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平成15年広審第40号
件名

プレジャーボート多喜丸プレジャーボートおおしま衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年7月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、高橋昭雄、道前洋志)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:多喜丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:おおしま船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
多喜丸・・・・船首部に擦過傷
おおしま・・・左舷中央部外板に破口、沈没
船長と同乗者3人が打撲傷

原因
多喜丸・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
おおしま・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、多喜丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のおおしまを避けなかったことによって発生したが、おおしまが、動静監視不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月8日11時20分
 岡山県六口島西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート多喜丸 プレジャーボートおおしま
登録長 8.54メートル 7.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 77キロワット 72キロワット

3 事実の経過
 多喜丸は、船体中央部やや後方に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人(昭和50年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、同乗者4人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.25メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、平成14年6月8日09時30分岡山県水島港内の係留地を発し、香川県手島の甚平鼻沖合の釣り場を経て、岡山県六口島西方約2海里のガンツガ瀬に至り、適宜機関を使用しながらきす釣りを行った。
 A受審人は、きす十数匹を釣ったところで、トローリングを行うこととし、11時00分六口島灯標から224度(真方位、以下同じ。)2,400メートルの地点で、針路を266度とし、機関を極微速力前進にかけ、折からの東流により2度右方に圧流されながら1.7ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行し、自身は舵輪後方に立って右舷方を向き、また、同乗者は前部甲板で右舷方及び左舷方をそれぞれ向いて釣り竿を持ってトローリングを行ったものの、釣れる気配がなかったので釣り場を移動して再度きす釣りを行うこととし、11時18分同乗者に釣り糸を上げるよう指示し、クラッチを中立にして停船した。
 11時19分少し過ぎA受審人は、六口島灯標から236度3,160メートルの地点で、全員の釣り糸が上がったことを確認し、針路を262度に定め、機関を全速力前進にかけて釣り場の移動を始めるとき、正船首160メートルのところに南方に船首を向けて漂泊しているおおしまを視認することができ、その後、同船と衝突するおそれがある態勢で接近する状況であった。
 ところが、A受審人は、移動を始める10分ほど前に周囲を見たとき他船を見かけなかったことから、前路に支障となる他船はいないものと思い、発進にあたって自ら前路の他船の有無を十分に確かめなかったばかりか、前部甲板にいた同乗者に見張りの補助を行わせるなどして前路の見張りを十分に行わなかったので、おおしまに気付かないまま手動操舵により進行した。
 こうして、A受審人は、移動開始後、釣り場ポイントを確かめようとして操舵室下部に据え付けられたGPSプロッタの画面をのぞき込み、また同乗者も次の釣りの準備をしていたので、漂泊中のおおしまに気付かず、同船を避けないまま増速しながら続航し、11時20分六口島灯標から237度3,280メートルの地点において、多喜丸は、原針路のまま、13.5ノットの速力で、その船首が172度に向首したおおしまの左舷中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風はなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期にあたり、付近には約1ノットの東流があった。
 また、おおしまは、船体ほぼ中央部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人(昭和50年2月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同日09時00分水島港内の係留地を発し、手島北東方沖合の甚平ソワイ及び同島南東方沖合で釣りを行ったのち、11時10分六口島灯標から239度3,560メートルの地点に至って、機関を停止し、船首を南東方に向け、折からの東流により082度の方向に1.0ノットの速力で流されながら漂泊を開始した。
 漂泊を開始したとき、B受審人は、東方870メートルのところに西行する多喜丸を初めて視認し、操舵室後部にある舵輪の後方で右舷方を向き、また、同乗者3人のうち2人は前部甲板及び後部甲板でそれぞれ左舷方を向いてきす釣りを始め、11時15分六口島灯標から238度3,420メートルの地点で、船首が145度を向いて漂泊していたとき、左舷船首60度450メートルのところに自船の船尾方に向けて低速力で近づく多喜丸を認めて、釣りを続けた。
 11時19分少し過ぎB受審人は、潮に流されて六口島灯標から237度3,300メートルの地点に至ったとき、左舷正横方160メートルのところで、いったん停船したのち発進した多喜丸を認めることができ、その後、同船が増速しながら自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、多喜丸が自船の船尾方を替わるものと思い、その動静監視を十分に行わなかったので、これに気付かず、同船に対して避航を促すための有効な音響による信号を行わず、さらに機関を使って移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けた。
 こうして、11時20分わずか前B受審人は、前部甲板で左舷方を向いて釣りをしていた同乗者の叫び声を聞いて後ろを振り向いたところ、左舷正横方至近に迫った多喜丸を認めたが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、多喜丸は船首部に擦過傷を生じ、おおしまは左舷中央部外板に破口を生じて沈没したが、のち引き揚げられ、また、B受審人ほか同乗者3人が打撲傷などを負った。

(原因)
 本件衝突は、岡山県六口島西方沖合において、多喜丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のおおしまを避けなかったことによって発生したが、おおしまが、動静監視不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、岡山県六口島西方沖合において、釣り場を移動する場合、前路で漂泊している他船を見落とすことのないよう、自ら前路の他船の有無を十分に確かめるとともに前部甲板にいる同乗者にも見張りの補助を行わせるなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、移動開始10分ほど前に周囲を見たとき他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、自ら前路の他船の有無を十分に確かめなかったばかりか前部甲板にいる同乗者にも見張りの補助を行わせるなどして前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊しているおおしまに気付かず、同船を避けないまま進行しておおしまとの衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を生じさせ、おおしまの左舷中央部外板に破口を生じて沈没させ、またB受審人ほか同乗者3人に打撲傷などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、岡山県六口島西方沖合において、漂泊して魚釣り中、低速力で自船に近づく多喜丸を視認後も引き続き釣りを行う場合、同船と衝突するおそれがあるかどうかを判断できるよう、多喜丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同船が自船の船尾方を替わるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、多喜丸がいったん停船したのち発進し、増速しながら自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況に気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、機関を使って移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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