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平成15年門審第18号
件名

貨物船第八大洋丸貨物船シャン リャン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年7月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、橋本 學、小寺俊秋)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第八大洋丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:シャン リャン水先人 水先免許:博多水先区

損害
大洋丸・・・左舷中央部に破口を伴う凹損
シ 号・・・船首部に破口を伴う凹損

原因
大洋丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
シ 号・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

主文

 本件衝突は、第八大洋丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、シャン リャンが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月5日08時01分
 博多港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八大洋丸 貨物船シャン リャン
総トン数 199トン 4,966.00トン
全長 55.87メートル 106.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 2,609キロワット

3 事実の経過
 第八大洋丸(以下「大洋丸」という。)は、飼料等のばら積み貨物輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、とうもろこし700トンを積み、船首2.60メートル船尾3.85メートルの喫水をもって、平成14年5月5日07時20分博多港第1区長浜船だまりを発し、鹿児島県米ノ津港に向かった。
 A受審人は、発航後単独の船橋当直に就いて操船に当たり、博多港中央航路(以下「中央航路」という。)の南方外側を同航路に沿って出航することとし、07時34分博多港西防波堤南灯台から189度(真方位、以下同じ。)70メートルの地点で、針路を305度に定め、機関を回転数毎分320の港内全速力前進にかけ、8.1ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操舵スタンドの後方に立ち、手動操舵によって進行した。
 07時53分半A受審人は、残島灯台から103度1.59海里の地点に至ったとき、前路約700メートルに霧堤が存在する視界制限状態になったが、前方に乳白色を呈した霧がかかっているものの、明るかったので、接近する他船がいれば肉眼で認めることができるものと思い、安全な速力にすることも、霧中信号を行うことも、また、法定灯火を点灯することもせず、操舵スタンドの左舷側に設置されたレーダーを時々見ながら、打合せのため間もなく昇橋して左舷ウイングに出た機関長とともに、周囲の見張りに当たって続航した。
 07時56分A受審人は、残島灯台から097.5度1.27海里の地点に達し、霧堤に進入して視程が約300メートルの視界制限状態になったとき、左舷船首9度1.06海里のところに、中央航路に向けて入航中のシャン リャン(以下「シ号」という。)がおり、このまま進行すると同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、時々レーダー画面を見てはいたものの、視界制限状態のもとで航行する船舶はいないものと思い、レーダーによる周囲の見張りを十分に行うことなく、シ号に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもせず、同じ針路、速力のまま進行した。
 07時58分半A受審人は、残島灯台から091.5度1,820メートルの地点に至ったとき、シ号が左舷船首5度800メートルのところに接近したが、依然、レーダーによる周囲の見張りが不十分で、同船に気付かないまま、視界制限状態のもとでの続航が危険と考え、検疫錨地に錨泊している船舶と中央航路とから離れたところで錨泊することとし、機関を回転数毎分220の極微速力前進まで徐々に下げ始めるとともに、右舵7度をとって回頭しながら進行した。
 08時00分A受審人は、残島灯台から084度1,750メートルの地点に達し、船首が349度に向き、3.6ノットの速力になったとき、シ号が左舷船首45度300メートルに接近したことに気付かないまま、機関を中立として惰力で進行し始めた。このとき、機関音の変化に気付いて錨泊することを予想した機関長は、船位を確認しようと操舵室に入り、0.5海里レンジに設定したレーダー画面にシ号の映像を認め、驚いてA受審人に報告した。
 08時01分少し前A受審人は、機関長からレーダー映像の報告を受けて左舷船首方を見たところ、間近にシ号の右舷船首部を初めて認め、慌てて右舵40度にとって機関を全速力後進にかけ、汽笛で長音1回を吹鳴したが、間に合わず、08時01分残島灯台から080度1,750メートルの地点において、大洋丸は、船首が015度を向き、速力が2.0ノットになったとき、その左舷中央部に、シ号の船首が前方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視程は約300メートルであった。
 また、シ号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、中華人民共和国の国籍を有する船長Tほか同国籍の19人が乗り組み、コンテナ貨物1,225トンを積み、船首3.90メートル船尾5.70メートルの喫水をもって、同月2日12時10分(現地時刻)同共和国上海港を発し、関門港門司区に寄港したのち博多港に向かい、同月4日22時00分残島灯台から296度1.38海里の地点に投錨仮泊し、翌5日07時40分抜錨したのち、同時45分に乗船したB受審人のきょう導により、博多港第2区香椎パークポート第4号岸壁に向かった。
 07時48分B受審人は、残島灯台から310度1.08海里の地点で、T船長、三等航海士及び操舵手が在橋のもと、操舵室中央前面に立ってきょう導に当たり、乗船前に香椎パークポートから出航する貨物船と能古島付近で行き会うことになる情報を得ていたことから、同船との船間距離を離すため、針路を115度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、9.0ノットの速力で、操舵手による手動操舵によって進行した。
 定針後間もなく、T船長は、急に視程が霧によって約300メートルに狭められたため、船首配置を令して投錨用意とし、法定灯火を点灯するとともに、霧中信号を始め、1.5海里レンジとしたレーダーの監視に当たった。また、B受審人は、T船長にレーダーレンジを時々3海里に切り換えるよう求めたものの、同船長が頻繁にレーダーを監視していたことから、接近する他船や異状があれば報告があるものと思い、安全な速力にすることなく、時々操舵室中央前面から同室左舷側のレーダー設置位置に移動して一瞥(いちべつ)程度のレーダー監視を行った。
 07時53分半B受審人は、残島灯台から347度650メートルの地点に至ったとき、レーダーにより前示出航貨物船を左舷方約0.5海里に探知し、視界制限状態であったために同船を視認することができなかったものの、同船と無難に航過することとなったことを知り、針路を中央航路への入航針路延長線上に乗せるように096度に転じ、同じ速力で続航した。
 07時56分B受審人は、残島灯台から045度800メートルの地点に達し、漸く(ようやく)視界制限状態のために減速することとし、機関を半速力前進にかけ、7.7ノットの速力に落としたとき、右舷船首20度1.06海里のところに、中央航路の南方外側を同航路に沿って出航中の大洋丸がおり、このまま同航路に向かって進行すると同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、自ら時々レーダー画面を見てはいたものの、同航路西方入口と自船との間を横切る他船はいないものと思い、レーダーによる周囲の見張りを十分に行うことなく、大洋丸に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもせず、同じ針路で進行した。
 07時57分B受審人は、残島灯台から056度970メートルの地点に達したとき、レーダーにより中央航路西方入口に敷設された中央航路第1号、同第2号両灯浮標を探知し、針路を両灯浮標間に敷設された黄色灯付浮標と同第2号灯浮標との間に向く105度に転じ、同じ速力で続航した。
 07時58分半B受審人は、残島灯台から068.5度1,220メートルの地点に至り、大洋丸が右舷船首15度800メートルに接近したとき、T船長から右舷前方に接近する他船がいる旨の報告を受けてレーダー画面を見たものの、検疫錨地に錨泊している船舶の映像や前示黄色灯付浮標と中央航路第2号灯浮標との間に真っ直ぐ向かっているかどうかを確認することに気をとられ、大洋丸の映像を十分に確認しないまま、再び操舵室中央前面に移動して前路の見張りに当たり、同じ針路、速力で続航した。
 08時00分B受審人は、残島灯台から077度1,530メートルの地点に至り、大洋丸が右舷船首19度300メートルに接近したとき、右舷前方を指差したT船長から他船が接近している旨の報告を再度受け、目を凝らして同方向を見たところ、大洋丸の船首波を認め、急いで右舵一杯、機関を停止に引き続いて全速力後進にかけたが、間に合わず、シ号は、船首が115度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大洋丸は左舷中央部に破口を伴う凹損、衝突部位で船体がサギング状に最大61ミリメートルのたわみ及び船首尾線に対して逆くの字状に同30ミリメートルの曲がりを生じ、シ号は船首部に破口を伴う凹損を生じたが、のちそれぞれ修理された。

(原因)
 本件衝突は、霧のため視界制限状態となった博多港において、西行中の大洋丸が、安全な速力にすることも、霧中信号を行うことも、法定灯火を点灯することもせず、レーダーによる見張り不十分で、シ号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、東行中のシ号が、安全な速力にせず、レーダーによる見張り不十分で、大洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、霧のため視界制限状態となった博多港において、出航の目的で西行する場合、東行するシ号を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同状態のもとで航行する船舶はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、シ号と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもせずに進行して衝突を招き、大洋丸の左舷中央部に破口を伴う凹損、船体にたわみ及び曲がりを、シ号の船首部に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、霧のため視界制限状態となった博多港において、シ号をきょう導して入航の目的で東行する場合、西行する大洋丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、中央航路西方入口と自船との間を横切る他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもせずに進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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