同人を同船に移乗させた。
A受審人は、そのころあまり釣果がなかったことから、1人で新たな釣り場を探すこととし、11時36分針路を黒島の北北西方6.5海里の釣具店から聞いた釣りポイントに向く336度に定め、機関を全速力前進にかけて14.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、手動操舵により前示釣り場を発進した。
11時38分半A受審人は、貝瀬灯台から292.5度1.5海里の地点に達したとき、左舷船首9度1,300メートルのところに、北東進中の富久丸を視認でき、直進すれば同船とは無難に航過する態勢にあったが、そのころ佐賀県向島の西方海域に5隻ばかりの漁船群が漂泊などして操業しているのを認めたので、同漁船群付近で釣りポイントを探すことにし、発進時の行き先を変更するかどうか迷いながら続航した。
11時39分半A受審人は、貝瀬灯台から298.5度1.6海里の地点で、漁船群の動向が気になって船首方から左舷方の見張りを十分に行なわず、富久丸の存在に気付かないまま、舵をわずか右にとって右転を始め、同船と新たな衝突の危険を生じさせた状態で、徐々に右転しながら進行した。
11時40分A受審人は、右舷前方680メートルのところに富久丸を視認でき、同船と著しく接近する状況となったが、依然として右舷方の漁船群に気をとられ、このことに気付かず、更に右転するなどの衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
雲竜は、A受審人が富久丸に気付かないまま原速力で右転中、11時42分貝瀬灯台から315度1.9海里の地点において、自船より速力の遅い同船に著しく接近し、船首が馬渡島に向く020度となったとき、その左舷船首部が富久丸の右舷後部に後方から37度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、視界は良好であった。
また、富久丸は、昭和44年11月に進水した木製漁船で、二級小型船舶操縦士(5トン限定)免許を有するB受審人が1人で乗り組み、桜鯛の一本釣り漁を行う目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成14年4月10日07時00分佐賀県呼子漁港を発し、長崎県宇久島東方沖合の漁場に至って操業を行い、越えて14日06時55分長崎県平漁港を発進して帰途に就いた。
10時34分B受審人は、肥前横島灯台から100度2.6海里の地点に達したとき、針路を波戸岬灯台にほぼ向首する057度に定め、機関を全速力前進にかけて7.0ノットの速力とし、手動操舵により進行した。
11時35分ごろB受審人は、黒島の北岸沖合に漂泊する釣り船を視認したものの、自船とは全く関係のない存在と思い、その後の同船の動静監視を行わないまま続航し、同時38分半貝瀬灯台から303.5度2.1海里の地点に達したとき、右舷正横1,300メートルのところに、北上中の雲竜を視認することができたものの、同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かずに続航した。
11時40分B受審人は、貝瀬灯台から309.5度2.0海里の地点に達したとき、右舷正横後680メートルまで接近した雲竜を視認することができたが、依然としてこのことに気付かず、左転するなどの衝突を避けるための措置をとることなく進行中、同時42分わずか前ふと後方に目を転じたとき、至近に迫った雲竜を視認したが、なすすべもなく、富久丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、雲竜は、左舷船首外板に擦過傷を生じ、富久丸は、船橋及び右舷中央部外板を圧壊し、廃船とされた。
(原因)
本件衝突は、長崎県黒島北方沖合において、北上中の雲竜が、釣り場に向けて針路を右に転じる際、見張り不十分で、無難に航過する態勢の富久丸に対して新たな衝突の危険を生じさせたばかりか、更に右舵をとるなどの衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、北東進中の富久丸が、動静監視不十分で、左転するなどの衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県黒島沖合において、釣り場に向けて北上中、針路を右に転じる場合、北東進する富久丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷方の漁船群に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、富久丸に気付かないまま舵をわずかに右にとり、無難に航過する態勢の同船と新たな衝突の危険を発生させたばかりか、更に右転するなどの衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、自船の左舷船首外板に擦過傷を生じさせ、富久丸の船橋及び右舷中央部外板を圧壊し、廃船とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県黒島北方沖合を漁場から帰港中、同島沖合で停泊中の雲竜を視認した場合、その後の同船の動向を把握できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、雲竜が自船にとって全く関係のない存在と思い、その後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、接近する雲竜に気付かず、左転するなどの衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。