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平成15年長審第15号
件名

プレジャーボート哲丸プレジャーボートじなんぼう丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年7月10日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(清重隆彦、原 清澄、寺戸和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:哲丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:じなんぼう丸同乗者 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
哲 丸・・・・・・右舷中央部に破損
同乗者1人が右下腿打撲傷
じなんぼう丸・・・船首外板に亀裂
船長が右大腿部打撲傷

原因
哲 丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
じなんぼう丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

主文

 本件衝突は、霧のため著しく視界が制限された状況下、レーダー及び有効な音響設備を備えていなかった哲丸が、出航を見合わせなかったことと、コンパス、レーダー及び有効な音響設備を備えていなかったじなんぼう丸が、出航を見合わせなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月5日08時15分
 長崎県島原新港東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート哲丸 プレジャーボートじなんぼう丸
登録長 7.49メートル 6.71メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 58キロワット 47キロワット

3 事実の経過
 哲丸は、FRP製プレジャーボートで、四級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.15メートル船尾0.90メートルの喫水をもって、平成14年5月5日06時00分福岡県大牟田港堂面川の係留地を発し、長崎県島原新港東方沖合の釣り場に向かった。
 これより先、A受審人は、今まで経験したことのない濃い霧のため著しく視界が制限され、視程約100メートルであったうえ、哲丸はレーダー及び有効な音響設備を備えていなかったが、そのうち霧が晴れるものと思い、出航を見合わせなかった。
 A受審人は、発航後、9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により南下し、07時50分ごろ島原新港南防波堤灯台(以下「新港防波堤灯台」という。)から067度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点で停留して試し釣りを行い、釣果がなかったのでゆっくり南進し、08時05分新港防波堤灯台から070度2.7海里の地点で、機関を停止回転としてスパンカを掲げ、漂泊を開始して霧中信号を行わないまま遊漁を始めた。
 08時15分少し前A受審人は、285度に向首していたとき、右舷正横100メートルのところに、自船に向かって接近するじなんぼう丸の船首を初めて認め、釣り情報を得るために接近してくる船と思い、機関を操作して衝突を避けるための措置をとらずに数秒静観していた。
 哲丸は、285度に向首して漂泊中、08時15分新港防波堤灯台から070度2.7海里の地点において、その右舷中央部に、じなんぼう丸の船首が前方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近海上に濃霧注意報が発表され、視程は約100メートルであった。
 また、じなんぼう丸は、FRP製プレジャーボートで、四級小型船舶操縦士免許を有する船長S(昭和18年11月24日生、平成14年9月30日死亡)が1人で乗り組み、同免許を有するB受審人ほか1人を同乗させ、遊漁の目的で、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日06時00分大牟田港大牟田川の係留地を発し、熊本県三角ノ瀬戸沖合の釣り場に向かった。
 ところで、じなんぼう丸は、名義上の船舶所有者はFとなっていたが、B受審人ほか2人がそれぞれ出資して共同購入したもので、この3人が船舶所有者及び管理者の立場にあった。そして、B受審人は、年に数回、じなんぼう丸で遊漁に出かけたことがあったが、1人で出かけることはなく、S船長など操縦歴が長く、釣り場に関する知識が豊富な知人と同乗し、その知人が指揮役を務めることになり、同受審人は船の運航を全面的に彼らに任せていた。
 一方、S船長は、プレジャーボートを所有し、操縦歴が長く、じなんぼう丸で遊漁に出かけるときには、船長として指揮役を務めることが常であった。
 S船長は、発航時から濃い霧のため著しく視界が制限され、視程約100メートルであったうえ、じなんぼう丸はコンパス、レーダー及び有効な音響設備を備えていなかったが、出航を見合わせなかった。
 発航後、S船長は、機関をほぼ全速力前進に掛けて15.0ノットの速力で、GPSプロッタの船首輝線で進行方向を確認しながら、手動操舵で進行し、07時10分ごろ島原新港北東方沖合で停留して全員で遊魚を始めたものの、釣果が思わしくなかったので、当初の目的地だった三角ノ瀬戸沖合に向かうこととし、08時08分新港防波堤灯台から046度3.8海里の地点を発進し、針路を185度に定め、15.0ノットの速力で、霧中信号を行わないまま、手動操舵で南下した。
 B受審人は、発進後、操縦席の右側に立ち、目視による見張りに当たっていた。
 じなんぼう丸は、同じ針路及び速力で続航中、08時15分少し前B受審人が正船首至近に哲丸を初めて視認し、同人が上げた声を聞いたS船長が減速措置をとったが及ばず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、哲丸は、右舷中央部に破損を、じなんぼう丸は、船首外板に亀裂などをそれぞれ生じたが、のち修理された。また、A受審人が右大腿部打撲傷などを、哲丸の同乗者が右下腿打撲傷などを、じなんぼう丸の同乗者が頭部打撲傷などをそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、濃い霧で著しく視界が制限され、視程約100メートルの福岡県大牟田港において、哲丸が、遊漁の目的で出航する際、レーダー及び有効な音響設備を備えていなかったが、出航を見合わせず、釣り場に至って霧中信号を行わないまま漂泊して遊漁を行ったことと、じなんぼう丸が、遊漁の目的で出航する際、コンパス、レーダー及び有効な音響設備を備えていなかったが、出航を見合わせず、釣り場に向かって霧中信号を行わないまま進行したこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、濃い霧で著しく視界が制限され、視程約100メートルの福岡県大牟田港において、遊漁のため出航する場合、レーダー及び有効な音響設備を備えていなかったのであるから、出航を見合わせるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち霧が晴れるものと思い、出航を見合わせなかった職務上の過失により、釣り場に至って漂泊し、霧中信号を行わないまま遊漁中、じなんぼう丸との衝突を招き、自船の右舷中央部に破損を、じなんぼう丸の船首外板に亀裂などをそれぞれ生じさせ、自身が右大腿部打撲傷などを負い、同乗者に右下腿打撲傷などを、じなんぼう丸の同乗者に頭部打撲傷などをそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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