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平成15年門審第13号
件名

漁船第二十三福寿丸漁船中傳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年7月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小寺俊秋、西村敏和、橋本 學)

理事官
半間俊士

受審人
A 職名:第二十三福寿丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:中傳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
福寿丸・・・球状船首に塗料剥離
中傳丸・・・左舷側中央部外板に破口

原因
福寿丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、第二十三福寿丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊中の中傳丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月7日05時20分
 対馬海峡
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十三福寿丸 漁船中傳丸
総トン数 75トン 19.92トン
登録長 27.05メートル 16.1メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 511キロワット
漁船法馬力数   140

3 事実の経過
 第二十三福寿丸(以下「福寿丸」という。)は、主に沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人及び漁ろう長ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首1.6メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成14年1月5日20時00分山口県下関漁港を発し、対馬上島北東方沖合約40海里の漁場に向かった。
 翌6日00時00分ごろA受審人は、前示漁場に至り、自船が曳網(えいもう)針路等を決める主船の役割を担い、右舷側約550メートルに僚船を従船として伴って、主船と従船にそれぞれ積み込んだ漁網を交互に使用する操業形態で、二艘びき(にそうびき)底びき網漁を開始した。
 ところで、A受審人は、漁場を移動しながら、一網約2時間30分の操業を、昼夜を問わずに1日6回程度行っていたが、その間、操業中や移動中の操船を漁ろう長と交代で分担しており、従船の漁網を使用しているときには、自らが単独で船橋当直に当たり、主船の漁網を使用しているときには、休息して睡眠を取ることとしていたので、1日6時間ほどの睡眠は取れたものの、1回が2時間程度の断続した睡眠時間であったことから、睡眠不足の状態であった。
 A受審人は、翌々7日03時30分北緯34度59分東経130度16分の地点で漁ろう長から船橋当直を引き継ぎ、トロールにより漁ろうに従事している船舶が掲げる灯火を表示し、舵輪後方に置いたいすに寄り掛かった姿勢で、魚群探知機や16海里レンジとしていたレーダーを監視しながら南下したのち、04時30分北緯34度56.2分東経130度15.7分の地点に至ったとき、右転して針路を270度に定め、機関を回転数毎分620にかけ、3.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵により進行した。
 定針したときA受審人は、船首方約4海里付近に5隻ばかりの錨泊船らしいレーダー映像を認めたが、取り立てて航行の支障となる状況でなかったことから、そのまま曳網を続けた。
 そして、04時50分ごろA受審人は、北緯34度56.2分東経130度14.5分付近で、漁ろう長を除く乗組員全員に漁獲物の選別作業を行わせ、いすに寄り掛かった姿勢でいたところ、前示睡眠不足に起因して眠気を催したものの、これまで、一時我慢すれば眠気が去って船橋当直を維持できていたことから、平素どおり我慢していれば居眠りに陥ることはあるまいと思い、乗組員の1人を昇橋させて2人当直にするなど、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったので、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、A受審人は、05時00分正船首1海里に、錨泊中の中傳丸が表示する停泊灯と2灯の赤色回転灯を視認することができ、その後、衝突のおそれがある態勢で同船に接近する状況となったが、居眠りに陥っていてこのことに気付かず、同船を避けないまま同じ針路、速力で続航中、05時20分北緯34度56.2分東経130度12.6分の地点において、福寿丸の船首が中傳丸の左舷側中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、視界は良好であった。
 また、中傳丸は、主にはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、平成12年8月に交付された一級小型船舶操縦士の免状を有するB受審人ほか1人が乗り組み、ふぐはえ縄漁の目的で、船首1.5メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、同13年12月29日09時00分山口県萩漁港越ヶ浜地区を発し、対馬上島東方沖合の漁場に向かい、翌30日03時00分同漁場に到着したが、荒天のため一旦(いったん)同島東方沖合29海里付近で錨泊待機したのち、31日早朝から操業を開始した。
 ところで、中傳丸が従事するふぐはえ縄漁は、一航海が約15日間で、早朝06時から長さ約18キロメートルのはえ縄を1時間ばかりかけて投縄し、08時ごろから17時ごろまでかかって揚縄したのち、夜間には操業海域付近に錨泊のうえ休息する操業形態を連日繰り返すものであった。
 越えて同14年1月6日18時00分B受審人は、対馬上島北東方沖合約40海里付近でその日の操業を終え、重さ120キログラムの錨を、直径36ミリメートルの化学繊維索600メートルを錨索として取り付けて船首から投入し、同索を400メートル延出して、僚船数隻と共に水深約120メートルの衝突地点付近に錨泊した。
 B受審人は、日中の連続操業による疲労があったうえ、前示錨地付近が広い海域であって航行船舶が少なく、錨泊中に他船が著しく接近した経験もなかったことから夜間に停泊当直を行わなかったが、錨泊に先立ち、僚船から付近海域に底びき網漁の漁船が出漁している旨の情報を得ていたため、停泊灯1灯に加え、2灯の赤色回転灯を、船体中央付近の操舵室上と後部マスト上とにそれぞれ表示した。
 B受審人は、平素から、乗組員を船室で休ませ、自身はほぼ2時間ごとに周囲の見張り等を行い、それ以外の時間は操舵室後部のベッドで仮眠を取るのが常であったので、当日も同様にして周囲の安全を確認しながら、折からの南風で180度に向首して錨泊中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、福寿丸は、球状船首に塗料剥離(はくり)を生じただけであったが、中傳丸は、左舷側中央部外板に破口、甲板上構造物に損壊をそれぞれ生じ、のち、修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、長崎県対馬上島北東方沖合において、二艘びき底びき網漁に従事中の福寿丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊中の中傳丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県対馬上島北東方沖合において、単独で船橋当直に当たり二艘びき底びき網漁に従事中、眠気を催した場合、睡眠時間が断続的で睡眠不足となっていたから、居眠り運航にならないよう、漁獲物の選別作業をしていた乗組員の1人を昇橋させて2人当直にするなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、これまで、一時我慢すれば眠気が去って船橋当直を維持できていたことから、平素どおり我慢していれば居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いすに寄り掛かった姿勢のままいつしか居眠りに陥り、錨泊中の中傳丸を避けることなく進行して同船との衝突を招き、福寿丸の球状船首に塗料剥離を、中傳丸の左舷側中央部外板に破口と、甲板上構造物に損壊とを、それぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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