(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月24日06時40分
熊本県三角港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船福栄丸 |
漁船恵比須丸 |
総トン数 |
3.52トン |
0.9トン |
登録長 |
8.50メートル |
5.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
70 |
25 |
3 事実の経過
福栄丸は、FRP製漁船で、一級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み、一本釣り漁の目的で、船首0.47メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成14年10月24日06時10分熊本県串漁港を発し、同県蔵々ノ瀬戸沖合の漁場に向かった。
発航後、A受審人は、船首方に約10度の船首浮上による死角があることを知っていたので、眼高を高くしてその死角を補うため、甲板上1メートルばかりの高さの渡し板の上に立ち、足で舵柄を操作して進行し、熊本県三角ノ瀬戸に大瀬戸から入り、06時31分半三角灯台から063度(真方位、以下同じ。)100メートルの地点で、針路を136度に定め、機関回転数を毎分2,000として対水速力(以下「速力」という。)9.0ノットで、折からの2.5ノットの上げ潮流に抗して続航した。
A受審人は、三角ノ瀬戸を南下するにつれて漸減する潮流に抗して同じ針路で進行し、06時34分速力を7.0ノットに減じ、前方に他船が存在しないことを確認して甲板上に降り、舵柄を股に挟んで船首わずか右方に見るウシコロビ鼻を操舵目標とし、操業準備をしながら続航した。
福栄丸は、06時37分ごろから潮流の影響をほとんど受けなくなり、A受審人は、同時37分半少し過ぎ三角灯台から131度1,230メートルの地点に達したとき、正船首500メートルのところに、恵比須丸が存在し、同船が漂泊していることを認め得る状況であったが、渡し板から甲板上に降りるとき、前方に他船を認めなかったので、前路に他船はいないものと思い、渡し板の上に立つなどして死角を補う見張りを十分に行うことなく、操業準備を続けていたので、同船の存在に気付かなかった。
福栄丸は、恵比須丸と衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船を避けずに進行中、06時40分三角灯台から132度1,740メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が恵比須丸の右舷中央部に後方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、潮流はほとんどなかった。
また、恵比須丸は、有効な音響設備を備えていないFRP製漁船で、四級小型船舶操縦士免許を有するB受審人が1人で乗り組み、一本釣り漁の目的で、船首0.36メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同日06時20分熊本県三角港松ヶ埼の係留地を発し、同港白瀬北方の漁場に向かった。
B受審人は、06時34分ウシコロビ鼻沖合の前示衝突地点付近に至り、機関を停止回転として漂泊し、前部甲板右舷側最前部で、箱に腰を掛けて船尾方を向き、左手で釣り糸を操り、足で機関遠隔操作レバーを操作するとともに長い舵柄を操作しながら餌用の小鰯を釣り始め、同時37分半少し過ぎ船首が221度に向いていたとき、右舷船尾85度500メートルのところに、自船に向首接近する福栄丸を初めて認め、同時39分半同船が衝突のおそれがある態勢で、避航の気配がないまま110メートルまで接近したが、同船が自船を避けるものと思い、速やかに機関を使用するなどして、衝突を避けるための措置をとらなかった。
恵比須丸は、221度に向首して漂泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福栄丸は損傷がなく、恵比須丸は右舷中央部外板を破損したがのち修理された。また、B受審人は左大腿骨骨折などを負った。
(原因)
本件衝突は、熊本県三角港において、漁場に向け航行中の福栄丸が、見張り不十分で、前路で漂泊して漁ろうに従事中の恵比須丸を避けなかったことによって発生したが、恵比須丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、熊本県三角港において、漁場に向け航行する場合、船首方に船首浮上による死角があることを知っていたのであるから、前路で漂泊して漁ろうに従事中の恵比須丸を見落とすことのないよう、渡し板の上に立つなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、渡し板から甲板上に降りるとき、前方に他船を認めなかったので、前路に他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、恵比須丸の存在に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、同船の右舷中央部外板に破損を生じさせ、B受審人に左大腿骨骨折などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、熊本県三角港において、漂泊して一本釣り漁に従事中、衝突のおそれがある態勢で、避航の気配がないまま接近する福栄丸を認めた場合、速やかに機関を使用するなどして、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、漂泊中の自船を福栄丸が避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。